呼吸器疾患は多種多様で、その発生機序や病態により複数の分類方法があります。最も一般的な分類では、感染性疾患、慢性閉塞性疾患、間質性肺疾患、腫瘍性疾患、職業性肺疾患に大別されます。これらの疾患群は相互に関連し合い、時として併発することもあるため、包括的な理解が重要です。
参考)呼吸器の病気
現代の医療では、高齢化社会の進展に伴い呼吸器疾患の患者数は増加傾向にあり、世界保健機関(WHO)の予測では、2020年の世界における死因の3位から5位をCOPD、呼吸感染症、肺がんが占めるとされています。日本においても、悪性新生物の部位別死亡率で男性は肺がんが第1位、女性では大腸がんに次いで肺がんが第2位となっており、呼吸器疾患の社会的影響は極めて大きいのが現状です。
参考)呼吸器疾患の紹介
感染性呼吸器疾患は、ウイルス、細菌、真菌、非定型病原体などによって引き起こされる疾患群です。最も頻度の高いかぜ症候群(感冒)から、生命に関わる重篤な肺炎まで、その重症度は多岐にわたります。代表的な疾患として、インフルエンザ、急性気管支炎、市中肺炎、院内肺炎、肺膿瘍、肺結核、肺非結核性抗酸菌症があります。
参考)呼吸器疾患
🫁 急性感染症の特徴
🦠 細菌性肺炎の分類
慢性感染症では、肺結核と肺非結核性抗酸菌症が重要です。肺結核は結核菌による慢性感染症で、世界的に依然として重要な感染症です。近年増加傾向にある肺非結核性抗酸菌症は、環境菌による慢性進行性疾患で、特に中高年女性に多く見られます。これらの慢性感染症は長期間の治療を要し、しばしば治療困難例も経験されます。
参考)https://www.hosp.ikeda.osaka.jp/outline/feature/respiratory_disease/
慢性閉塞性疾患は、気道の狭窄により呼吸困難を引き起こす疾患群で、気管支喘息と慢性閉塞性肺疾患(COPD)が代表的です。これらの疾患は、気道の慢性炎症を基盤とし、可逆性または非可逆性の気流制限を特徴とします。
参考)代表的な呼吸器疾患
気管支喘息は、気道の慢性炎症による可逆性の気流制限を特徴とする疾患です。発作性の呼吸困難、喘鳴音、咳嗽、胸部圧迫感を主症状とし、特定の刺激(アレルゲン、感染、喫煙、気候変化など)に過敏に反応します。治療の基本は吸入ステロイドによる抗炎症療法で、長期管理薬として吸入ステロイドと長時間作用性β2刺激薬の配合剤が用いられます。
参考)気管支喘息の検査・治療
📊 喘息治療のステップ
**COPD(慢性閉塞性肺疾患)**は、主に喫煙により肺に慢性炎症が生じ、気道狭窄と肺胞壁の破壊(気腫化)を来す疾患です。進行性かつ不可逆性の気流制限を特徴とし、労作時呼吸困難、慢性咳嗽、喀痰を主症状とします。治療の柱は禁煙、気管支拡張薬、呼吸リハビリテーションで、重症例では在宅酸素療法が必要となります。COPDは世界的に増加傾向にあり、2020年には世界の死因第3位になると予測されています。
間質性肺疾患は、肺胞壁(間質)の炎症と線維化を特徴とする疾患群です。原因が特定できる続発性と、原因不明の特発性に大別され、特発性間質性肺炎(IIPs)は9つの疾患に分類されます。
参考)特発性間質性肺炎(指定難病85) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/302" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/302amp;#8211; 難病情報セ…
特発性間質性肺炎の主要疾患は以下の通りです:
参考)特発性間質性肺炎の概要 - 07. 肺と気道の病気 - MS…
🔬 頻度の高い疾患
**特発性肺線維症(IPF)**は最も頻度が高く、50歳以上の男性に多い疾患です。乾性咳嗽と労作時呼吸困難を主症状とし、進行性の肺線維化により呼吸不全に至る予後不良疾患です。近年、抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)の登場により、疾患進行の抑制が期待されています。
参考)特発性間質性肺炎(指定難病85) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/156" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/156amp;#8211; 難病情報セ…
続発性間質性肺疾患では、膠原病関連(特に関節リウマチ、全身性硬化症)、薬剤性、過敏性肺炎、職業性(石綿肺、珪肺)が重要です。これらは原因除去が治療の基本となり、早期診断と原因同定が極めて重要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/6/111_1114/_pdf
呼吸器系の腫瘍性疾患では、肺がんが最も重要で、組織型により4つに分類されます。日本では男性のがん死因第1位、女性では第2位を占め、その発生率は年々増加傾向にあります。
参考)肺がんの種類とは?組織型・治療方法・ステージ別による分類・タ…
肺がんの組織型分類:
🎯 非小細胞肺がん(約85%)
**小細胞肺がん(約15%)**は喫煙との関連が極めて強く、増殖が速く転移しやすいものの、薬物療法や放射線療法の反応は比較的良好です。治療法は従来の外科手術、放射線療法、化学療法に加え、近年は免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法が第4の治療として注目されています。
良性腫瘍では、気管支腺腫、過誤腫、炎症性偽腫瘍などがありますが、悪性腫瘍に比べ頻度は低く、多くは手術的切除により根治可能です。また、転移性肺腫瘍も重要で、他臓器から肺への転移は頻度が高く、原発巣の治療と並行した集学的治療が必要となります。
職業性肺疾患は、職務中に粉じん、抗原、化学物質、環境汚染物質等を吸入することで生じる呼吸器疾患です。主に過敏性肺炎とじん肺に大別され、進行すると肺の荒廃により予後不良となるため、早期診断と原因回避が極めて重要です。
じん肺は無機粉じんの長期吸入により生じ、以下の種類があります:
参考)I-02 職業性肺疾患 - I.その他
🏭 主要なじん肺の種類
過敏性肺炎は有機抗原の反復吸入により生じるアレルギー性疾患です。代表的なものに、酪農作業による農夫肺、鳥飼育による鳥飼病、自動車塗装によるイソシアネート肺があります。これらの疾患は職業歴の詳細な聴取が診断の鍵となり、原因抗原からの完全回避が治療の基本となります。
現在、じん肺の罹患率は職場の曝露対策普及や石綿の全面使用禁止により昭和50年をピークに減少傾向にありますが、過去の曝露による潜伏期間の長い疾患は今後も発症が予想されるため、長期的な健康管理が必要です。