閉塞隅角緑内障は、眼内の水分(房水)の排出経路である隅角が物理的に閉塞することで発症する緑内障の一種です。正常な眼では、角膜と水晶体の間にある房水が絶えず生成され、隅角から排出されることで眼内圧(眼圧)のバランスが保たれています。しかし、この隅角が虹彩によってふさがれると、房水の排出が妨げられ、眼圧が上昇します。
発症メカニズムとしては、主に以下の要因が関与しています。
特に、60歳以上の遠視の女性は発症リスクが高いとされています。約1割の高齢者が狭隅角の状態であると報告されており、注意が必要です。
閉塞隅角緑内障の進行過程は、まず「狭隅角」の状態から始まり、次第に「閉塞隅角症」へと進み、最終的に視神経障害を伴う「閉塞隅角緑内障」へと発展します。早期の段階で発見し適切な処置を行うことが、視力を保つ上で非常に重要となります。
急性閉塞隅角緑内障は、突然発症する緊急性の高い眼科疾患です。急性発作が起きると、眼圧が通常の10~21mmHgから50~80mmHgにまで急激に上昇します。この急激な眼圧上昇により、以下のような特徴的な症状が現れます。
これらの症状は非常に強く、患者は大きな苦痛を感じます。時に頭痛や消化器症状が強いため、内科や神経内科を受診し、誤診されることもあります。診察では、結膜充血、角膜混濁、散大した固定瞳孔、前房の炎症などの所見が認められます。
急性閉塞隅角緑内障の最大の危険性は、適切な治療を受けないと数日で失明する可能性があることです。眼圧の急激な上昇は視神経に重大なダメージを与え、不可逆的な視力障害をもたらします。そのため、急性発作が疑われる場合は、緊急に眼科専門医の診察を受けることが必須です。
暗所での読書や、うつむいた姿勢での作業など、瞳孔が開きやすい状況や水晶体が前方に移動しやすい状況では、発作のリスクが高まるため注意が必要です。特に隅角が狭いと診断されている方は、これらの状況を避けることが推奨されます。
慢性閉塞隅角緑内障は、急性型とは対照的に、自覚症状が乏しいまま徐々に進行するという特徴があります。この型の緑内障では、隅角が部分的に閉じたり開いたりを繰り返しながら、徐々に広範囲にわたって閉塞が進行していきます。
慢性閉塞隅角緑内障の特徴として、以下のような点が挙げられます。
一部の患者では、眼の充血、不快感、霧視、頭痛などの軽度の症状が現れることがありますが、これらは睡眠によって軽減することが多いです。これは、睡眠中に瞳孔が縮小し、また水晶体が重力で後方に移動するためと考えられています。
慢性閉塞隅角緑内障の診断は、隅角鏡検査が中心となります。この検査では、隅角の状態を直接観察し、閉塞の程度や範囲を評価します。また、眼圧測定、視神経の評価、視野検査なども重要な診断ツールとなります。
慢性型の特徴として、中期〜末期になって初めて発見されることが多いという点が挙げられます。そのため、特にリスク因子(60歳以上、遠視、女性など)を持つ方は、定期的な眼科検診を受けることが推奨されます。早期発見が視機能を保つ上で非常に重要です。
閉塞隅角緑内障の治療は、症状の急性・慢性の違いにより若干のアプローチの差がありますが、基本的には眼圧を下げることと隅角の閉塞を解除することが目標となります。
急性閉塞隅角緑内障の治療:
急性発作に対しては、まず緊急に眼圧を下げる治療を行います。
慢性閉塞隅角緑内障の治療:
慢性型の治療も基本的には急性型と同様ですが、症状の進行度に応じて以下のような対応が取られます。
両眼に発症リスクがあるため、片眼に閉塞隅角緑内障が認められた場合は、もう片方の眼にも予防的な処置(主にレーザー虹彩切開術)を行うことが一般的です。これにより、健眼での急性発作のリスクを大幅に低減することができます。
閉塞隅角緑内障と診断された患者さんにとって、日常生活での注意点や薬物管理は視力保護のために非常に重要です。特に注意すべき点は以下の通りです。
禁忌薬剤の把握。
閉塞隅角緑内障患者には避けるべき薬剤が多数あります。これらの薬剤は瞳孔を散大させる作用があり、急性発作を誘発する危険性があるためです。
特に抗コリン作用や交感神経刺激作用を持つ薬剤は、瞳孔を開き房水の排出口「隅角」を塞ぐことが知られています。複数の医療機関を受診する際には、必ず閉塞隅角緑内障であることを医師や薬剤師に伝え、お薬手帳を活用することが大切です。
日常生活での注意点。
閉塞隅角緑内障患者や狭隅角の方は、以下のような状況に注意する必要があります。
定期検査の重要性。
閉塞隅角緑内障の管理には、定期的な眼科検診が欠かせません。眼圧測定、隅角検査、視野検査、眼底検査などを通じて、病状の進行を監視し、必要に応じて治療計画を調整します。
治療の継続。
閉塞隅角緑内障は完治が難しい疾患であり、長期的な管理が必要です。処方された点眼薬は医師の指示通りに継続して使用することが重要です。点眼薬は通常1回に1滴、複数ある場合は5分以上間隔を開けて使用します。
副作用(喘息、息切れ、動悸、めまいなど)が現れた場合は、自己判断で中止せず、すぐに医師に相談することが大切です。
緑内障連絡カードの活用。
多くの眼科医療機関では「緑内障連絡カード」を発行しており、これを携帯することで、緊急時や他科受診時に適切な情報提供ができます。特に禁忌薬剤が多い閉塞隅角緑内障患者にとって、このカードは非常に有用なツールとなります。
閉塞隅角緑内障の管理においては、医療者と患者の協力関係が重要です。適切な治療と生活管理により、視機能を長期間維持することが可能となります。閉塞隅角緑内障と診断された場合は、医師の指示に従い、定期的な通院と適切な生活管理を心がけましょう。