セフジトレンピボキシルは、経口投与後に腸管壁で代謝を受けてセフジトレンとなり抗菌活性を発揮する第3世代セフェム系抗菌薬です。その作用機序は細菌細胞壁の合成阻害であり、特に各種細菌のペニシリン結合蛋白(PBP)に対する高い親和性により殺菌的に作用します。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00053390
副鼻腔炎の主要起炎菌である肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスに対して優れた抗菌力を示し、特にβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)に対しても強い抗菌活性を有しています。この薬理学的特徴により、従来の抗菌薬に耐性を示す細菌による副鼻腔炎に対しても有効性が期待できます。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/antibiotics/6132015F1088
グラム陽性菌のブドウ球菌属やレンサ球菌属、グラム陰性菌の大腸菌やクレブシエラ属など幅広い抗菌スペクトルを有し、嫌気性菌のペプトストレプトコッカス属やバクテロイデス属にも抗菌力を示します。また、各種細菌が産生するβ-ラクタマーゼに対して安定性が高く、β-ラクタマーゼ産生株に対しても有効性を維持することが確認されています。
急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインでは、セフジトレンピボキシルは二次治療における選択肢として位置づけられています。一次治療でアモキシシリンが無効の場合、中等症(スコア4-6点)において「その他の選択」として1回200mg、1日3回の投与が推奨されています。
重症度評価において、軽症(スコア1-3点)では抗菌薬非投与で5日間経過観察、中等症では第一選択としてアモキシシリン、重症(スコア7-8点)では第一選択としてアモキシシリンまたは第二選択としてキノロン系抗菌薬が選択されます。セフジトレンピボキシルは、これらの標準治療で効果不十分な場合に考慮される薬剤として重要な役割を果たします。
治療効果の判定は投与開始から5日後に行い、改善が認められない場合は培養結果を加味して二次治療へ移行します。この際、鼻局所処置による鼻汁吸引、鼻粘膜浮腫軽減、副鼻腔自然口開大を十分に行うことが治療成功の鍵となります。
セフジトレンピボキシルの副鼻腔炎に対する臨床効果について、中耳炎・副鼻腔炎合わせた有効率は72.3%(141/195例)と報告されています。また、別の臨床試験では中耳炎、副鼻腔炎に対する有効率が100%(18/18例)という優秀な成績も示されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070510.pdf
成人における用法・用量は通常1回100mg(力価)を1日3回食後経口投与とし、年齢及び症状に応じて適宜増減が可能です。重症又は効果不十分と思われる場合には増量が検討されます。小児においても細粒製剤が利用可能で、年齢・体重に応じた用量調整が行われます。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071149
臨床試験における安全性評価では、456例中19例(4.17%)に副作用が報告され、主な内容は消化器症状でした。大規模な臨床試験では2,301例中91例(3.95%)に副作用が認められ、下痢、軟便、嘔気、胃不快感等の消化器症状87件(3.78%)が最も多く、発疹等のアレルギー症状11件(0.48%)が続きました。
投与期間は原則として5日間とし、症状の改善が認められない場合は他の抗菌薬への変更を検討します。治療効果の判定には細菌学的検査結果も重要であり、薬剤感受性試験により適切な抗菌薬選択が可能となります。
セフジトレンピボキシルの副作用プロファイルは他のセフェム系抗菌薬と類似しており、主として消化器症状が中心となります。最も頻度の高い副作用は下痢、軟便で、これは抗菌薬による腸内細菌叢の変化に起因します。この対策として整腸剤の併用が推奨されることがあります。
参考)https://utu-yobo.com/column/643
重大な副作用として、ショック・アナフィラキシー、偽膜性大腸炎等の血便を伴う重篤な大腸炎、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑などが報告されています。これらの重篤な副作用は頻度不明ですが、投与中は十分な観察が必要です。
その他の副作用として、肝機能検査値異常(AST、ALT、ALP上昇)、腎機能障害(BUN上昇、蛋白尿、血中クレアチニン上昇)、血液学的異常(好酸球増多、無顆粒球症、血小板減少)などが報告されています。特に無顆粒球症や血小板減少では、突然の発熱、咽頭痛、倦怠感、皮下出血、鼻血、歯肉出血などの症状に注意が必要です。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00053219
妊婦に対する安全性については、セフジトレンピボキシルは妊婦に対して安全性の高いセフェム系抗菌薬として位置づけられており、胎児への影響も比較的少ないとされています。ただし、妊娠中の使用においては十分な検討が必要です。
参考)https://www.mcfh.or.jp/netsoudan/article.php?id=1927
近年、抗菌薬の不適切使用により薬剤耐性菌の増加が問題となっており、副鼻腔炎治療においても耐性菌対策は重要な課題です。セフジトレンピボキシルは、β-ラクタマーゼ産生菌やBLNARに対しても有効性を示すため、従来の抗菌薬に耐性を示す菌による感染症に対する重要な治療選択肢となっています。
参考)https://www.takamura-clinic.jp/blog/2017/01/post-37.html
薬剤耐性菌の発現を抑制するためには、適切な抗菌薬選択と適正使用が不可欠です。「抗微生物薬適正使用の手引き」に従い、抗菌薬投与の必要性を慎重に判断し、培養・感受性試験結果に基づいた治療を行うことが重要です。不必要な抗菌薬使用や不適切な投与期間は避けるべきです。
将来的には、分子診断技術の進歩により起炎菌の迅速同定と薬剤感受性判定が可能となり、より適切な抗菌薬選択が実現されると期待されます。また、バイオマーカーを用いた細菌感染とウイルス感染の鑑別技術の発展により、不必要な抗菌薬使用の回避が可能になると考えられます。
セフジトレンピボキシルは、その優れた薬理学的特性と臨床効果により、今後も副鼻腔炎治療における重要な抗菌薬として位置づけられると予想されます。ただし、適正使用の原則を遵守し、耐性菌の発現を最小限に抑制することが医療従事者に求められる責務です。