劇症肝炎と診断基準の理解

劇症肝炎の診断基準について、初発症状からの期間、肝性脳症の程度、プロトロンビン時間などの重要な指標を医療従事者向けに詳しく解説。急性型と亜急性型の分類、除外基準も含め、正確な診断に必要な知識を網羅していますが、実臨床での判断に迷うことはありませんか?

劇症肝炎と診断基準

劇症肝炎診断のポイント
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時間的要件

初発症状出現後8週以内に肝性脳症Ⅱ度以上が出現することが必須条件

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検査所見

プロトロンビン時間40%以下またはINR値1.5以上を示す高度な肝機能障害

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病型分類

脳症出現までの期間により急性型(10日以内)と亜急性型(11日以降)に分類

劇症肝炎の診断基準における基本的定義

 

劇症肝炎の診断基準は、厚生労働省「難治性の肝疾患に関する研究」班により2003年に確立されました。この基準では、肝炎のうち初発症状出現後8週以内に高度の肝機能異常に基づいて昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症をきたし、プロトロンビン時間が40%以下を示すものを劇症肝炎と定義しています。診断には時間的要件、肝性脳症の重症度、凝固能の低下という3つの要素が必須となります。
参考)http://www.hepatobiliary.jp/uploads/files/%E8%A1%A8%EF%BC%91(3).pdf

初発症状から肝性脳症出現までの期間により、10日以内に脳症が発現する急性型と、11日以降に発現する亜急性型に分類されます。両者の予後は大きく異なり、内科的な救命率は急性型で約50%、亜急性型で約20%と報告されています。劇症肝炎は正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に急激な肝障害が生じる疾患であり、進行性の黄疸、出血傾向、精神神経症状などの肝不全症状が短期間で出現する重篤な病態です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/112/5/112_813/_pdf

劇症肝炎の診断における肝性脳症とプロトロンビン時間の評価

肝性脳症の程度は犬山分類(1972年)に基づいて評価されます。昏睡Ⅱ度以上とは、傾眠、錯乱、せん妄、異常行動を示す状態であり、この重症度に達することが劇症肝炎の診断に必須です。肝性脳症は肝不全に伴って生じる精神状態の低下であり、劇症肝炎では急速に進行することが特徴です。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%8A%87%E7%97%87%E8%82%9D%E7%82%8E

プロトロンビン時間(PT)40%以下という基準は、肝機能の重篤な低下を示す重要な指標です。肝機能が低下すると血液凝固因子の産生が減少し、血液が固まるまでに時間がかかるようになります。ビリルビン値の持続的な悪化やPTの延長は劇症肝炎への移行を示唆する重要な指標であり、PTが50%以下となる場合は警戒が必要です。なお、2011年以降の急性肝不全の診断基準では、PT40%以下またはINR値1.5以上という基準が採用されています。
参考)急性肝不全(劇症肝炎)|難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究…

劇症肝炎の診断における除外基準と鑑別診断

劇症肝炎の診断においては、いくつかの重要な除外基準が設定されています。先行する慢性肝疾患(慢性肝炎、肝硬変、肝癌など)が存在する場合は劇症肝炎から除外されますが、B型肝炎ウイルス無症候性キャリアからの急性増悪例は劇症肝炎に含めて扱われます。この区別は予後や治療方針に影響するため重要です。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/upload_files/h26-1-064.pdf

薬物中毒、循環不全、妊娠脂肪肝、Reye症候群など肝臓の炎症を伴わない肝不全も劇症肝炎から除外されます。これらは肝不全の状態を呈しますが、病態や治療アプローチが異なるため、正確な鑑別が求められます。プロトロンビン時間が40%以下を示す症例のうち、肝性脳症が認められない、ないしは昏睡Ⅰ度以内の症例は急性肝炎重症型に分類され、劇症肝炎とは区別されます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/112/5/112_822/_pdf

厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班の診断基準について、詳細な情報は以下のリンクで確認できます。
急性肝不全(劇症肝炎) - 日本肝臓学会

劇症肝炎の原因と成因別の診断アプローチ

劇症肝炎の原因は多岐にわたり、正確な成因診断が治療方針の決定に重要です。わが国ではB型肝炎ウイルス感染が最も多く、全体の約40~60%を占めています。B型肝炎が劇症肝炎の原因の第一位であることは、診断時のウイルス検査の重要性を示しています。
参考)劇症肝炎|病気症状ナビbyクラウドドクター

B型肝炎に次いで多いのは成因が確定できない特発性のケースで、全体の約21~30%を占めています。特発性の中には未知の肝炎ウイルスによる感染、薬物アレルギー、自己免疫性肝炎が含まれている可能性があり、その実態解明が今後の課題です。薬物アレルギーや自己免疫性肝炎が原因と確定したものは各10%以下ですが、海外ではアセトアミノフェンが主因となるケースも多く、薬剤歴の詳細な聴取が不可欠です。
参考)急性肝不全(劇症肝炎)|難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究…

A型・E型肝炎ウイルスは特に高齢者や妊婦で重症化しやすく、単純ヘルペスウイルスサイトメガロウイルスなどは免疫抑制下で重症化することがあります。成因によって治療戦略が異なるため、ウイルス検査、薬剤歴、自己免疫マーカーなどの包括的な評価が必要です。
参考)https://www.jichi.ac.jp/toshokan/jmu-kiyo/34/34pdf-link/p33-39.pdf

劇症肝炎の血液検査所見と画像診断

劇症肝炎の診断には血液検査が中心的役割を果たします。AST・ALTの著しい上昇が急性肝炎の指標となりますが、劇症肝炎やショック肝では2,000U/L以上の高値を示し、肝含有量の差とAST-m(ミトコンドリア型AST)の逸脱によりAST>ALTのパターンを示すことが特徴です。高値を示したASTが急速に低下するのは、AST-mの半減期が短いことによります。
参考)肝臓・膵臓内科の病気:急性肝炎・劇症肝炎

総ビリルビンの上昇は黄疸の程度を示し、肝機能低下に伴って進行性に悪化します。血小板数の減少や凝固能異常も重要な所見であり、DIC(播種性血管内凝固症候群)の合併を示唆する場合があります。劇症肝炎では高率に全身の合併症を併発し、DICと感染症が約40%、腎不全と脳浮腫が約30%、消化管出血が約20%に認められます。
参考)劇症肝炎(ゲキショウカンエン)とは? 意味や使い方 - コト…

画像検査では、腹部超音波検査やCT検査により肝臓の萎縮や腹水などの所見を確認します。肝臓の大きさの変化は病期や予後の評価に有用であり、急性型では肝腫大、亜急性型では肝萎縮を認めることが多いとされています。脳波検査は肝性脳症の診断補助として用いられ、病態の進行をモニタリングする上で重要です。​

劇症肝炎の治療と予後予測における診断基準の役割

劇症肝炎の診断基準は治療方針の決定と予後予測において重要な役割を果たします。劇症肝炎と診断された場合、血漿交換および血液濾過透析(CHDF)を併用した人工肝補助療法が速やかに開始されます。血漿交換は患者の血液から血球以外の成分を取り除き、健康な人の血漿と交換する方法であり、ほぼ全例に実施されます。​
ステロイドパルス療法は約75%の症例に実施され、免疫応答を抑制し肝庇護的に作用します。B型肝炎ウイルス関連では核酸アナログ製剤やインターフェロンが導入され、原因に対する治療が行われます。これらの治療により肝臓の機能が低下している期間を乗り切れると、肝臓が再生してくるため救命が可能です。​
内科的治療に抵抗性の場合は肝移植が考慮されます。肝移植適応ガイドラインおよび難治性の肝・胆道疾患に関する研究班が作成したスコアシステムを用いて予後予測が行われ、移植の適応が判断されます。脳死肝移植と生体部分肝移植があり、わが国では生体部分肝移植が広く行われていますが、2010年の法律改正以降は脳死肝移植の実施数も増加しています。劇症肝炎の死亡率は急性型で約50%、亜急性型で約70~80%と極めて高いため、早期診断と適切な治療介入が救命の鍵となります。
参考)岐阜市にあるMIWA内科胃腸内科・内視鏡CLINICの肝臓疾…

肝移植を含む治療戦略について、詳細な情報は以下のリンクで確認できます。
劇症肝炎、急性肝不全 - 奈良県立医科大学

 

 


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