心室頻拍の心電図特徴と診断のポイント

心室頻拍は突然死に直結する危険な不整脈です。心電図波形から単形性・多形性の違い、QRS波の特徴、房室解離など診断に必要な所見を医療従事者向けに詳しく解説します。どのような心電図所見で心室頻拍と診断できるのでしょうか?

心室頻拍の心電図特徴

心室頻拍の心電図で確認すべき3つのポイント
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QRS波の幅と形態

QRS幅が0.12秒(120ms)以上に拡大し、幅広いQRS波が100回/分以上の頻度で3連発以上持続する

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単形性と多形性の分類

QRS波形が一定であれば単形性心室頻拍、刻々と変化する場合は多形性心室頻拍と診断される

房室解離の有無

P波とQRS波が独立して出現する房室解離の存在は、心室頻拍の確定診断に重要な所見となる

心室頻拍のQRS波の幅と持続時間

 

心室頻拍の最も重要な心電図所見は、QRS幅が0.12秒(120ms)以上に拡大したwide QRS頻拍が観察されることです。心拍数が100回/分以上で3連発以上持続するQRS波の連続が認められ、これは心室起源の異常な電気刺激によって発生します。正常なQRS波は0.10秒程度の幅ですが、心室頻拍ではこの値を明らかに超えるため、幅の測定が診断の第一歩となります。
参考)心室頻拍と心室細動|幅広QRS波の心電図(2)

持続時間による分類では、30秒以上持続するものを持続性心室頻拍、30秒以内に自然停止するものを非持続性心室頻拍と呼びます。持続性の場合は血行動態が不安定になりやすく、緊急対応が必要です。心拍数が200回/分以上に達するケースも多く、このような頻脈では心臓の収縮・拡張が追いつかず、有効な血液駆出ができなくなります。
参考)発作性上室性頻拍・心室頻拍

QRS幅の広い頻拍を認めた場合、反証されるまでは全て心室頻拍とみなすべきであり、慎重かつ迅速な対応が求められます。診断を誤って上室性頻拍の治療薬を投与すると、血行動態の破綻や死亡につながる可能性があるため注意が必要です。
参考)—頻脈性不整脈—QRS幅が広い (臨床検査 68巻10号)

心室頻拍の単形性と多形性の違い

心室頻拍は発作時のQRS波形によって単形性心室頻拍と多形性心室頻拍に分類されます。単形性心室頻拍では、先行するP波がない幅広いQRS波が同じ形で連続して発生し、QRS波形が一定のパターンを維持します。この型は心筋梗塞後や心筋症患者に多く見られ、基礎心疾患による心室筋のダメージが原因となります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/32/1/32_1_008/_pdf/-char/ja

一方、多形性心室頻拍ではQRS波形が1拍ごとに変化し、刻々と形が変わる特徴があります。特にQT延長を伴う多形性心室頻拍はトルサード・ド・ポアンツ(TdP)と呼ばれ、尖った部分がねじれているような特徴的な波形を示します。この型は自然停止することもありますが、多くは突然死に直結する危険性が高く、最も警戒すべき不整脈の一つです。
参考)心電図でみる心室頻拍(VT)の波形・特徴とは?

臨床で最も多く遭遇する心室頻拍のタイプは、持続性単形性心室頻拍、非持続性単形性心室頻拍、多形性心室頻拍、トルサード・ド・ポアンツの4つです。それぞれの波形パターンを正確に識別することが、適切な治療選択につながります。​

心室頻拍における房室解離と心室捕捉

房室解離は心室頻拍の診断において極めて重要な所見です。これは、P波(心房興奮)とQRS波(心室興奮)が独立して出現し、互いに関連性がない状態を指します。心電図上でII誘導などに独立したP波が観察される場合、心室頻拍であることを強く示唆します。
参考)心室頻拍(VT) - 04. 心血管疾患 - MSDマニュア…

心室捕捉(ventricular capture)は、心室頻拍の最中に特定のタイミングで洞結節興奮が正常刺激伝導系を下降し、心室を正常に興奮させることでQRS幅が狭い正常型のQRS波を形成する現象です。この際、心室頻拍の周期がリセットされるのが特徴で、この所見が確認されればその頻拍は心室頻拍であると確定できます。
参考)臨床心電図解析の実際 - 不整脈編 第5章

融合収縮も心室頻拍の診断に有用な所見で、心室頻拍による興奮と洞調律による興奮が同時に心室に到達した結果、両者が融合した形のQRS波が出現します。これらの所見は心室頻拍以外では基本的に起こりえない現象であり、診断の決め手となります。
参考)臨床心電図解析の実際 - 不整脈編 第5章

心室頻拍のQRS波形パターンと電気軸

心室頻拍の心電図診断では、QRS波形のパターンと電気軸の評価が重要です。胸部誘導V3-V6でQRS波がほぼ同じ形をしている所見は、concordant QRS(QRS一致現象)と呼ばれ、心室頻拍であることを強く示唆します。このような一致したQRSベクトルとそれに伴うT波ベクトルの不一致(QRSベクトルと反対)も診断の手がかりとなります。​
前額面QRS軸の極端な右軸偏位や左軸偏位も心室頻拍の特徴的な所見です。特に左脚ブロック右軸偏位型の頻拍は、右室流出路起源の心室頻拍でよく見られるパターンです。QRS時間が160msecに達するような著明な延長も心室頻拍の診断を支持します。​
変行伝導を伴う上室頻拍もwide QRS頻拍となるため、心室頻拍との鑑別が必要です。しかし、心室頻拍に驚くほどよく耐える患者もいるため、耐容性が良好なQRS幅の広い頻拍であることから上室起源と決めつけるのは誤りです。診断に迷った場合は心室頻拍として対応する姿勢が重要となります。​

心室頻拍の心電図診断における独自の評価ポイント

心室頻拍の診断精度を高めるため、臨床現場ではBrugada基準などの系統的評価法が用いられています。この基準では、房室解離の有無、QRS幅、QRS軸、V誘導でのRS間隔などを総合的に評価し、心室頻拍の可能性をスコア化します。特にV誘導においてRSパターンが全く見られない場合は、心室頻拍の可能性が非常に高いと判断されます。​
心電図モニタリングでは、心室頻拍を早期に発見するためのアラーム設定も重要です。心室期外収縮の連発数(2~8拍)や1分間あたりの頻発性心室期外収縮の拍数(0~100拍/分)を適切に設定することで、心室頻拍への移行を早期に察知できます。連続する心室性期外収縮から心室頻拍に移行する過程を観察することは、発症メカニズムの理解にも役立ちます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/43/3/43_158/_pdf/-char/ja

さらに、12誘導心電図での詳細な評価では、各誘導におけるQRS波形の微細な変化や、ST接合部の偏位なども確認します。基礎心疾患の評価として、過去の心筋梗塞を示す異常Q波や心肥大所見の有無も重要な情報となり、心室頻拍のリスク評価につながります。
参考)心電図の基礎知識、基準値(正常値)・異常値、主な異常波形の種…

MSDマニュアル:心室頻拍の診断と心電図所見について、改変Brugada基準を含む詳細な診断アルゴリズムが解説されています

心室頻拍の原因と基礎心疾患

心室頻拍の発症には、基礎心疾患の有無が大きく関与します。代表的な原因疾患として、心筋梗塞、拡張型心筋症、肥大型心筋症、催不整脈性右室心筋症、QT延長症候群、心サルコイドーシスなどが挙げられます。これらの疾患では心室筋がダメージを受け、異常な電気刺激の発生や回路が形成されやすくなります。
参考)心室頻拍の原因と症状、その治療について医師が解説

特に心筋梗塞後の患者では、壊死した心筋組織と生存心筋の境界部分にリエントリー回路が形成され、心室頻拍の原因となります。このような器質的心疾患に伴う心室頻拍は、血行動態が不安定になりやすく、心室細動への移行リスクも高いため注意が必要です。​
一方、明らかな基礎心疾患がない特発性心室頻拍も存在します。この場合、右室流出路や左室流出路から発生する心室頻拍が多く、比較的予後良好とされています。しかし、基礎心疾患の有無にかかわらず、心室頻拍は動悸、失神、さらには突然死を引き起こす可能性があるため、適切な評価と治療が必要です。​

心室頻拍の治療アプローチ

心室頻拍の治療は、患者の状態と基礎疾患の有無によって異なります。脈がない患者や血行動態が不安定な場合は、直ちに電気的除細動(カルディオバージョン)を行う必要があります。電気ショックにより、リエントリーに起因する頻拍性不整脈を極めて効果的に停止させることができます。
参考)カルディオバージョン/電気的除細動 - 04. 心血管疾患 …

薬物療法では、アミオダロンやニフェカラントなどのIII群抗不整脈薬が心室頻拍の停止に有用です。特に電気ショック抵抗性の心室頻拍に対しては、これらの薬剤の静注が推奨されます。ただし、心筋梗塞後の患者に抗不整脈薬を投与するとかえって生命予後を短くする可能性があるため、慎重な使用が求められます。
参考)302 Found

長期管理では、カテーテルアブレーションによる根治療法や植込み型除細動器(ICD)による突然死予防が選択されます。カテーテルアブレーションは全身麻酔下で行われ、3次元マッピングシステムを使用して心室頻拍のメカニズムを明らかにし、焼灼部位を決定します。基礎心疾患があり心機能が著しく低下している場合は、ICDの植込みが突然死予防に有効です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8339126/

東京ハートリズムクリニック:心室頻拍の治療方法について、薬物療法、カテーテルアブレーション、植込み型除細動器の適応と実際の治療手順が詳しく解説されています

心室頻拍患者の看護とモニタリング

心室頻拍患者の看護では、継続的な心電図モニタリングが不可欠です。心室頻拍は突然発症し、急速に血行動態が悪化する可能性があるため、モニターアラームの適切な設定と迅速な対応が求められます。心室期外収縮の連発や頻発は心室頻拍への移行を示唆する所見であり、早期発見のための重要な指標となります。​
患者の自覚症状の観察も重要で、動悸、めまい、脱力感、失神などの症状出現時には直ちに心電図を確認します。血行動態の評価として、血圧測定、意識レベルの確認、末梢循環の観察を頻回に行います。心拍数が140~150回/分以上の頻脈性心室頻拍では血圧低下やショック状態に陥りやすく、緊急対応の準備が必要です。
参考)不整脈:電気的除細動−心房細動を中心に− href="https://maruyamahosp.jp/column/625/" target="_blank">https://maruyamahosp.jp/column/625/amp;#8211; 医…

除細動器やペースメーカーなどの医療機器が適切に作動しているかの確認も看護師の重要な役割です。また、患者や家族への教育として、心室頻拍の症状、服薬の重要性、緊急時の対応方法について説明し、不安の軽減に努めることも大切です。​

 

 


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