ジソピラミドはVaughan-Williams分類のIa群に属する抗不整脈薬として広く使用されていますが、心疾患患者への投与には厳格な禁忌が設定されています。
**高度房室ブロック・高度洞房ブロック**では、ジソピラミドの刺激伝導抑制作用により完全房室ブロックや心停止を引き起こす危険性があります。特に以下の病態では投与を避ける必要があります。
**うっ血性心不全**患者では、ジソピラミドの陰性変力作用により心収縮力が低下し、心不全の悪化を招く可能性があります。さらに催不整脈作用により心室頻拍や心室細動のリスクも高まります。
実際の臨床例では、閉塞性肥大型心筋症患者の開心術後に心室頻拍が発症し、ジソピラミドを含む複数の抗不整脈薬が無効であった症例が報告されています。このような基礎心疾患を有する患者では、より慎重な薬剤選択が求められます。
ジソピラミドは抗コリン作用を有するため、副交感神経機能抑制に関連した禁忌疾患が存在します。
**閉塞隅角緑内障**では、抗コリン作用により瞳孔散大と毛様体筋弛緩が起こり、眼圧上昇により症状が悪化します。2019年の厚生労働省通知により、従来の「緑内障」から「閉塞隅角緑内障」に禁忌の記載が変更されました。一方、開放隅角緑内障は慎重投与となっています。
**尿貯留傾向**のある患者では、抗コリン作用により膀胱収縮力が低下し、尿閉を悪化させる危険性があります。特に以下の患者群で注意が必要です。
77歳女性の症例では、42歳からジソピラミドを長期服用していたところ、急性の尿閉と便秘を発症し、薬剤中止により改善した報告があります。高齢化に伴い副作用が発現しやすくなることが示唆されています。
ジソピラミドは主に腎臓で排泄され、一部は肝臓で代謝されるため、これらの臓器機能障害では血中濃度が上昇し、副作用リスクが増大します。
**重篤な腎機能障害・透析患者**では、薬物の排泄が遅延し血中半減期が延長するため、徐放性製剤の投与は適さないとされています。具体的には以下の状態が禁忌となります。
**高度肝機能障害**患者では、肝代謝の低下により血中濃度が上昇し、副作用が発現しやすくなります。Child-Pugh分類でClass Cに相当する患者では投与禁忌となります。
腎機能・肝機能障害患者への投与時は、定期的な血中濃度モニタリングと投与量調整が必要です。特に高齢者では生理機能低下により副作用が発現しやすいため、入院下での慎重な観察が推奨されています。
ジソピラミドはQT延長作用を有するため、同様の作用を持つ薬剤との併用により、致命的な不整脈であるtorsades de pointesを引き起こす危険性があります。
以下の薬剤との併用は禁忌とされています。
これらの薬剤はCYP3A4阻害や心筋再分極遅延により、ジソピラミドの血中濃度上昇やQT延長の相加作用を示します。
リファンピシンとの相互作用により、ジソピラミドの効果が減弱した心房細動症例も報告されており、薬物相互作用の重要性が示されています。
ジソピラミドを含むIa群抗不整脈薬は、**催不整脈作用(proarrhythmic effect)**により、治療対象とする不整脈とは異なる新たな不整脈を誘発する可能性があります。
**多形性心室頻拍(polymorphic ventricular tachycardia: PVT)**の発症機序として、以下のメカニズムが考えられています。
臨床研究では、ジソピラミド投与により多形性心室頻拍を発症した5症例の検討で、全例に基礎心疾患(肥大型心筋症、弁膜症術後、拡張型心筋症)を認め、発作直前に上室性不整脈による頻脈とQRS幅の著明な延長が観察されました。
**1989年のCAST(Cardiac Arrhythmia Suppression Trial)**以降、抗不整脈薬の適応は厳格になり、特に器質的心疾患を有する患者では慎重な使用が求められています。
対策として以下の点が重要です。
ジソピラミドの添付文書における禁忌疾患の詳細情報
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00061648
抗コリン作用を有する薬剤の緑内障禁忌に関する厚生労働省通知
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000519058.pdf