肺水腫と胸水の違い

肺水腫と胸水は両方とも肺に関連する病態ですが、水がたまる場所や原因、治療法に重要な違いがあります。なぜこれらの違いを正確に理解することが大切なのでしょうか?

肺水腫と胸水の違い

肺水腫と胸水の基本的な違い
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肺水腫:肺の内部に水がたまる

肺胞の中に体液が漏れ出し、ガス交換が困難になる

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胸水:肺の周囲に水がたまる

胸膜腔(肺と胸壁の間)に液体が貯留する

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症状と治療法も異なる

発症メカニズムの違いにより、対処法が大きく変わる

肺水腫の発生メカニズムと病態生理

肺水腫は肺胞内に血液中の水分成分が漏れ出すことで発生する病態です。この現象は主に肺毛細血管の圧力上昇や血管壁の透過性亢進によって引き起こされます。正常な状態では肺胞は空気で満たされており、酸素と二酸化炭素の効率的な交換が行われていますが、肺水腫が発生すると肺胞が体液で満たされ、ガス交換機能が著しく低下します。
参考)「肺水腫」とはどのような病気ですか?

 

肺水腫は大きく「心原性肺水腫」と「非心原性肺水腫」に分類されます。心原性肺水腫は心不全、特に左心不全が原因で起こり、心臓のポンプ機能低下により肺に血液がうっ滞することで発症します。一方、非心原性肺水腫は重症肺炎、敗血症、重度の外傷、薬物中毒などが原因となり、肺毛細血管の透過性が異常に増加することで生じます。
参考)高齢者の肺に水がたまった場合の余命とは? 胸水と肺水腫の違い…

 

肺水腫の症状は急激な呼吸困難が特徴的で、横になると息苦しくなるため患者は起き上がって座りたがります。また、のどの奥でゼーゼーという音がしたり、ピンク色の泡のような痰が出ることがあります。重症例では皮膚や口唇が紫色になり、冷や汗をかいて血圧が下がることもあります。
参考)肺水腫と胸水の違いはなんですか?

 

胸水の分類と原因疾患

胸水は胸膜腔に液体が異常に貯留する状態で、その性状と発生メカニズムによって「漏出性胸水」と「滲出性胸水」に大別されます。正常な胸膜腔には摩擦を防ぐために少量の潤滑液(10~20ml程度)が存在しますが、病的状態により過剰に蓄積した状態が胸水です。
参考)胸水

 

漏出性胸水は血管内圧力の上昇や血漿膠質浸透圧の低下によって生じます。主な原因疾患として心不全、ネフローゼ症候群、肝硬変が挙げられ、これらは全身的な循環障害によって発症します。心不全では右心不全や左心不全により静脈圧が上昇し、胸水の吸収が低下することで漏出性胸水が形成されます。
参考)胸水について

 

滲出性胸水は局所的な炎症や腫瘍、感染によって胸膜の透過性が亢進し、液体がしみ出すことで生じます。悪性腫瘍、肺炎、結核、膠原病などが主な原因となり、胸膜に直接的な病変が存在することが特徴です。滲出性胸水の診断にはLight基準が用いられ、胸水と血清の蛋白比やLDH比による鑑別が重要です。
参考)胸水 - 07. 肺と気道の病気 - MSDマニュアル家庭版

 

胸水の症状は呼吸困難と胸痛が主体で、特に呼吸や咳をしたときに増悪します。大量の胸水が貯留すると肺が圧迫され、呼吸機能が著しく低下し、生活の質を大きく損ないます。

肺水腫の診断と画像所見の特徴

肺水腫の診断は胸部X線画像で典型的な所見が認められれば比較的容易ですが、非典型的な場合には様々な検査の組み合わせが必要です。胸部CTでは心原性肺水腫の場合、中枢側優位のすりガラス影やコンソリデーション、気管支血管束の肥厚、小葉間隔壁の肥厚などが特徴的に観察されます。
参考)F-03 肺水腫 - F. 肺血管性病変

 

心原性肺水腫の画像的特徴として、肺野の病変は中心部から周辺部に向かって放射状に広がるバットウィング様(蝶翼状)の分布を示すことが多く、これは心不全による肺静脈圧の上昇が中枢側により強く影響するためです。また、心拡大や心嚢水の貯留、両側胸水の合併も認められることが多いです。
参考)【保存版】肺水腫のCT画像10選!心不全が原因として最多。

 

非心原性肺水腫では、肺野の病変がより広範囲かつ均等に分布する傾向があり、心拡大は通常認められません。重症肺炎やARDS(急性呼吸窮迫症候群)に伴う肺水腫では、肺実質全体に及ぶ広範な浸潤影が特徴的です。
参考)非心原性肺水腫(Non-cardiogenic pulmon…

 

心エコー検査は心原性肺水腫の診断において極めて重要で、左室壁運動の異常、駆出率(EF)の低下、心腔の拡大、弁膜症の有無などを評価できます。BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)やNT-proBNPなどの心不全マーカーも診断に有用で、これらの数値は心機能と相関し、肺水腫の重症度評価にも役立ちます。

胸水の検査法と診断プロセス

胸水の診断には胸腔穿刺による胸水採取が不可欠で、これにより胸水の性状分析、細胞診、培養検査が可能になります。胸腔穿刺はエコーガイド下で安全に施行され、胸膜腔にある胸水を直接採取して詳細な分析を行います。
参考)胸水検査

 

胸水検査では総蛋白質、LDH(乳酸脱水素酵素)を必ず測定し、Light基準に従って漏出性胸水か滲出性胸水かを鑑別します。Light基準では胸水蛋白/血清蛋白比が0.5以上、胸水LDH/血清LDH比が0.6以上、または胸水LDHが血清LDH正常上限の2/3以上のいずれかを満たせば滲出性胸水と診断されます。
参考)胸水 - 05. 肺疾患 - MSDマニュアル プロフェッシ…

 

滲出性胸水では原因究明のために追加検査が必要で、細胞数および細胞分画、グラム染色、細菌培養、細胞診、ADA(アデノシンデアミナーゼ)、アミラーゼ、腫瘍マーカーなどが測定されます。結核性胸膜炎の診断にはADAが有用で、悪性胸水の診断には細胞診が重要です。
胸水のpH測定も診断に有用で、pH7.2未満の場合は膿胸がほとんどで、緊急ドレナージの適応となります。また、血性胸水の場合は悪性腫瘍や外傷、肺塞栓症などを疑い、乳び胸水の場合はリンパ管損傷や悪性リンパ腫を考慮する必要があります。
参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=33amp;sp=1

 

肺水腫と胸水の治療法と管理戦略

肺水腫の治療は原因が心原性か非心原性かによって大きく異なりますが、共通して肺胞内の水分除去と酸素化の改善が治療目標となります。心原性肺水腫では利尿薬による前負荷軽減が基本で、フロセミドなどのループ利尿薬を静注で投与し、体内の水分量を減少させます。
参考)肺水腫の場合、主にどのような治療をしますか?

 

急性期の心原性肺水腫では酸素投与とともに、硝酸薬による血管拡張、強心薬による心機能改善が行われます。重症例では非侵襲的陽圧換気(NIV)や人工呼吸器管理が必要となり、気道内を陽圧に保つことで肺胞の開存を維持し、ガス交換を改善します。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E8%82%BA%E6%B0%B4%E8%85%AB/contents/170725-004-BQ

 

非心原性肺水腫の治療では原因疾患の治療が最優先で、重症肺炎に伴う場合は抗生物質による感染制御、ARDSでは肺保護換気戦略による人工呼吸管理が中心となります。ステロイドや抗炎症薬の使用も病態に応じて検討されます。
胸水の治療は原因疾患の治療と胸水ドレナージが基本です。大量胸水で呼吸困難が著明な場合は胸腔穿刺による胸水除去を行い、症状の改善を図ります。悪性胸水では胸膜癒着術(プレウロデーシス)により胸膜腔を閉塞し、胸水の再貯留を防ぐ治療が行われることもあります。感染性胸水や膿胸では胸腔ドレナージによる持続的な排液と抗生物質による治療が必要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/c06aa6500432f143adea90707c88aa8904940eb8