国立感染症研究所では、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の確定診断のために、複数の病原体検査を実施しています 。
参考)https://id-info.jihs.go.jp/relevant/manual/010/SFTS20240502.pdf
RT-PCR法による遺伝子検出 📧
病原体検査の中核となるのがRT-PCR法(逆転写ポリメラーゼ連鎖反応法)です。この検査では、SFTSウイルスのS分節に存在する核蛋白質(NP)遺伝子を標的として、ウイルス遺伝子を特異的に検出・同定します 。コンベンショナルRT-PCR法とリアルタイムRT-PCR法の2つの手法が採用されており、どちらも高い感度と特異度を示します 。
参考)https://phcd.jp/02/kenkyu/chiikihoken/pdf/2015_H27_tmp01d1-3-3.pdf
ウイルス分離・同定検査 🦠
急性期患者血清をVero細胞に接種し、数日から数週間培養後にSFTSウイルス抗原の有無を判定する方法です 。SFTSウイルスは感染症法上の三種病原体に指定されているため、ウイルス分離検査は国立感染症研究所のBSL3実験室内で厳格な管理下で実施されます 。
参考)重症熱性血小板減少症候群の検査法
検体の種類と採取条件 💉
病原体検査には血液、血清、咽頭拭い液、尿が使用可能ですが、「血液」と「血清」が診断のために最も重要とされています 。血液検体の場合は抗凝固剤を使用せずに5ml、血清・咽頭拭い液・尿の場合は2ml以上が必要です 。
血清学的検査は、SFTSウイルスに対する抗体の検出により診断を行う方法で、国立感染症研究所では複数の手法を組み合わせて実施しています 。
間接蛍光抗体法による抗体検出 ✨
間接蛍光抗体法は、血清中のSFTSウイルス特異的抗体を検出する標準的な手法です。IgM抗体の検出または急性期と回復期のペア血清による抗体価の有意な上昇を確認することで診断が確定します 。この検査は発症2週間以降の回復期において特に有用です。
ELISA法による抗体測定 🧪
ELISA法(酵素免疫測定法)は、より簡便で定量的な抗体検査として実施されています。IgM抗体の検出またはペア血清による抗体陽転若しくは抗体価の有意な上昇により診断を行いますが、非特異反応が検出されやすいため結果の解釈には注意が必要です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001314765.pdf
中和試験による抗体検出 ⚖️
中和試験は、ペア血清による抗体陽転または抗体価の有意な上昇を確認する最も特異性の高い検査法です 。しかし、SFTSウイルスが三種病原体であるため、BSL3施設での実施が必要となり、限られた施設でのみ実施可能です 。
SFTS検査の依頼は、医療機関から直接ではなく、保健所を経由した行政検査として実施される特殊なシステムになっています 。
参考)SFTS
保健所への相談と検査依頼 📞
臨床的特徴からSFTSが疑われる場合、医療機関は最寄りの保健所に相談し、血液・咽頭拭い液・尿の検体を用いたPCR検査を依頼します 。保健所では検査実施についての相談や、検査方法・必要検体等についての説明を行うため、検体採取前に必ず保健所まで問い合わせることが重要です 。
参考)https://www.pref.tokushima.lg.jp/sp/tokuho/taisaku/2016082500084/
二重チェック体制による検査の流れ 🔄
地方衛生研究所での一次検査で陰性の場合は概ね1週間程度で結果報告されますが、陽性の場合は国立感染症研究所で検査を行う二重チェック体制となっています 。この確認検査により、診断の確実性が担保されています。
検体輸送と梱包要件 📦
検体を国立感染症研究所に送付する際は、基本三重梱包として冷蔵または冷凍で送付する必要があります 。適切な梱包により、検体の品質保持と安全な輸送が確保されます。
参考)https://www.niid.jihs.go.jp/content2/research_department/vet/animal-borne-2_2025-06-10.pdf
国立感染症研究所では、感染症法に基づく厳格な診断基準を設定し、複数の検査手法を組み合わせることで高精度な診断を実現しています 。
確定診断の要件 ✅
次のいずれかが満たされた場合にSFTSと診断されます:分離・同定による病原体の検出、コンベンショナルRT-PCR法若しくはリアルタイムRT-PCR法による病原体遺伝子の検出、蛍光抗体法による抗体の検出(IgM抗体の検出又はペア血清による抗体陽転若しくは抗体価の有意の上昇)、中和試験による抗体の検出(ペア血清による抗体陽転又は抗体価の有意の上昇)。
発症時期による検査法の使い分け ⏰
急性期には血清からウイルス遺伝子の検出を行い、回復期には抗体検査を行うという時期に応じた適切な検査法の選択が重要です 。RT-PCR法は発症初期の診断に特に有効で、高い感度と特異度を示します 。
参考)重症熱性血小板減少症候群(SFTS) href="https://kobe-kishida-clinic.com/infection/infectious-diseases/severe-fever-with-thrombocytopenia-syndrome/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/infection/infectious-diseases/severe-fever-with-thrombocytopenia-syndrome/amp;#8211; 感染症…
検査の限界と注意点 ⚠️
検体の保存状態や発症後から採取までの日数等により、SFTSV遺伝子検査で陽性の検体であってもウイルス分離が不可能な場合があります 。また、全ての症状や検査所見が認められるわけではないため、マダニに刺されたことが確認されない場合でもSFTSは否定できません 。
参考)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A
国立感染症研究所では、SFTS診断法の改良と新技術の開発に継続的に取り組んでおり、より迅速で正確な診断システムの構築を目指しています 。
定量PCR法の開発と改良 📈
これまでに蓄積されてきたSFTSV遺伝子配列情報をもとに、遺伝子定量PCR法の開発・改良が進められています。この技術により、患者血清中のウイルス量を測定することが可能となり、病状の重症度判定や治療効果の評価に活用できると期待されています 。
抗原補足ELISAの開発 🧬
SFTSVの患者血清中のウイルス量をより簡便に測定可能とするための抗原補足ELISAの開発にも着手されています 。この技術は、従来の核酸検査よりも簡便で迅速な診断を可能にし、臨床現場での活用が期待されます。
簡易診断キットの必要性 🚀
医療現場でのより迅速な診断のため、簡易診断キットの開発が重要課題とされています 。現在の検査システムでは結果判明まで数日を要するため、ポイントオブケア検査として使用可能な迅速診断キットの実用化が急務となっています。
SFTS病原体検出マニュアル第2版 - 国立感染症研究所の最新検査プロトコルが詳細に記載
厚生労働省SFTSQ&A - 検査依頼方法と診断基準の公式ガイドライン