心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応は、2019年のガイドライン改訂により大幅に拡大されました 。従来は「薬剤抵抗性症候性心房細動患者」に限定されていましたが、現在では症状を有する心房細動患者であれば薬を試さずに、いきなりアブレーションを実施することが可能となっています 。
参考)心房細動カテーテルアブレーションの新ガイドライン 2019年…
この変更の背景には、心房細動患者を薬物治療もしくはカテーテルアブレーションのどちらかに分けて治療すると、カテーテルアブレーションの方が心房細動をよく治療でき、医療費も薬物を継続するよりも安く済むという3つの大規模試験の結果があります 。現在のガイドラインでは、症候性再発性発作性心房細動に対する第一選択治療としてカテーテルアブレーションがクラスⅡaに位置づけられています 。
年間10万件を超える実績を持つ日本において、80歳以上の高齢者に対する心房細動アブレーション治療についても新たに言及されており、適応が広がっています 。
参考)301 Moved Permanently
心房細動の原因となる異常頻回興奮の約9割は肺静脈起源であることが明らかになっており、肺静脈隔離術がアブレーション治療の中核となっています 。肺静脈とは肺で酸素を供給された血液が心臓に帰ってくる血管で、左房に上下左右、合計4本存在します 。
参考)心房細動のカテーテルアブレーション - 心臓血管センター
治療方法は肺静脈周囲を上下の肺静脈をまとめて囲い込むように焼灼する拡大肺静脈隔離術が一般的です 。焼灼方法には高周波通電による方法と冷凍凝固による方法があり、高周波の方法では一点一点20秒から30秒かけて焼灼を行い、点と点をつなげて肺静脈周囲を全周性に焼灼します 。
一方、冷凍凝固はクライオバルーンという風船を使用し、1度の冷凍凝固(3分程度)で1本の肺静脈周囲を全周性に焼灼できるという特徴があります 。どちらの方法を選択するかは患者個々の病状(心房細動の種類や左房の形態など)によって決定されます 。
慶應義塾大学病院の心房細動アブレーション成功率は世界トップクラスの施設と比較して遜色のない成績を示しています 。1回のアブレーションにより心房細動の発作がなくなる確率は、発作性心房細動の場合85%、慢性・持続性心房細動の場合60~70%です 。2回アブレーションを受けた後の成功率は発作性では約90%以上、慢性・持続性では80%となります 。
参考)心房細動(アブレーション治療など)
慢性心房細動における重要な予後因子として、心房細動の持続期間があります 。持続期間が10年未満であれば手術成功率は8割前後を維持しますが、10年以上になると5割を下回ってしまいます 。ただし、この基準も絶対的なものではなく、持続が10年未満でも左心房が著明に拡大している場合は成功率が低下し、10年以上でも左心房が小さく心電図上の心房電位が十分ある場合は成功率が高くなる傾向があります 。
参考)慢性心房細動 持続期間が何年までなら治療可能か?
当院における初回の発作性心房細動アブレーション後の心房細動再発率は、5年の経過で約30%と報告されています 。
参考)心房細動アブレーション後に再発する患者様がいる理由と再アブレ…
2024年秋から日本でパルスフィールドアブレーション(PFA)が承認され、心房細動治療に革新をもたらしています 。PFAは直流通電により短時間で心房筋細胞を傷害する全く新しい治療法で、従来の高周波やクライオバルーンとは異なる非熱性エネルギーを使用します 。
参考)2025年最新の不整脈治療
PFAの最大の特徴は、不整脈発生部位に短時間の電圧パルス(1500-2000V)をかけることにより心房筋細胞に小さな穴を無数に開け、細胞をアポトーシス(自然死)に導くことで不整脈の伝導を阻止することです 。治療部位にやけどや凍傷が起こらないため炎症がほとんど起こらず、治療した組織がきれいに保たれます 。
また、このパルスは心筋細胞を選択的に標的にすることができるため、従来の治療で問題となっていた心臓に近い食道や神経への障害といった合併症のリスクを大幅に軽減できます 。さらに治療時間も短縮される利点があります 。
参考)パルスフィールドアブレーション(PFA)
カテーテルアブレーションは基本的に安全な治療手技ですが、治療中や治療後に合併症を来す可能性があります 。心房細動アブレーションの重大な合併症として、脳梗塞、心タンポナーデ、食道関連合併症の3つが挙げられます 。
参考)カテーテルアブレーションの合併症 href="https://www.kansaih.johas.go.jp/junkankinaika/treatment/atr/atr_07/ablation_complications" target="_blank">https://www.kansaih.johas.go.jp/junkankinaika/treatment/atr/atr_07/ablation_complicationsamp;#8211; 関西ろうさ…
主な合併症には、カテーテル刺入部の血腫・出血、心臓や血管の損傷、脳梗塞を含めた塞栓症、肺静脈狭窄などがありますが、後遺症を残すような重篤な合併症の発生確率は1%未満に抑えられています 。近年のアブレーション治療機器の改善と治療者側の経験の積み重ねにより、これらの重大合併症の発生頻度は大幅に低下しています 。
万が一合併症の徴候が見られた際は、輸血や外科手術を含め早急に適切な処置が行われる体制が整備されています 。関西労災病院をはじめとする各施設では、リスクをゼロに近づけるためスタッフ一同あらゆる努力を惜しまず安全性の向上に取り組んでいます 。