急性尿閉は突然発症し、膀胱内に尿が充満することで極めて激しい痛みが数時間にわたって起こります。患者は強い尿意があるにもかかわらず排尿できない状態となり、下腹部が膨隆します。この状態では膀胱が尿でパンパンに膨らみ、下腹部の強い痛みや膨満感を伴います。多くの場合、前立腺肥大症を持つ男性が大量に飲酒したり、抗ヒスタミン薬入りの感冒薬や花粉症の薬を服用した後に起こりやすい傾向があります。急性尿閉では、膀胱そのものの収縮力はまだ保たれているといわれ、冷や汗や不安感、緊張なども伴うことがあります。
参考)尿閉
慢性尿閉は長時間をかけて排尿困難が進行し、残尿量が増え続けた状態です。初期には自覚症状が少なく、排尿回数が多くなっても「歳のせいかな」「疲れかな」などと見過ごされることがあります。より多くの人では、ある程度の量は排尿できるものの、完全に膀胱を空にすることができなくなります。このような場合、膀胱は徐々に拡張し、痛みは伴いません。しかし、排尿開始困難、尿勢低下、残尿感などがみられる場合があります。膀胱が比較的満杯の状態であるため、尿漏れ(溢流性尿失禁)、夜間の排尿(夜間頻尿)、頻尿などがときに起こります。徐々に膀胱が常に張っている状態になり、尿意を感じにくくなってしまうため、いつの間にか膀胱に大量の尿が溜まっているという事態に陥ります。
参考)尿閉 - 05. 腎臓と尿路の病気 - MSDマニュアル家庭…
尿閉は排尿の状態に関して、全く排尿できない「完全尿閉」と、残尿があるが排尿はできている「不完全尿閉」とに分かれます。頻度の多い組み合わせは、急性完全尿閉と慢性不完全尿閉です。完全尿閉では膀胱内に尿が充満し、極めて激しい痛みが数時間にわたって起こり、下腹部が膨れます。一方、不完全尿閉では一部の排尿は可能ですが、膀胱を完全に空にすることができず、残尿が増加していきます。慢性不完全尿閉では、この段階になると尿が漏れ始める場合もあり、「トイレに行く回数は多いのに、実際には残尿が多い」などの不安定な状態が続きます。
参考)尿が出なくて苦しい(尿閉)|所沢いそのクリニック
臨床的には、尿が全く生成されず膀胱内に尿がなく排泄できない状態の無尿と区別することが必要です。この主訴で来院する患者の多くには、まず膀胱内に尿が充満しているかの確認のために腹部の超音波検査が施行されます。尿閉では膀胱内に尿が充満しているため、触診にて下腹部膨隆を確認し、超音波を当てることで容易に尿閉と診断できます。無尿の場合は腎臓での尿生成自体が障害されている状態であり、膀胱内に尿の貯留は認められません。尿閉と無尿の鑑別は、治療方針を決定する上で極めて重要な判断となります。
参考)http://iryogakkai.jp/2010-64-06/421-4.pdf
尿閉状態で膀胱内に多量の尿が充満し、膀胱の蓄尿機能を凌駕すると、尿道から溢れる状態で尿が持続的に漏れてくることがあります(溢流性尿失禁)。尿失禁があるからといって尿閉ではないと判断してはいけません。この溢流性尿失禁は慢性不完全尿閉に伴うことが多く、膀胱が常に満杯の状態であるため、尿が少しずつ漏れ出してしまう現象です。患者は頻繁にトイレに行くが、すっきり出きらない、お腹が張っているように感じるといった状態に陥ります。尿閉に伴う溢流性尿失禁の存在を認識することは、適切な診断と治療につながる重要なポイントです。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1n01.pdf
急性完全尿閉では、原因として多いのが前立腺肥大症を有する男性が多量に飲酒した場合や、抗ヒスタミン薬を含む総合感冒薬を服用した場合などです。膀胱の出口より外側の前立腺、尿道に尿の流れをさまたげる状況があれば尿閉の原因となりますが、ほとんどの場合の原因は前立腺肥大症です。したがって、尿閉が出現するのは原則として男性に多いということになります。前立腺の内腺の肥大による物理的な前立腺部尿道の圧排により、尿道が狭くなり尿勢が低下したり、尿線が途絶する、いきまないと出ないなどの状態を機械的閉塞と言います。肥大した前立腺が膀胱の出口をふさいでしまうことが原因の大部分です。前立腺が大きい人の方が尿閉になりやすい傾向があります。
参考)尿がまったく出ない
神経因性膀胱または神経因性下部尿路機能障害は、中枢神経系または末梢神経の疾患による膀胱と尿道の機能障害です。膀胱の働きを調整している神経が障害されて尿閉になる場合としては、直腸がんや子宮がんの手術の後の状態があります。脳卒中、アルツハイマー病やパーキンソン病、外傷性脊髄損傷、脊髄腫瘍、先天性二分脊椎、糖尿病などの多数の神経系異常が神経因性膀胱を引き起こす可能性があります。性別を問わず、尿閉の原因は糖尿病、多発性硬化症、パーキンソン病患者や過去の骨盤内手術に起因した膀胱の脱神経がある患者での神経因性膀胱です。慢性不完全尿閉では、原因として持続性通過障害や排尿筋低活動の長期継続した場合が多く、溢流性尿失禁を伴います。
参考)尿閉 - 03. 泌尿器疾患 - MSDマニュアル プロフェ…
抗コリン作用を有する薬剤(抗コリン薬、抗うつ薬、鎮痙薬、抗ヒスタミン薬など)、膀胱平滑筋弛緩薬、β2アドレナリン受容体刺激薬、鎮咳薬、パーキンソン症候群治療剤、感冒薬などが排尿障害を起こす可能性があります。身近なお薬としては、総合感冒薬(風邪薬)・抗アレルギー薬・抗ヒスタミン薬があります。膀胱平滑筋(排尿筋)の弛緩作用あるいは外尿道括約筋の収縮により、尿道抵抗が増大する作用を有する薬剤は、副作用で排出障害を引き起こします。特に高齢者は排尿の機能低下や前立腺肥大症などの排尿障害が存在している場合が多く、薬剤性の排尿障害を起こしやすい傾向があります。抗コリン薬による尿閉は、非高齢者と比較して高齢者において発生リスクが高いことが報告されています。また、前立腺肥大症は抗コリン薬による尿閉のリスク因子であることが知られています。
参考)https://www.fpa.or.jp/library/kusuriQA/27.pdf
尿閉であると判明した後はその症状が急性か慢性か、および完全か不完全かを問診する必要があります。この主訴で来院する患者の多くには、まず膀胱内に尿が充満しているかの確認のために腹部の超音波検査が施行されます。尿閉の場合、膀胱内に尿が充満しているため、触診にて下腹部膨隆を確認し、超音波を当てることで容易に尿閉と診断できます。経腹的超音波断層法による残尿量の測定では、恥骨上部にプローブ(探触子)をあて、2方向の断面像を得ます。大きく、はっきりと膀胱が確認できる位置で測定し、残尿量(mL)は前後径(cm)×長径(cm)×短径(cm)を2で割った近似値で計算されます。膀胱エコーでは尿の貯留量を確認し、300mL以上は異常とされます。
参考)https://ameblo.jp/stroke-rehabilitation-ns/entry-12913385060.html
尿閉は無症状の場合もあれば、頻尿、残尿感、および切迫性または溢流性尿失禁を引き起こすこともあります。排尿機能検査として、尿流測定、膀胱内圧測定、残尿測定などが実施されます。尿流動態検査や上部尿路評価、内視鏡検査などの専門的な検査は泌尿器科で行われます。残尿測定は排尿障害の程度を評価する重要な指標となり、残尿量が多い場合などは再び尿閉になることが多く、再度カテーテルを留置することや、自分で導尿していただき、手術を検討することがあります。触診では恥骨上部を押すと痛みが増強し、膀胱の張りを確認できます。これらの検査結果を総合的に評価し、尿閉の原因と重症度を判断します。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/ae6df70fa92606263f01597d3edd0a1afbe0dd25
急性尿閉の場合は、まずカテーテル(管)を挿入して膀胱内の尿を排出し、痛みや不快感を軽減させます。緊急時には尿道から細いカテーテルを挿入し貯留尿を除去します。カテーテル留置により膀胱機能を休ませながら原因疾患を特定し、必要に応じて薬物療法を行います。導尿の準備では、カテーテルは細いサイズ(14Fr)を準備し、挿入時は「ゆっくり深呼吸してくださいね」と声かけをします。安楽体位の工夫として、仰向けで膝を立てると尿道がまっすぐになり挿入しやすくなります。カテーテルを留置して数日~1ヶ月程度経過した後に抜去して、きちんと排尿できるか確認します。残尿がなければ薬物療法を継続し、カテーテルの再留置はしません。
参考)前立腺肥大症の治療法には何がありますか? |尿意があるのに尿…
前立腺肥大が原因の場合にはα遮断薬など排尿を促進する薬を使用し、改善が見込めるかどうかを検討します。α遮断剤は、前立腺の筋肉を緩めて尿道を広げ、尿を出しやすくします。前立腺肥大症による尿閉の場合には、5α還元酵素阻害剤が処方されることもあります。この薬剤は前立腺の大きさを縮小させ、尿道への圧迫を軽減します。長期的な効果が期待されますが、効果が現れるまでに数カ月かかることがあります。前立腺重量は通常20ccですが30cc以上ないと適応はありません。半年で30%の前立腺の縮小効果がありますので30ccの方は半年後には20ccになる可能性があります。内服することで今後の手術への移行へのリスクや尿閉のリスクが軽減されるというデータがでております。
参考)おシッコしたいのに出ない?男性の尿閉とその背後にある疾患—福…
神経因性膀胱であれば、自己導尿(自分でカテーテルを挿入して排尿する方法)を指導し、膀胱内に尿が溜まりすぎないよう管理することがあります。間欠的自己導尿とは、自分自身で導尿を行う治療です。これにより、慢性的に尿閉状態の方でも、専用のカテーテルを携帯しておけば、1日に数回くらい尿を出す操作を自分で行うことで、普通に日常生活が送れるようになります。残尿量にもよるが、1日4~6回程度、自身で導尿を行います。間欠的自己導尿法は、導尿法の中でも、持続的に導尿する膀胱留置カテーテルと比較して、カテーテル留置による尿路感染症や萎縮膀胱などのリスクを減少することができます。導尿の方法として、両手を石鹸でよく洗い、尿道の出口を消毒綿で拭き、カテーテルを尿の出口へ入れます。
参考)間欠自己導尿(適応、方法、注意点)|神戸市東灘区の「いしむら…
看護学生が患者さんを観察する際は、次の変化に即時対応する必要があります。緊急サインとして、下腹部が硬く張っている+「尿が出ない!」は膀胱破裂リスクの危険信号です。発熱+排尿痛は尿路感染症の合併疑いがあります。日常的な観察として、排尿パターン(回数/量/勢い)、残尿感の有無を確認します。水分摂取量(コーヒーやアルコールは症状悪化の原因)、服薬内容(副作用リスクのある薬がないか)も重要な観察項目です。尿閉の場合は、痛みから逆に血圧上昇・脈拍上昇を示すことがあります。排尿の様子をみながら、バイタルサインを照らし合わせていくことが重要になってきます。乏尿の基準は400mL/日以下とされており、一回排尿量が150mLとすると、排尿回数では3回/日以下では注意が必要となります。
参考)「昨日の夜から排尿がない場合【訪問看護のアセスメント】 - …
保持された尿は細菌の増殖に格好の場所となる可能性があるため、尿路感染症が起こる場合があります。長時間の尿閉は尿路感染症の素因であるほか、膀胱圧を上昇させることで閉塞性尿路疾患を引き起こす可能性があります。放置すると腎臓への影響も懸念され、腎機能障害につながるリスクもあるため注意が必要です。進行すると、腎臓に負担をかけて腎機能が低下してしまう可能性もあります。尿閉が緩徐に発生すると、疼痛が認められないこともあります。閉塞によって圧力が上昇すると、やがては腎臓の組織が傷つき、最終的には腎機能が失われます。前立腺肥大症では、尿が出にくい、尿の勢いが弱い、などの症状を改善するとともに、この尿閉を予防することが治療の目的となります。適切な治療法、治療期間にもかかわらず尿閉が繰り返されるときには、肥大した前立腺の程度によっては手術が必要となります。
参考)尿路閉塞 - 05. 腎臓と尿路の病気 - MSDマニュアル…

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