ブスコパン禁忌と投与前確認事項

ブスコパンは消化管鎮痙薬として広く使用されていますが、閉塞隅角緑内障、出血性大腸炎、前立腺肥大による排尿障害、重篤な心疾患、麻痺性イレウスなど複数の禁忌があります。投与前に必ず確認すべき重要なポイントとは何でしょうか?

ブスコパンの禁忌と投与上の注意

📋 ブスコパン投与前の確認ポイント
⚠️
絶対禁忌疾患の確認

閉塞隅角緑内障、出血性大腸炎、前立腺肥大による排尿障害、重篤な心疾患、麻痺性イレウス、過敏症既往の6つを必ず確認

💊
抗コリン作用による影響

眼圧上昇、心拍数増加、排尿困難の増悪、消化管運動抑制などの作用機序を理解した投与判断が必要

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緑内障タイプの鑑別

開放隅角緑内障(狭隅角眼を除く)では投与可能だが、閉塞隅角緑内障では緑内障発作のリスクから絶対禁忌

ブスコパンの閉塞隅角緑内障における禁忌理由

 

ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン®)は、閉塞隅角緑内障の患者に対して絶対禁忌です。これは抗コリン作用により瞳孔が散大し、虹彩根部が隅角をさらに狭窄させ、完全に閉塞してしまうためです。
参考)医療用医薬品 : ブスコパン (ブスコパン注20mg)

隅角が完全に閉塞すると、眼内の房水(目の中を循環する液体)の流出経路が遮断され、眼圧が急激に上昇します。この状態は「急性閉塞隅角緑内障発作」と呼ばれ、激しい眼痛、視力低下、悪心・嘔吐、頭痛などの症状を引き起こします。緊急処置が必要な眼科救急疾患であり、適切な治療が遅れると不可逆的な視力障害を残す可能性があります。
参考)コラム|堀田眼科ホームページ 西宮市甲陽園

一方、開放隅角緑内障の患者では、隅角が広く房水の流出経路が確保されているため、原則として投与可能です。ただし、開放隅角緑内障と診断されている患者でも、Shaffer分類でGrade 1~2の狭隅角眼を有する場合は、ブスコパン投与により隅角閉塞が起こる可能性があるため注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11792375/

2019年に抗コリン薬の禁忌が「緑内障」から「閉塞隅角緑内障」に変更されたことで、開放隅角緑内障患者への不必要な投与制限が解消されました。しかし、医療従事者は緑内障のタイプを正確に鑑別し、適切な投与判断を行う必要があります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000529725.pdf

厚生労働省による抗コリン薬の禁忌見直しに関する通知(PDFファイル)では、緑内障の分類と抗コリン薬投与の考え方について詳細に解説されています

ブスコパンの出血性大腸炎における禁忌

出血性大腸炎、特に腸管出血性大腸菌(O157等)や赤痢菌による重篤な細菌性下痢の患者に対して、ブスコパンは絶対禁忌です。
参考)ブスコパンの禁忌はなんですか?

ブスコパンは抗コリン作用により消化管の蠕動運動を抑制します。出血性大腸炎の患者にブスコパンを投与すると、腸管運動が過度に抑制され、病原菌や毒素が腸管内に停留する時間が延長します。その結果、以下のような有害事象が発生します:
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00056272.pdf

  • 症状の悪化:腸管粘膜の炎症や出血が増悪する
  • 治療期間の延長:病原体の排出が遅延し、回復が遅れる
  • 合併症のリスク増加:溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重篤な合併症の発生リスクが上昇する可能性がある

医療従事者は、腹痛を訴える患者に対してブスコパンを投与する前に、必ず発熱の有無、下痢の性状(特に血便の有無)、腹部所見などを確認し、感染性腸炎の可能性を除外する必要があります。
参考)https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/bkrav/

ブスコパンの前立腺肥大・心疾患における禁忌

前立腺肥大による排尿障害
前立腺肥大により既に排尿困難がある患者では、ブスコパンの抗コリン作用により膀胱平滑筋の収縮力がさらに低下し、排尿障害が増悪します。尿閉(完全に尿が出なくなる状態)に至る可能性もあり、絶対禁忌とされています。投与前に排尿状況、前立腺肥大の既往、夜間頻尿などの症状の有無を確認することが重要です。
参考)ブスコパン(ブチルスコポラミン)の効果・副作用を医師が解説 …

重篤な心疾患:
ブスコパンは迷走神経遮断作用により心拍数を増加させます。重篤な心疾患うっ血性心不全、不整脈、虚血性心疾患など)のある患者では、心拍数の増加により心筋酸素消費量が増大し、心不全の増悪や不整脈の誘発、狭心症発作などを引き起こす可能性があります。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sinkei/RK-46551.pdf

副作用として動悸が0.1~5%の頻度で報告されており、重篤な心疾患患者では特に注意が必要です。内視鏡検査などでブスコパンの使用が必須となる場合は、循環器専門医と相談の上、心電図モニタリング下での慎重な投与を検討します。
参考)薬の副作用で、心不全が悪化?

日本心臓財団の解説では、ブスコパンの心血管系への影響について患者向けに分かりやすく説明されています

ブスコパンの麻痺性イレウスにおける禁忌と副作用

麻痺性イレウス:
麻痺性イレウスは腸管の蠕動運動が麻痺し、腸内容物の通過障害をきたす病態です。ブスコパンは消化管運動を抑制する作用があるため、麻痺性イレウス患者に投与すると腸管麻痺がさらに増悪し、症状の悪化や治療の遅延を招きます。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=56273

医療従事者は、腹部膨満、排ガス・排便の停止、腸蠕動音の減弱または消失などの臨床症状から麻痺性イレウスを疑い、画像検査で確認する必要があります。術後イレウス、電解質異常(特に低カリウム血症)、薬剤性イレウスなど、麻痺性イレウスの原因は多岐にわたるため、投与前の慎重な評価が重要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/ceaa11c184a1644723b4bd6a51dea6905170cc63

主な副作用:
ブスコパンの主な副作用として以下が報告されています:
参考)ブチルスコポラミン臭化物(ブスコパン錠®)では、どのような副…

副作用の分類 具体的症状 発現頻度
抗コリン作用 口渇、便秘、眼の調節障害(霧視) 比較的高頻度
循環器系 動悸、頻脈 0.1~5%
神経系 頭痛、めまい 0.1%以上
皮膚 発疹、蕁麻疹、紅斑、かゆみ 0.1%以上
消化器系 鼓腸(腹部膨満感) 報告あり

重大な副作用として、アナフィラキシーショック、呼吸困難なども報告されており、特に初回投与時や過去にアレルギー歴のある患者では注意深い観察が必要です。
参考)ブスコパンの飲み合わせ、併用禁忌があるかどうか知りたい

高温環境下では発汗抑制により熱中症のリスクが上昇するため、夏季や高温作業環境にいる患者への投与には注意が必要です。​

ブスコパン投与前の確認事項と医療従事者の責任

医療従事者がブスコパン投与前に確認すべき事項を体系的にまとめます。
必須確認項目:
既往歴の確認

  • 緑内障の有無(閉塞隅角緑内障か開放隅角緑内障かの鑑別)​
  • 心疾患の有無(心不全、不整脈、虚血性心疾患など)​
  • 前立腺肥大の有無と排尿状況​
  • 過去のブスコパン使用歴とアレルギー反応の有無​

現在の症状・所見の評価

  • 下痢の有無と性状(血便、粘血便の確認)​
  • 発熱の有無​
  • 腹部所見(腸蠕動音、腹部膨満、圧痛など)​
  • 排尿状況(尿閉、排尿困難の有無)​

併用薬の確認

特殊な状況の考慮

  • 妊娠・授乳中の患者​
  • 高齢者(副作用が発現しやすい)​
  • 高温環境での作業や生活​
  • 甲状腺機能亢進症の患者​

内視鏡検査における注意点:
内視鏡検査(胃カメラ、大腸ファイバーなど)では、消化管の緊張を抑えて観察しやすくするためにブスコパンが前処置として使用されます。検査前の問診では必ず「緑内障ではないか」「緑内障の治療薬を使用していないか」を確認します。
参考)https://mri-anzen.or.jp/qa/index.php?qa=353amp;qa_1=%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E6%99%82%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E3%83%96%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%91%E3%83%B3%E7%AD%89%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E6%B3%A8%E5%B0%84%E3%81%AE%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%9F%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6

MRI検査やCT colonographyなどの画像検査でも、腸管の蠕動を抑制して画像の質を向上させるためにブスコパンが使用されることがあります。検査室入室前に注射することで十分な効果が期待できますが、禁忌疾患の有無を必ず確認する必要があります。
参考)302 Found

胃X線検診では、バリウムを胃壁にまんべんなく付着させるためにブスコパンの筋肉内注射が行われることがあります。健診であっても禁忌事項の確認は必須であり、受検者に対する事前の問診が重要です。
参考)https://ameblo.jp/kenikukai-ishinomaki/entry-12767678197.html

日本消化器内視鏡学会のウェブサイトでは、内視鏡検査前の準備と使用薬剤について市民向けに解説されています
投与後の観察項目:
投与後は以下の症状に注意して観察を行います。

特に閉塞隅角緑内障を見逃してブスコパンを投与した場合、投与後数時間以内に急性緑内障発作が発症する可能性があるため、処置後の指導が重要です。患者には「眼痛、充血、視力低下、頭痛、悪心・嘔吐が現れた場合は直ちに受診すること」を説明する必要があります。​
医療従事者の責任として、禁忌事項を十分に理解し、投与前の確認を怠らないことが医療安全上極めて重要です。マニュアル化されたチェックリストの活用や、電子カルテでのアラート機能の導入なども有効な対策となります。
参考)https://kango-oshigoto.jp/hatenurse/article/1405/

 

 


【第2類医薬品】ブスコパンA錠 20錠