アドヒアランス コンプライアンス違い看護師薬剤師医療従事者向け

アドヒアランスとコンプライアンスの違いを医療従事者向けに詳しく解説。患者の治療参加を促す実践的なアプローチと最新の研究知見を紹介。患者中心の医療を実現するために何が必要でしょうか?

アドヒアランス コンプライアンス違い

患者中心医療における治療参加の進化
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コンプライアンス(従来の考え方)

医療従事者の指示に患者が従う受動的な関係性

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アドヒアランス(現在の主流)

患者が積極的に治療決定に参加する協働的な関係性

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医療従事者の役割変化

指示する立場から患者をサポートする存在へ

現代医療において、患者の治療への参加度を評価する概念としてアドヒアランスコンプライアンスが存在します。2001年にWHO(世界保健機関)が「コンプライアンスよりアドヒアランスの考え方を推進する」方向性を示して以来、医療現場における患者との関わり方は大きく変化しています。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1410102965

 

従来のコンプライアンスは「医療者の指示に患者が従っている程度」を示す概念でした。これに対してアドヒアランスは「患者が、服薬、食事療法や生活習慣の改善、運動などに関して、医療者の勧めに自ら同意し、一致した行動をとっている程度」と定義されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/yakkyoku/advpub/0/advpub_ra.2022-3000/_pdf

 

両者の根本的な違いは、患者の治療に対する姿勢にあります。コンプライアンスは患者が医師の指示に従うかどうかという受動的な関係性を重視するのに対し、アドヒアランスは患者が積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に沿って治療を受ける能動的な関係性を重視します。
参考)https://clius.jp/mag/2024/01/18/fukuyaku-ad-point/

 

アドヒアランス コンプライアンス基本概念

コンプライアンス(compliance)とは英語で「要求や命令などに服従すること」を意味し、日本語では「服薬遵守」と訳されてきました。医療現場において、患者が医師から処方された医薬品を用法・用量を遵守して服用することを指します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%8D%E8%96%AC%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B9

 

一方、アドヒアランス(adherence)は「執着、粘着、支持」のほかに「何かに対し愛着を感じ継続する」という意味を包含しています。医療面からは「患者が積極的に治療方針の決定に参加し、治療を実施、継続すること」と解釈されています。
WHOの定義によると、コンプライアンスは「医療者の指示に患者が従っている程度」であるのに対し、アドヒアランスは「患者が、服薬、食事療法や生活習慣の改善、運動などに関して、医療者の勧めに自ら同意し、一致した行動をとっている程度」とされています。
両概念の測定方法にも大きな違いがあります。コンプライアンスはピルカウントや残薬の有無のみで評価できますが、アドヒアランスは患者の意志や行動意図なども測定して評価する必要があります。このため、アドヒアランスはコンプライアンスも内包する概念といえます。

アドヒアランス向上看護師薬剤師の役割

看護師や薬剤師は、患者のアドヒアランス向上において重要な役割を果たします。従来の医師主導による一方的な指示から、患者中心のケアへと医療現場の意識が変化する中、これらの職種には新たな役割が求められています。
参考)https://uraoka.jp/med-information/rinri/post-708.html

 

看護師にとってアドヒアランス向上の鍵となるのは、患者との信頼関係の構築です。たとえ患者が治療の重要性や服薬の詳細情報を正確に把握していたとしても、担当する医療従事者に対する信用がなければ、治療方針そのものに不信感を抱く可能性があります。
参考)https://kango.mynavi.jp/contents/nurseplus/career_skillup/20221128-2154898/

 

日常的な患者とのコミュニケーションはもちろん、患者の生活スタイルが尊重される治療方針を提案したり、日頃から小さなことでも何らかのサポートをしたりすることで、患者からの信頼を得ることができます。
薬剤師においては、服薬指導の際に患者の理解度を確認し、副作用への不安や服薬に関する疑問に丁寧に答える姿勢が重要です。また、患者の生活パターンに合わせた服薬スケジュールの提案や、残薬管理のサポートなど、実践的な支援を提供することでアドヒアランス向上に貢献できます。

 

医療従事者全体として重要なのは、患者が治療方針に「納得」することです。服薬する薬剤の効能や副作用、適切な服用方法、服薬漏れが起きた際のリスクなどを詳しく説明し、患者に納得してもらった上で、患者の同意を得て、自らの意思で治療に向き合えるようにサポートすることが重要です。

アドヒアランス測定評価方法

アドヒアランスの測定・評価は、治療効果を最大化するために欠かせない要素です。コンプライアンスとは異なり、アドヒアランスの評価には患者の意志や行動意図も含めた多面的なアプローチが必要です。
アドヒアランスは「initiation(開始)」「implementation(履行)」「discontinuation(中止)」の3つの要素から構成されています。つまり、治療を開始するかどうか、開始した治療を継続して実行できるか、そして治療を中止するタイミングやその理由まで含めて評価する必要があります。
参考)https://www.ncnp.go.jp/mental-health/docs/nimh60_49-54.pdf

 

従来のピルカウントや残薬確認といった客観的指標に加えて、患者の治療に対する理解度、治療への参加意欲、副作用に対する認識、日常生活への影響などを総合的に評価することが求められます。

 

また、測定の際には患者の主観的な評価も重要視されています。患者自身が感じる治療の負担感、効果への実感、医療従事者との関係性なども、アドヒアランスを左右する重要な要因として考慮されます。

 

近年では、デジタルヘルス技術を活用した測定方法も注目されています。スマートフォンアプリや電子薬剤管理システムを通じて、リアルタイムでの服薬状況の把握や患者の主観的評価の収集が可能になっています。

 

アドヒアランス低下リスク要因

アドヒアランス低下には様々なリスク要因が関与しており、医療従事者はこれらを理解し、個々の患者に応じた対策を講じる必要があります。従来のコンプライアンスの考え方では、服薬状況が悪い原因は患者側にあるとされがちでしたが、アドヒアランスの概念では医療従事者側にも問題があるととらえます。
患者側の要因としては、まず疾患に対する理解不足が挙げられます。病気の重篤度や治療の必要性を十分に理解していない場合、治療への動機が低下しやすくなります。また、副作用への不安や恐怖、薬剤の効果を実感できないことによる疑問なども、アドヒアランス低下の原因となります。
経済的負担も重要な要因です。薬剤費の負担が患者の家計を圧迫する場合、服薬を継続することが困難になる可能性があります。さらに、複雑な服薬スケジュールや多剤併用による管理の困難さも、アドヒアランス低下のリスクを高めます。

 

医療従事者側の要因には、患者への説明不足や情報提供の質の問題があります。患者が理解しやすい言葉で病気や治療について説明できていない場合、患者の治療への参加意欲を削ぐ可能性があります。また、患者の生活スタイルや価値観を考慮しない画一的な治療方針の提示も、アドヒアランス低下を招く要因となります。
医療従事者と患者の信頼関係の構築が不十分な場合も問題です。患者が医療従事者に対して不信感を抱いている状況では、どれほど効果的な治療法であっても、患者の積極的な参加を得ることは困難です。

 

アドヒアランス向上戦略と実践的アプローチ

アドヒアランス向上のためには、患者個々の状況に応じた包括的なアプローチが必要です。従来の一方的な指導から、患者との協働による治療管理へとパラダイムシフトが求められています。

 

情報提供とコミュニケーションの改善が基本となります。患者が理解しやすい言葉で疾患や治療について説明し、患者からの質問や不安に丁寧に答える姿勢が重要です。特に、薬剤の効果や副作用について具体的な説明を行い、患者が納得して治療に取り組めるようサポートします。
個別化された治療計画の策定も効果的です。患者の生活パターン、職業、家族構成、経済状況などを考慮し、患者にとって実現可能な治療プランを一緒に検討します。例えば、服薬時間を患者の日常生活に合わせて調整したり、剤形を変更することで服薬の負担を軽減したりします。
継続的なモニタリングとフィードバックシステムの構築も重要です。定期的に患者の服薬状況を確認し、問題があれば早期に対処します。また、治療効果を患者と共有することで、治療への動機を維持できます。
多職種連携によるチーム医療の推進も効果的です。医師、看護師、薬剤師、ソーシャルワーカーなどが連携し、それぞれの専門性を活かして患者をサポートします。各職種が患者の異なる側面をケアすることで、包括的なアドヒアランス向上対策が実現できます。
近年注目されているのが患者教育プログラムの活用です。疾患管理に関する知識やスキルを患者に提供することで、患者自身が治療に主体的に関わる能力を向上させます。グループセッションや個別指導を通じて、患者同士の情報交換や相互支援も促進できます。

 

デジタルヘルス技術の活用も有効な手段です。服薬管理アプリや電子薬手帳を使用することで、患者の服薬状況をリアルタイムで把握し、必要に応じてリマインダー機能や医療従事者からのフィードバックを提供できます。これにより、患者の自己管理能力の向上とアドヒアランスの維持が期待できます。