チャーグ・ストラウス症候群(現在は好酸球性多発血管炎性肉芽腫症:EGPA)は、1951年にChurgとStraussによって病理学的見地から提唱された疾患です。この疾患の最も重要な特徴は、血管壁内部に好酸球が侵入して血管炎を起こし、その炎症反応によって肉芽腫という腫瘤が血管の内外に多発することです。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/3878
病態の根本的なメカニズムには、アレルギー性の機序が深く関与していると考えられています。患者の大部分が成人発症の気管支喘息およびアレルギー性鼻炎に続いて発症し、血液検査で好酸球増多が認められることから、この関連性が強く示唆されています。
参考)https://www.sokacity.or.jp/kenkou/k_number/kenkou140310.html
ANCA関連血管炎の一つとして分類され、約5~7割の患者でP-ANCA(MPO-ANCA)という自己抗体が陽性となります。この自己抗体の存在は診断の重要な手がかりとなりますが、陰性例も存在するため、臨床症状と他の検査所見を総合的に評価する必要があります。
参考)https://ryumachi.umin.jp/dis/14.html
この疾患の臨床経過は、特徴的な三段階の病期に分けられますが、これらは必ずしも連続しているわけではなく、時間間隔には大きなばらつきがあります。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/06-%E7%AD%8B%E9%AA%A8%E6%A0%BC%E7%B3%BB%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E7%B5%90%E5%90%88%E7%B5%84%E7%B9%94%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%82%8E/%E5%A5%BD%E9%85%B8%E7%90%83%E6%80%A7%E5%A4%9A%E7%99%BA%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%82%8E%E6%80%A7%E8%82%89%E8%8A%BD%E8%85%AB%E7%97%87-egpa
第一期(前駆期):アレルギー症状の前段階 🫁
この病期は数年間持続することがあり、アレルギー性鼻炎、鼻茸、気管支喘息、またはこれらの組合せが認められます。特に気管支喘息が先行症状として重要で、多くの患者がこの段階で呼吸器症状を経験します。
第二期:好酸球増多期 🔬
末梢血および組織の好酸球増多が典型的に見られる時期です。臨床像はレフレル症候群に類似することがあり、慢性好酸球性肺炎や好酸球性胃腸炎などを呈します。この段階で血液検査の異常が顕著になり、診断の手がかりとなります。
第三期:血管炎期 ⚠️
生命を脅かす可能性がある血管炎が出現する最も重要な段階です。臓器機能不全および全身症状(発熱、倦怠感、体重減少、疲労)がこの病期によく見られます。
ドイツでの研究によると、150例の症状および徴候の頻度は以下の通りです。
参考)http://www.imed3.med.osaka-u.ac.jp/disease/d-immu06-8.html
診断においては、臨床症状、血液検査所見、病理組織検査を総合的に評価する必要があります。特に重要な診断要素は以下の通りです。
血液検査による評価 🩸
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/clinicalneurol/53/2/53_131/_article/-char/ja/
病理組織学的特徴
生検による確定診断が最も確実とされており、好酸球浸潤を伴う壊死性血管炎や血管内外の肉芽腫の存在が特徴的です。しかし、侵襲的な検査であるため、臨床所見と血液検査を重視した診断も行われます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A5%BD%E9%85%B8%E7%90%83%E6%80%A7%E5%A4%9A%E7%99%BA%E8%A1%80%E7%AE%A1%E7%82%8E%E6%80%A7%E8%82%89%E8%8A%BD%E8%85%AB%E7%97%87
画像診断の役割 📸
鑑別診断では、他のANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症)、結節性多発動脈炎、超好酸球症候群などとの区別が重要です。特に気管支喘息の既往と好酸球増多の組み合わせが鑑別の重要なポイントとなります。
治療の第一選択薬はステロイドであり、多くの症例でプレドニン30~60mg程度の投与により改善が期待できます。治療効果は一般的に良好で、適切な治療により軽快する症例が多いとされています。
ステロイド治療のプロトコール 💊
重症例での併用療法
脳出血・脳梗塞、心筋梗塞・心外膜炎、消化管穿孔などの重篤な合併症を有する場合は、免疫抑制薬のシクロホスファミドを併用した治療が必要です。これらの臓器病変は生命予後に直接関わるため、迅速かつ積極的な治療介入が求められます。
新しい治療選択肢 ✨
最近では、ガンマグロブリン静注療法(IVIG)の有効性が報告されており、従来の治療に抵抗性を示す症例や、ステロイドの副作用が懸念される症例での選択肢となっています。また、生物学的製剤の使用についても検討が進められています。
治療中の注意点
ステロイド長期使用による副作用(骨粗鬆症、糖尿病、感染症リスク上昇など)への対策が重要です。特に真菌感染症のリスクが高く、実際にステロイド投与中に拡張気管支内に真菌塊を認めた症例も報告されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/ca74ae46d3d11ae64fc8d7235e1102308d98bcd7
本疾患の予後は、早期診断と適切な治療により大幅に改善されましたが、依然として重篤な合併症のリスクが存在します。特に注意すべき合併症と、その管理について詳しく解説します。
心血管系合併症 ❤️
心外膜炎、不整脈、狭心症、冠動脈炎が47%の患者に認められます。重篤な心内膜筋炎を合併する例も報告されており、心電図やエコー検査による定期的な監視が不可欠です。心筋梗塞や急性心不全のリスクもあるため、胸痛や息切れなどの症状には特に注意を払う必要があります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/edcf9f672884a2d10e885ade5263def8d7580209
神経系合併症の長期管理 🧠
多発性単神経炎による下肢あるいは上肢の知覚障害(主にしびれ)や運動障害は、治療後も残存することがしばしばあります。これらの症状は患者の日常生活に大きな影響を与えるため、理学療法やリハビリテーションを組み合わせた包括的なアプローチが重要です。実際に、重度の多発性単神経炎に対する理学療法により歩行を獲得し、家庭復帰が可能となった症例も報告されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/0efccc2a2674825a1f0eccbff6108b212de519dc
妊娠・出産時の特別な配慮 🤱
妊娠合併例では、緊急帝王切開術などの外科的処置が必要になることがあります。麻酔管理や周術期の免疫抑制療法の調整など、産科・麻酔科・リウマチ科の連携による慎重な管理が求められます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/5b101d1088492ab0b7b1f452bb955bff5a81a1fb
眼科的合併症への対応 👁️
強膜炎(12%)に加えて、極めて稀ですが前部虚血性視神経症(AION)を合併する可能性があります。視力障害や視野欠損などの症状が現れた場合は、眼科専門医による緊急対応が必要です。
参考)https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/108_612.pdf
定期的なモニタリング項目
現在では年間発症頻度が2.4人/100万人と稀な疾患ですが、適切な診断と治療により、多くの患者が良好な予後を得ることができています。医療従事者には、この疾患の多様な症状と進行パターンを理解し、早期発見・早期治療につなげることが求められています。
参考)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000618/