肝細胞がんは初期には自覚症状がほとんど現れず、「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓の特性から、定期検診やスクリーニングで偶然発見されるケースが多いです[2][6]。進行すると、腹部のしこりや圧迫感、右上腹部の痛み、体重減少、倦怠感、黄疸、腹水、浮腫などの症状が現れます[4][8]。また、発熱や原因不明の健康状態の悪化、腫瘍の出血による血性腹水やショック、腹膜炎が初発症状となる場合もあります[2]。時に低血糖や高カルシウム血症などの全身性の代謝異常も生じることがあります。肝硬変や慢性肝炎を背景に発症することが多く、慢性肝疾患の管理も極めて重要です。
肝細胞がんの診断には、血液検査(肝機能、腫瘍マーカーAFPやPIVKA-II)、画像診断(腹部超音波、CT、MRI)、必要に応じて生検が用いられます[8]。AFP(αフェトプロテイン)は特に重要な腫瘍マーカーで、進行度や治療効果判定にも使われます。画像診断では、腫瘍の大きさや数、肝内外への広がり、血管やリンパ節への浸潤の有無を評価し、治療方針決定に直結します。PETスキャンは代謝活性の評価に活用されることもあり、難治例や再発例での補助診断として有用です。慢性肝疾患患者では定期的なスクリーニングが推奨され、早期発見の鍵となります。
治療方針は、がんの進行度(ステージ)、肝予備能(Child-Pugh分類)、腫瘍の数・大きさ・部位、全身状態などを総合的に判断して決定されます[4][7]。
・手術(肝切除):肝予備能が良好で、腫瘍が限局している場合に適応。切除後の残肝量が十分確保できることが条件です。
・穿刺局所療法(ラジオ波焼灼療法・マイクロ波焼灼療法):3cm以下、3個以下の小型腫瘍に有効。画像ガイド下で腫瘍に針を刺し、熱凝固壊死させます。
・肝動脈化学塞栓療法(TACE):多発例や手術困難例に適応。カテーテルで抗がん剤を注入し、腫瘍の栄養動脈を塞栓します。
・肝移植:重度の肝硬変や肝機能低下例で適応。日本では主に生体肝移植が行われます。
これらの治療は、患者の背景や腫瘍の状態により組み合わせて実施されます。
進行肝細胞がんや再発例では、薬物療法が中心となります[4][5]。
・分子標的薬:ソラフェニブ、レンバチニブ、レゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブなどが用いられ、腫瘍の血管新生や増殖シグナルを阻害します。
・免疫チェックポイント阻害薬:アテゾリズマブ+ベバシズマブ併用療法は、進行例の一次治療として高い有効性が報告されています。
・新規治療:光免疫療法や粒子線治療(陽子線・重粒子線)など、手術困難例や難治例に対する新たな選択肢も登場しています[8]。
これらの薬物療法は、全身状態や肝予備能、腫瘍マーカーの値などを考慮して選択されます。副作用マネジメントや緩和ケアも重要な治療戦略の一部です。
肝細胞がんの治療では、内科・外科・放射線科・看護・薬剤師など多職種連携が不可欠です[4]。治療選択肢が多岐にわたるため、カンファレンスによる症例検討が行われ、最適な治療計画が策定されます。
また、がん診断時からの緩和ケア・支持療法の導入が推奨されており、痛みや倦怠感、精神的ストレスへの対応、栄養管理、生活指導など、患者のQOL(生活の質)向上を目指したサポートが重要です。
さらに、肝細胞がんは再発率が高いため、治療後の定期的なフォローアップと再発早期発見のためのスクリーニングが欠かせません。
独自視点として、近年はAIを活用した画像診断や、患者個別化医療(プレシジョンメディシン)も研究が進んでおり、今後の治療選択肢拡大が期待されています。
【参考リンク】
国立がん研究センターがん情報サービス:肝臓がん(肝細胞がん)の症状や治療選択肢、最新治療法の詳細が掲載されています。
肝臓がん(肝細胞がん)|国立がん研究センターがん情報サービス
【参考リンク】
肝細胞がんの薬物療法や分子標的薬、免疫療法の最新情報がまとまっています。