房室ブロックは心房と心室間の刺激伝導系に生じる障害で、重症度により1度から3度に分類されます 。1度房室ブロックでは心房から心室への伝導時間が延長するものの、脈は規則正しく維持されます。2度房室ブロックでは一部の心房興奮が心室に伝わらず、Wenckebach型とMobitz II型に細分されます 。3度(完全)房室ブロックでは心房と心室が完全に独立して拍動し、心室の拍動数は毎分30-50回まで低下します 。
参考)ペースメーカー
主な症状として、めまい、ふらつき、失神、疲労感が挙げられ、特に重症例では Adams-Stokes発作と呼ばれる一過性の意識消失を起こすことがあります 。症状の重篤さは心拍数の低下程度と血行動態への影響により決まり、無症状の場合もありますが、健康診断で偶然発見されることも少なくありません 。
参考)房室ブロック (ぼうしつぶろっく)とは
房室ブロックの原因は多岐にわたり、加齢による伝導系の変性が最も多く、次いで虚血性心疾患、心筋症、サルコイドーシス、薬剤性要因などが知られています 。薬剤による場合は、β遮断薬、カルシウムチャンネル拮抗薬、ジギタリス製剤などが関与することがあり、休薬により改善する可能性があります 。
参考)房室ブロックの場合、主にどのような治療をしますか?
房室ブロックの診断において心電図検査は必須であり、P波とQRS波の関係を詳細に評価することで分類と重症度判定が可能です 。標準12誘導心電図では、PR間隔の延長、P波とQRS波の対応関係、心房と心室の独立した拍動パターンを観察します。1度房室ブロックではPR間隔が0.2秒以上に延長し、2度房室ブロックでは一部のP波に対応するQRS波が欠如します 。
参考)川崎 房室ブロック
間欠的に出現する房室ブロックや夜間に症状が現れる症例では、24時間Holter心電図が診断に有効です 。このモニタリング検査により、日常生活における不整脈の出現パターンや頻度を把握でき、症状と心電図変化の関連性を明確化できます。迷走神経の影響を受けやすい房室ブロックでは、夜間や安静時に顕著に現れる傾向があります 。
参考)心電図でみる房室ブロック(AVブロック)の波形・特徴とは?
電気生理学的検査(EPS)は、房室ブロックの発生部位をヒス束内またはヒス束下に特定する際に有用で、特に2度房室ブロックの病態把握や治療方針決定に重要な情報を提供します 。また、心筋梗塞やサルコイドーシスなど基礎疾患の検索のため、心エコー検査、血液検査、胸部CT検査なども適宜実施されます 。
参考)ペースメーカー手術
ペースメーカー植込みの適応は、房室ブロックの重症度と臨床症状の存在により決定されます 。1度房室ブロックは基本的に無症状であり、ペースメーカー植込みの適応にはなりません 。2度房室ブロックでは、Mobitz II型や高度房室ブロックで症状を伴う場合に適応となり、Wenckebach型では通常経過観察が選択されます 。
参考)房室ブロック
3度房室ブロックは症状の有無にかかわらずペースメーカー植込みの絶対適応であり、特に心停止のリスクが高いため緊急手術となることが多くあります 。適応基準として、薬剤性など可逆的要因がないこと、徐脈性不整脈の存在、失神・めまい・息切れなどの症状を認めることが重要な判断材料となります 。
参考)ペースメーカ装着患者の看護
年齢や基礎疾患の有無も適応判定に影響し、高齢者では心機能温存のためより積極的な適応が検討されます 。一方、急性心筋梗塞や薬剤による一過性の房室ブロックでは、原因の改善により自然回復が期待できるため、一時的ペーシングで経過観察することもあります 。ペースメーカー植込み前には、心機能評価や感染症スクリーニングなど総合的な術前評価が実施されます。
参考)Ⅲ度房室ブロック:どんな病気?検査や治療は?命にかかわるの?…
ペースメーカー植込み手術は通常7-10日間の入院で実施され、術前には詳細な心機能評価と感染症スクリーニングが行われます 。血液検査では腎機能、肝機能、凝固機能の確認に加え、感染マーカーの測定が重要で、手術部位感染予防のため術前からの抗菌薬投与が検討されることもあります。電解質異常の補正や、徐脈を助長する薬剤の一時休薬も必要に応じて実施されます 。
参考)入院と手術のはなし
手術は局所麻酔下で実施され、通常左鎖骨下にペースメーカー本体を植込みます 。鎖骨下静脈からリード線を心房・心室内に挿入し、X線透視下で適切な位置に固定した後、電気的パラメータを測定して機能を確認します。リード線の先端は心臓の組織に絡みつきやすい形状をしており、抜去や移動を防ぐ工夫が施されています 。
参考)https://www.ompu.ac.jp/u-deps/tho/intro/device/pacer.html
手術時間は約1-2時間で、リード線とペースメーカー本体を接続後、皮下ポケットに収納して皮膚を縫合します 。術中は不整脈の種類に応じて電気生理学的検査を併用することもあり、房室ブロックの詳細な病態把握と最適なペーシングモードの選択が行われます 。手術は心臓カテーテル検査室または手術室で実施され、医師・技師・看護師が連携して安全な手術環境を確保します。
ペースメーカー植込み手術の合併症発生率は極めて低いものの、術中・術後を通じて注意すべき合併症が存在します 。術中の主な合併症として血胸、気胸、リード穿孔があり、静脈穿刺時の血管損傷や肺損傷が原因となります。これらの合併症は経験豊富な術者による丁寧な手技により予防可能で、万一発生した場合も適切な処置により対応できます 。
参考)ペースメーカーの植込み手術
術後合併症で最も頻度が高いのはリード線の移動・離脱で、急性期合併症の約20%を占めます 。リード先端の位置異常により、ペースメーカーからの電気刺激が適切に心臓に伝わらなくなり、症状の再発や機器不全を引き起こす可能性があります 。このため術後は定期的な心電図モニタリングと胸部X線検査によるリード位置の確認が重要です。
参考)https://square.umin.ac.jp/saspe/archive/53/53th_01.pdf
感染症も重要な合併症の一つで、ポケット内血腫や創部感染から全身感染症に進展するリスクがあります 。術後の感染予防として、創部の適切な消毒と抗菌薬投与が実施され、入浴制限などの生活指導も行われます 。縫合糸は通常術後6-7日で抜糸され、創部治癒の経過観察が継続されます。異常な発赤、腫脹、疼痛、発熱などの感染徴候が認められた場合は、速やかな医療機関受診が必要です。
ペースメーカー植込み後の生活指導に関する詳細情報