好酸球(eosinophil granulocyte)は、顆粒球に分類される白血球の一種で、独特な形態学的特徴を持っています。細胞の直径は10~15マイクロメートルと好中球よりもやや大型で、核は通常2分葉に分かれ、細いクロマチン糸で連結されています。
最も特徴的なのは、細胞質に充満する好酸性顆粒です。これらの顆粒はエオジン親和性を示し、普通染色では橙黄色に染まる均質で粗大な構造として観察されます。好酸球は末梢血中の白血球の0.5~13%を占めており、正常値は300~500個/μLとされています。
興味深いことに、好酸球は末梢血よりも組織に多く存在し、脾臓、リンパ節、消化管、子宮、胸腺、乳腺などの末梢組織では末梢血の約100倍の濃度で分布しています。これは好酸球が循環血液中だけでなく、組織レベルでの免疫機能を担っていることを示しています。
好酸球はI型アレルギー反応において重要な調節機能を果たします。アレルギー反応が発生すると、Th2優位のサイトカイン環境下で好酸球が病変局所や血中に動員されます。
🔹 ヒスタミンの不活性化機能
好酸球は肥満細胞から放出されるヒスタミン、ロイコトリエン、リゾリン脂質、ヘパリンといったアレルギーメディエーターを分解・不活化する能力を持っています。これにより即時型過敏反応を抑制し、アレルギー症状の重篤化を防ぐ重要な役割を担っています。
🔹 組織リモデリングへの関与
好酸球は組織を溶解する酵素を分泌し、慢性アレルギー疾患における組織の再構築(リモデリング)に影響を与えます。この機能は喘息などの慢性炎症性疾患の病態形成において重要な意味を持ちます。
🔹 IL-5による活性化メカニズム
肥満細胞から分泌されるインターロイキン-5(IL-5)により好酸球は活性化されます。IL-5は好酸球の産生を特異的に増加させる唯一のサイトカインとして知られており、アレルギー性疾患の治療標的としても注目されています。
好酸球の最も重要な生物学的機能の一つは、寄生虫感染に対する防御です。特に蠕虫感染に対して強力な防御機構を発揮します。
🔹 特殊な顆粒タンパク質による攻撃
好酸球の顆粒には4つの主要なタンパク質が含まれています。
これらのタンパク質は数種の寄生虫および哺乳動物細胞に対して傷害性を示し、感染防御の第一線として機能します。
🔹 弱い貪食能力
好酸球は食作用を有していますが、細胞内寄生細菌を死滅させる効率は好中球よりも劣ります。しかし、寄生虫感染においては、直接的な貪食よりも顆粒タンパク質による細胞外での攻撃が主要な防御メカニズムとなります。
興味深いことに、in vitroでは好酸球が蠕虫に対して傷害性を示すものの、in vivoで好酸球が寄生虫を直接死滅させるという決定的なエビデンスは得られていません。これは好酸球の機能がより複雑で、他の免疫細胞との協調的な作用によって発揮される可能性を示唆しています。
好酸球増多症は末梢血の好酸球絶対数が500/μLを超える状態として定義されます。重症度に応じて分類されており、臨床診断と治療方針決定において重要な指標となります。
🔹 重症度分類
🔹 好酸球増多症候群(HES)の診断基準
好酸球増多症候群は以下の3つの基準をすべて満たす必要があります。
臓器障害の具体的な症状には、繊維化、血栓・血栓塞栓症、皮膚粘膜の紅斑・浮腫・搔痒・湿疹、中枢・末梢神経ニューロパチーなどがあります。
🔹 鑑別すべき疾患
好酸球が上昇する疾患は多岐にわたり、感染症、皮膚疾患、呼吸器疾患、悪性腫瘍、免疫疾患、神経疾患、消化器疾患、薬剤性などが含まれます。そのため、好酸球の上昇のみでは疾患を特定することは困難で、包括的な臨床評価が必要です。
シャルコー-ライデン結晶は、主成分がホスホリパーゼBで、好酸球増多がみられる疾患(喘息、好酸球性肺炎など)では、喀痰、組織、糞便中に認められる特徴的な所見です。
近年の研究により、好酸球は単一の細胞集団ではなく、異なる機能を持つサブタイプが存在することが明らかになってきました。これは好酸球の「善玉説」と「悪玉説」の議論に新たな視点をもたらしています。
🔹 レジデント好酸球と誘導性好酸球
コンセンサスが得られているサブタイプとして、以下の2つが知られています。
🔹 CD69+好酸球の発見
2025年の最新研究では、CD69分子を発現する特殊な好酸球サブタイプが発見されました。CD69+好酸球は以下の特徴を示します。
この発見により、誘導性好酸球の中にも炎症促進型とCD69分子を発現する制御型のサブタイプが存在することが推察されています。
🔹 臨床応用への期待
好酸球サブタイプの理解は、アレルギー疾患や好酸球性疾患の治療戦略に革新をもたらす可能性があります。特定のサブタイプを標的とした治療法の開発により、より精密で効果的な医療の実現が期待されています。
この研究成果は、好酸球の機能が従来考えられていたよりもはるかに複雑で多様であることを示しており、個別化医療の観点からも重要な意味を持ちます。
関西医科大学による好酸球のサブタイプに関する最新研究
https://www.kmu.ac.jp/news/laaes7000000uskf-att/20250124Press_Release.pdf
MSDマニュアルの好酸球の産生と機能に関する専門的解説
https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E5%A5%BD%E9%85%B8%E7%90%83%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%A5%BD%E9%85%B8%E7%90%83%E3%81%AE%E7%94%A3%E7%94%9F%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E6%A9%9F%E8%83%BD