ぶどう膜炎の原因と初期症状:診断と治療

ぶどう膜炎は視力障害を引き起こす可能性のある重要な眼疾患です。感染性と非感染性の原因、部位別の症状、早期診断の重要性について医療従事者向けに詳しく解説します。適切な診断と治療により予後を改善できるでしょうか?

ぶどう膜炎の原因と初期症状

ぶどう膜炎の概要
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病態と解剖

虹彩、毛様体、脈絡膜の炎症性疾患で、視力障害のリスクあり

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主要な原因

感染性(ヘルペス、結核)と非感染性(自己免疫疾患)に大別

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初期症状

目の痛み、充血、視力低下、まぶしさ、飛蚊症が特徴的

ぶどう膜炎の基本的な病態と解剖学的特徴

ぶどう膜炎は、眼球内の血管に富んだ組織である「ぶどう膜」に生じる炎症性疾患の総称です。ぶどう膜は虹彩、毛様体、脈絡膜の3つの構造から構成され、これらは一つの連続した膜として機能しています。

 

解剖学的構造と機能

  • 虹彩:瞳孔の大きさを調節し、眼内に入る光量をコントロール
  • 毛様体:水晶体の厚さを調節し、ピント合わせに関与
  • 脈絡膜:網膜の栄養供給を担い、眼球の温度調節にも寄与

ぶどう膜は豊富な血管網と色素細胞を含んでいるため、炎症が生じると眼球内に炎症細胞や血管透過性亢進による浸出液が侵入し、様々な症状を引き起こします。この解剖学的特徴により、ぶどう膜炎は「内眼炎」とも呼ばれ、外眼部炎症とは異なる病態を示します。

 

炎症の部位により前部ぶどう膜炎(虹彩炎、虹彩毛様体炎)、中間部ぶどう膜炎、後部ぶどう膜炎、汎ぶどう膜炎に分類され、それぞれ異なる症状パターンを呈します。

 

日本国内での有病率は10万人あたり52.4人とされており、決して稀な疾患ではありません。しかし、診断の遅れは重篤な合併症につながる可能性があるため、医療従事者による早期認識が重要です。

 

ぶどう膜炎の感染性と非感染性原因の詳細

ぶどう膜炎の原因は大きく感染性と非感染性に分類され、それぞれ異なる病原体や病態が関与しています。適切な治療法選択のためには、この分類に基づいた鑑別診断が不可欠です。

 

非感染性ぶどう膜炎の主要原因
日本における非感染性ぶどう膜炎では、以下の3疾患が特に重要です。

  • サルコイドーシス:全身の臓器に肉芽腫が形成される疾患で、ぶどう膜炎の原因として最も頻度が高い(約10%)。50代以降の女性や20代の若年男性に好発し、虹彩に肉芽腫が形成されることが特徴的です。
  • 原田病:自己免疫機序により色素細胞が攻撃される疾患で、ぶどう膜炎とともに聴覚障害や皮膚症状を伴うことがあります。
  • ベーチェット病:口腔粘膜、陰部、眼、皮膚に反復性の炎症を起こす原因不明の疾患です。

これら3疾患はぶどう膜炎の発症原因の約40%を占めており、全身検査による確定診断が重要となります。

 

感染性ぶどう膜炎の病原体
感染性ぶどう膜炎では、以下の病原体が主要な原因となります。

特にトキソプラズマ症は、猫の糞や生肉を介した感染が知られており、生活歴の聴取が診断の手がかりとなります。

 

興味深いことに、ぶどう膜炎患者の約3人に1人は原因疾患が特定できない「特発性ぶどう膜炎」とされており、継続的な経過観察と再評価が重要です。

 

ぶどう膜炎の初期症状による部位別診断アプローチ

ぶどう膜炎の初期症状は炎症部位により特徴的なパターンを示すため、症状の把握は診断の重要な手がかりとなります。

 

前部ぶどう膜炎の初期症状
前部ぶどう膜炎では最も激しい症状が現れることが特徴的です。

  • 激しい眼痛:目の奥の鈍痛から鋭痛まで様々
  • 結膜充血:角膜周囲の血管拡張が顕著
  • 羞明:光に対する過敏性で、軽微な光でも強い不快感
  • 視力低下:軽度から中等度の視力障害
  • 流涙:反射的な涙液分泌の増加

これらの症状は急性発症することが多く、結膜炎との鑑別が重要です。前部ぶどう膜炎では目やにの分泌が少ないことが鑑別点の一つとなります。

 

中間部・後部ぶどう膜炎の初期症状
中間部および後部ぶどう膜炎では、前部ぶどう膜炎とは異なる症状パターンを示します。

  • 飛蚊症:視界に浮遊する黒い点や糸状の影
  • 霧視:霧がかかったような視界のかすみ
  • 視力低下:緩徐進行性の視機能障害
  • 視野欠損:部分的な見えない領域の出現

これらの症状は痛みを伴わないことが多く、患者が症状を軽視しがちなため、診断の遅れにつながりやすい特徴があります。

 

両眼性と片眼性の鑑別意義
症状の発現パターンは診断的価値があります。

  • 両眼性発症:サルコイドーシス、原田病、ベーチェット病などの全身性疾患を示唆
  • 片眼性発症:感染性ぶどう膜炎や「仮面症候群」(悪性腫瘍の偽装)の可能性

特に片眼性で非典型的な経過をたどる場合は、網膜芽細胞腫や白血病などの悪性腫瘍が隠れている可能性があり、約9%の網膜芽細胞腫症例が当初ぶどう膜炎と誤診されています。

 

年齢による症状の特徴
小児のぶどう膜炎では、前部ぶどう膜炎でも軽度の刺激感や視力低下程度の症状しか現れないことがあり、成人とは異なる症状パターンを示すため、特に注意深い観察が必要です。

 

ぶどう膜炎の検査方法と鑑別診断の実際

ぶどう膜炎の診断には眼科的検査と全身検査の両方が重要であり、原因疾患の特定により治療方針が大きく変わります。

 

基本的眼科検査

  • 細隙灯顕微鏡検査:前房内の炎症細胞、角膜後面沈着物、虹彩結節の観察
  • 眼底検査:散瞳下での硝子体混濁、網膜血管炎、脈絡膜病変の評価
  • 眼圧測定:続発緑内障の早期発見
  • 視力・視野検査:機能的評価と経過観察指標

特殊検査

  • 蛍光眼底造影検査:血管透過性亢進や血管閉塞の評価
  • 光干渉断層撮影(OCT):網膜・脈絡膜の詳細な構造評価
  • 前房水検査:ウイルスDNAの検出やサイトカイン測定

全身検査の意義
ぶどう膜炎の3人に1人は全身疾患に関連するため、包括的な全身評価が不可欠です。

  • 血液検査:炎症マーカー(CRP、ESR)、自己抗体、感染症マーカー
  • 胸部X線・CT検査:サルコイドーシスの肺病変、結核の除外
  • ツベルクリン反応:結核感染の評価
  • HLA型検査:ベーチェット病(HLA-B51)、原田病(HLA-DR4)との関連

感染性と非感染性の鑑別ポイント
適切な治療選択のため、感染性と非感染性の鑑別は極めて重要です。
感染性ぶどう膜炎の特徴

  • 網膜病変の境界が明瞭
  • 進行が比較的急速
  • 片眼性発症が多い
  • 特定病原体に対する抗体価上昇

非感染性ぶどう膜炎の特徴

  • 網膜病変の境界が不明瞭
  • 進行は緩徐
  • 両眼性発症が多い
  • 自己免疫マーカーの陽性

この鑑別を誤ると、感染性ぶどう膜炎にステロイド治療を行った場合に病状が急激に悪化する危険性があります。

 

診断的治療の概念
原因が特定困難な場合には、診断的治療として特定の薬剤に対する反応を評価することがあります。例えば、抗ウイルス薬への反応によりヘルペス性ぶどう膜炎を疑う、といったアプローチです。

 

ぶどう膜炎の治療アプローチと長期管理戦略

ぶどう膜炎の治療目標は炎症の制御により視力障害につながる合併症を予防することです。治療法は原因、炎症部位、重症度により個別化する必要があります。

 

ステロイド治療の基本戦略
ステロイドはぶどう膜炎治療の中核を担います。

  • 局所投与点眼薬、結膜下注射、テノン嚢下注射
  • 全身投与:経口薬、点滴静注

投与経路の選択基準

  • 前部ぶどう膜炎:主に点眼治療
  • 後部ぶどう膜炎:全身投与が必要
  • 中間部ぶどう膜炎:症状に応じて選択

補助的薬物療法

  • 散瞳薬:虹彩後癒着の予防、疼痛軽減
  • 眼圧下降薬:続発緑内障への対応
  • 免疫抑制薬メトトレキサートシクロスポリンなど
  • 生物学的製剤:難治例に対するTNF-α阻害薬

感染性ぶどう膜炎の特殊治療
原因病原体に応じた特異的治療が重要です。

合併症管理と予防
ぶどう膜炎は多くの合併症を引き起こす可能性があります。

  • 白内障:ステロイド性、炎症性の両方
  • 緑内障:眼圧上昇による視神経障害
  • 網膜剥離:牽引性、滲出性
  • 黄斑浮腫:中心視力への重大な影響

これらの合併症は永久的な視力障害をもたらす可能性があるため、定期的な検査による早期発見と適切な治療が不可欠です。

 

長期フォローアップの重要性
ぶどう膜炎は良くなったり悪くなったりを繰り返す慢性疾患の特徴を持ちます。そのため、以下の点に注意した長期管理が必要です。

  • 定期的な眼科検査:炎症の再燃、合併症の早期発見
  • 全身状態の監視:全身性疾患の活動性評価
  • 薬物副作用のモニタリング:特にステロイドの長期使用による副作用
  • 患者教育:症状の変化時の早期受診の重要性

予後改善のための包括的アプローチ
良好な視機能の維持には、眼科医だけでなく内科医、リウマチ医などとの連携による包括的な治療アプローチが重要です。特に全身性疾患に伴うぶどう膜炎では、原疾患の治療が眼症状の改善に直結することが多く、多科連携による総合的な管理が予後を大きく左右します。

 

日本眼科学会のぶどう膜炎診療ガイドラインに基づいた標準的治療の実践
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=21