自己血管内シャント(AVF:Arteriovenous Fistula)は、血液透析患者の約90%が使用している最も標準的なバスキュラーアクセスです 。患者自身の動脈と静脈を直接吻合することで作製され、優れた開存性と感染抵抗性を持ちます 。[1][2][3]
手術は通常、前腕の橈骨動脈と橈側皮静脈を接合して行われ、手術時間は約60分程度で済みます 。術後2-4週間の成熟期間を経て使用可能となり、この期間中はゴムボール運動などによる血管発達促進が推奨されます 。
参考)シャントについて解説
自己血管内シャントは長期使用可能で、適切な管理により10年以上機能することも珍しくありません 。また、人工材料を使用しないため感染リスクが最も低く、維持管理も比較的容易です 。
参考)シャントの種類
人工血管内シャント(AVG:Arteriovenous Graft)は、自己血管の状態が不良な患者に適応される第二選択のバスキュラーアクセスです 。透析患者の約7%が使用しており、ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)などの合成材料を用いて作製されます 。[3][5][4]
人工血管の配置方法には、ループ状やストレート状など複数のパターンがあり、患者の血管状態や皮膚の状況に応じて選択されます 。手術後は比較的早期から使用可能で、自己血管のような成熟期間を必要としません 。
参考)柏市・松戸市・我孫子市でシャント手術(バスキュラーアクセス)…
しかし、人工血管内シャントは自己血管と比較して血栓形成率が高く、感染症のリスクも増加します 。平均的な機能期間は2-3年程度とされており、定期的な監視とメンテナンスが特に重要となります 。
参考)シャント手術
動脈表在化は、深部に位置する上腕動脈を皮下浅層に移動させる特殊な外科的手技です 。全透析患者の約2%で適用されており、心不全などでシャント作製による循環負荷増加が問題となる患者に特に有用です 。[8][9][2]
この手技では、上腕動脈を皮下に挙上させ、直接穿刺可能な状態にします 。動静脈間の短絡を作らないため、心循環系への負担が最小限に抑えられる利点があります 。
参考)バスキュラーアクセスについて解説
一方で、動脈の直接穿刺による合併症リスクがあり、適切な穿刺技術と止血処置が要求されます 。また、使用可能な血流量に制限があるため、高効率透析が困難な場合もあります。
参考)バスキュラーアクセス
透析用カテーテルは、緊急透析開始時や他のバスキュラーアクセスが使用困難な場合の最終選択肢として位置づけられます 。全透析患者の約1-3%で使用され、頸静脈、鎖骨下静脈、大腿静脈などの中心静脈に留置されます 。[12][2][10][9]
カテーテルには、一時的使用を目的とした非カフ型カテーテルと、長期使用可能なカフ型カテーテルの2種類があります 。カフ型カテーテルは皮下組織内にカフ(袖)構造を持ち、感染防止効果を持つため長期留置が可能です 。
参考)腎臓病)バスキュラーアクセス(前編)
しかし、カテーテルは感染や血栓形成のリスクが最も高く、血流量確保の面でも制限があります 。そのため、可能な限り早期の内シャント移行が推奨されています。
バスキュラーアクセスの選択には、従来の教科書的基準に加えて、患者の生活様式や社会的背景を考慮した個別化アプローチが重要となります。例えば、職業的に腕を頻繁に使用する患者では、シャント部位の選択において作業効率への影響を十分考慮する必要があります。
また、高齢患者では認知機能の程度がバスキュラーアクセス管理能力に直結するため、家族のサポート体制も選択因子として評価されます。さらに、患者の予後予測に基づいて、長期的な視点でのアクセス戦略を立案することが求められています。
最近の研究では、患者の血管内皮機能や炎症マーカーが、バスキュラーアクセスの長期開存性予測に有用である可能性が示されており、これらの生物学的マーカーを活用した選択基準の確立が期待されています。
日本透析医学会による血液透析用カテーテル挿入手技の実態調査
バスキュラーアクセスインターベンション治療の基本的技術ガイドライン