リファンピシンの副作用と対策

リファンピシンは結核治療の主要薬剤ですが、肝障害、血液障害、薬物相互作用など多様な副作用が報告されています。医療従事者として、これらの副作用をどのように早期発見し対処すべきでしょうか?

リファンピシンの副作用

リファンピシンの主要な副作用
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肝機能障害

最も頻度の高い副作用で、AST/ALT上昇やビリルビン値異常を伴う重篤な肝障害が発生する可能性があります

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血液障害

血小板減少、溶血性貧血、無顆粒球症など免疫学的機序による血液毒性が報告されています

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薬物相互作用

CYP3A4誘導により多くの薬剤の血中濃度を低下させ、治療効果減弱のリスクがあります

リファンピシンによる肝障害の特徴と頻度

 

リファンピシン投与における肝障害は最も重要な副作用の一つであり、発生頻度は報告により異なりますが、臨床試験では19.3%の患者で肝機能障害が認められています。肝障害の発現様式には、AST・ALT上昇を主体とする肝細胞障害型と、総ビリルビン値やALP値の上昇を特徴とする胆汁うっ滞型の2つのパターンが存在します。
参考)https://medical.nihon-generic.co.jp/uploadfiles/medicine/RIFAM_IF.pdf

肝障害の多くは投与開始1~2ヶ月後に発生し、比較的軽度のトランスアミナーゼ上昇(AST/ALT 150 U/L程度まで)であれば、投与を継続しても自然に正常化することが多いとされています。しかし、総ビリルビン値が2.0 mg/dL以上に上昇した場合には、劇症肝炎などの重篤な肝機能障害へ進展するリスクがあるため、全抗結核薬を直ちに中止し悪化を防ぐ必要があります。
参考)https://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06704/067040452.pdf

抗結核薬使用中の肝障害への対応について - 日本結核病学会の詳細なガイドライン
リファンピシンの肝毒性はイソニアジドよりも低頻度であることが報告されており、潜在性結核感染症治療における検討では、リファンピシンによる肝障害は必ずしもALP/γGTPの異常を伴わないことも示されています。イソニアジドとの併用時には、リファンピシンの酵素誘導作用によりイソニアジドから生成される肝毒性代謝物が増加し、肝機能障害の出現頻度が増加する可能性が指摘されています。
参考)https://www.kekkaku.gr.jp/pub/vol91(2016)/vol91no5p509-513.pdf

リファンピシンによる血液障害のメカニズム

リファンピシンによる血液障害には、骨髄抑制による直接的な毒性と免疫学的機序による薬剤性血球減少の2つの機序が存在します。骨髄抑制による白血球や血小板の減少は多くの患者で認められますが、ほとんどの場合は軽度で下げ止まるため、投与継続が可能です。
参考)http://ntm-jrc.kenkyuukai.jp/images/sys%5Cinformation%5C20170825110022-19772D0383A6DA1EE5FFB19A5DA21FBA849B46306CDD1E2FF8DA268CAD8754BB.pdf

より重篤な合併症として、免疫学的機序による薬剤性血小板減少症があり、本邦の文献検索では6例の症例報告が存在します。これらの報告では、リファンピシンの投薬期間が8日から2年間で血小板減少が発生していますが、半数は1カ月以内に認めています。特に、過去にリファンピシンの投与歴がある患者では、再投与後より早期(8日から2カ月間)に血小板減少を認める傾向があり、これは過去の投与により薬剤に対して感作を受けていたためと考えられています。
参考)https://www.kekkaku.gr.jp/academic_journal/pdf/data_78/data_78_7/p491-496.pdf

血小板減少症の臨床経過としては、リファンピシン中止後6日程度で臨床症状が軽快することが報告されており、PA-IgGの上昇を伴う自己免疫性血小板減少症の機序が示唆されています。発疹、発熱、溶血性貧血、血小板減少、間質性腎炎などは過敏反応と考えられており、治療が間欠的に行われる場合により発生しやすいとされています。
参考)リファマイシン系 - 13. 感染性疾患 - MSDマニュア…

リファンピシンの薬物相互作用とCYP450誘導

リファンピシンは肝臓においてチトクローム P450(CYP3A4)の強力な誘導作用を持ち、これにより多くの薬剤の代謝が亢進し血中濃度が低下します。この薬物相互作用は臨床上極めて重要で、併用薬の治療効果減弱や副作用発現のリスクを高めます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11498049/

特に問題となる薬剤として以下が挙げられます。

 

HIV感染症合併結核の治療上の問題点 - リファマイシン系薬剤との相互作用詳細
リファンピシンと降圧薬との相互作用も報告されており、CYP3A4誘導による降圧薬の効果減弱により重症高血圧が生じた症例では、リファブチンへの変更により血圧が改善しています。心不全治療薬との併用においても、リファンピシンの酵素誘導作用により薬剤の血中濃度低下と心不全増悪が報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/54/10/54_529/_pdf

リファンピシン特有の色素沈着と体液変色

リファンピシン投与により、尿、便、汗、涙、唾液などの体液がオレンジ色から赤色に変色する現象が高頻度で認められます。これは薬剤そのものの色素によるもので、健康への直接的な害はありませんが、患者への事前説明が重要です。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2008/P200800040/40007900_22000AMX01767_G101_1.pdf

体液変色に関連する実際的な問題として以下が挙げられます。

 

患者はこの色素変化を副作用と誤解し服薬アドヒアランスが低下する可能性があるため、投与開始前に十分な説明を行い、これが薬剤の正常な作用であることを理解してもらう必要があります。また、体液の色素変化は薬剤が体内に存在する証拠でもあり、逆に変色がなくなった場合は服薬遵守の確認が必要となります。​

リファンピシン間欠投与時の副作用リスク

リファンピシンの投与方法として、毎日投与と間欠投与(週2回など)がありますが、間欠投与では特定の重篤な副作用のリスクが増加することが知られています。間欠投与または一時中止後の再投与時には、アレルギー性の副作用が現れやすく、以下のような重篤な合併症が報告されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051826.pdf

これらの副作用は免疫学的機序によるものと考えられ、間欠投与により薬剤に対する感作が成立しやすくなるためと推察されています。結核化学療法における週2回間欠療法の効果に関する研究では、初期強化期間にピラジナミドを加えない場合の維持期における週2回投与では不十分な滅菌効果しか得られないことも明らかになっており、有効性の面でも問題があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/kekkaku1923/81/5/81_5_363/_pdf

したがって、リファンピシンの投与は原則として毎日投与が推奨され、やむを得ず間欠投与や再投与を行う場合には、患者の十分な観察と副作用モニタリング体制の強化が必要です。
参考)リファンピシン (Rifampicin):抗菌薬インターネッ…

リファンピシン副作用時のリファブチンへの変更戦略

リファンピシンの副作用により治療継続が困難な場合、同じリファマイシン系抗生物質であるリファブチンへの変更が検討されます。リファブチンはリファンピシンと比較してCYP3A4誘導作用が弱いため、薬物相互作用が問題となる症例や抗HIV薬併用時に特に有用です。
参考)Qhref="https://www.kekkaku.gr.jp/faq/510/" target="_blank">https://www.kekkaku.gr.jp/faq/510/amp;#038;A 5: 学会のガイドラインにおける肺結核の標…

単一施設の後ろ向き研究(2006-2010年、結核患者2868例)では、221例(8%)が副作用によりリファンピシンからリファブチンへ変更され、そのうち158例(72%)は副作用なくリファブチンの投与を継続できたことが報告されています。この結果は、リファンピシン不耐例の約3分の2でリファブチンによる治療継続が可能であることを示唆しています。
参考)Hospitalist ~なんでも無い科医の勉強ノート~: …

ただし、リファブチンにも独自の副作用プロファイルが存在します。

 

📌 リファブチンの主な副作用

リファンピシンからリファブチンへの変更時の用量は、通常5 mg/kg(最大300 mg/日)ですが、抗HIV薬のエファビレンツ等との併用によりリファブチンの血中濃度低下が予想される場合は最大450 mgまで増量を検討します。一方、リトナビルブーストプロテアーゼ阻害剤との併用時にはリファブチンの血中濃度が上昇するため150 mg/日に減量する必要があります。
参考)https://www.kekkaku.gr.jp/commit/tiryou/200808.pdf

リファマイシン系抗生物質リファブチンの結核への使用についての見解 - 日本結核病学会
リファンピシンに耐性の結核菌は一部を除きリファブチンにも耐性であるため、多剤耐性結核菌への使用については薬剤感受性検査の方法も含め今後も経験の蓄積が必要です。​

リファンピシン治療におけるモニタリングと早期発見

リファンピシンの副作用を早期に発見し重篤化を防ぐためには、定期的なモニタリングが不可欠です。治療薬物モニタリング(TDM)は、治療効果や副作用に関する様々な因子を観察しながら個別化した薬物投与を行うための重要な手法です。
参考)HOME

推奨される定期検査項目:
🔬 肝機能検査

  • AST、ALT、ALP、γGTP、総ビリルビン値
  • 投与開始後1~2ヶ月は特に注意深く監視​
  • ビリルビン値2.0 mg/dL以上で全薬剤中止を検討​

🩸 血液検査

🧪 腎機能検査

患者への自己チェック教育も重要で、以下の症状出現時には速やかに医療機関を受診するよう指導します。​

  • 食欲不振、全身倦怠感、皮膚や白目の黄染(肝障害の兆候)
  • 発熱、悪寒、呼吸困難(ショック、アナフィラキシーの可能性)
  • 異常な出血傾向、あざの出現(血小板減少の兆候)
  • 顔や手足のむくみ、尿量減少(腎障害の兆候)

リファンピシンの血中濃度測定(TDM)については、通常の結核治療では必ずしもルーチンで実施されませんが、肝機能障害や腎機能障害を有する患者、高齢者、薬物相互作用が懸念される場合には、個別化投与のために考慮すべきです。適切なTDMの実施時期は薬物動態学的定常状態に達した後が望ましく、バンコマイシンの例では投与開始後4~5日目以降が推奨されています。
参考)薬物血中濃度モニタリングのタイミング

結核治療は長期にわたるため、患者のアドヒアランス維持と副作用の早期発見のバランスを取りながら、定期的なモニタリング体制を構築することが医療従事者に求められています。

 

 


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