真菌症の治療において中心的役割を担う抗真菌薬は、その作用機序や化学構造に基づいていくつかの種類に分類されます。まず大きく内服・点滴薬と外用薬に分けられ、それぞれが異なる真菌感染症に対応します。
内服・点滴薬としては、以下の6種類が主要なものとして挙げられます。
一方、外用薬としては以下のようなものがあります。
これらの抗真菌薬は、真菌特有の細胞構造や代謝経路を標的とすることで選択毒性を発揮します。主な作用機序としては、細胞壁の合成阻害、細胞膜の機能障害、核酸合成の阻害などがあり、これらの違いが薬剤選択の重要な判断材料となります。
真菌は大きく分けて、酵母様真菌(カンジダ属、クリプトコッカス属など)、糸状菌(アスペルギルス属など)、二相性真菌の3つに分類されます。抗真菌薬の選択にあたっては、原因となる真菌の種類を特定することが第一歩となります。
ポリエン系抗真菌薬は、真菌の細胞膜に存在するエルゴステロールに結合し、膜の透過性を変化させることで抗真菌作用を示します。代表的な薬剤としては、アムホテリシンB(AMPH-B)とその脂質製剤であるリポソームアムホテリシンB(L-AMB)があります。
アムホテリシンBは「Streptomyces属」の細菌から産生される天然の抗生物質で、その化学構造は環の一方に複数の共役二重結合(ポリエン)を、もう一方に複数のヒドロキシ基を含む大員環(ラクトン)となっています。この構造が黄色の色調をもたらす特徴があります。
アムホテリシンBの特徴。
リポソームアムホテリシンBは、従来のアムホテリシンBの副作用を軽減しつつ、同等の効果を維持するために開発された製剤です。
一方、アゾール系抗真菌薬は、真菌のエルゴステロール合成に必須の酵素であるラノステロール14α-デメチラーゼを阻害することで抗真菌作用を示します。
アゾール系薬剤は、さらにイミダゾール系とトリアゾール系に分類されます。
イミダゾール系。
トリアゾール系。
フルコナゾールはカンジダ属とクリプトコッカス属に対して高い活性を示しますが、アスペルギルス属や接合菌には無効です。一方、ボリコナゾールはアスペルギルス属にも有効であり、特に侵襲性アスペルギルス症の第一選択薬として位置づけられています。
アゾール系抗真菌薬の共通の特徴。
キャンディン系抗真菌薬(エキノキャンディン系とも呼ばれる)は、真菌細胞壁の主要構成成分であるβ-1,3-グルカンの合成を阻害することで抗真菌作用を発揮します。このクラスは、他の抗真菌薬とは全く異なる作用機序を持つ、比較的新しい薬剤群です。
キャンディン系薬剤の主なものには以下があります。
これらの薬剤は2000年代に入って臨床使用が始まり、日本では2002年からミカファンギンが使用されています。キャンディン系抗真菌薬の特徴として、安全性が高く、他の薬剤との相互作用が少ないことが挙げられます。また、アゾール剤に耐性を示すカンジダ属(C. glabrata、C. kruseiなど)にも有効であることが大きな利点です。
キャンディン系抗真菌薬の抗菌スペクトル。
一方、アリルアミン系抗真菌薬は、スクアレンエポキシダーゼを阻害してエルゴステロール合成を阻害します。代表的な薬剤としては、テルビナフィンがあります。
テルビナフィンは主に皮膚糸状菌(白癬菌)に対して高い活性を示し、内服薬と外用薬の両方の剤形があります。難治性の皮膚真菌症では、外用薬に加えて内服のテルビナフィンが使用されることがあります。
アリルアミン系抗真菌薬の特徴。
抗真菌薬の適切な選択は、真菌の種類、感染部位、患者の状態、薬剤感受性、そして耐性菌の可能性などを総合的に考慮して行う必要があります。近年、抗真菌薬耐性菌の出現が臨床的な課題となってきており、特に長期間の抗真菌薬使用や予防投与を受けている患者での発生が問題視されています。
主な真菌別の第一選択薬。
耐性菌対策としての最新アプローチには、以下のような方法があります。
特にキャンディン系抗真菌薬は、アゾール系薬剤に耐性を示す真菌に対しても有効であることから、耐性菌対策としても重要な位置を占めています。しかし、キャンディン系に対する耐性も徐々に報告されるようになってきており、FKS遺伝子の変異が関与していることが明らかになっています。
抗真菌薬の使用に際しては、その有効性とともに副作用や薬物相互作用にも十分な注意を払う必要があります。各系統の主な副作用と、臨床管理上の注意点について理解しておくことが重要です。
ポリエン系抗真菌薬(アムホテリシンBなど)の主な副作用。
リポソーム化アムホテリシンB(L-AMB)は従来のアムホテリシンBと比較して腎毒性が軽減されていますが、完全に回避できるわけではないため、定期的な腎機能モニタリングが必要です。
アゾール系抗真菌薬の主な副作用。
アゾール系抗真菌薬は、CYP450酵素系を阻害することによる薬物相互作用が多いことが特徴です。特にワルファリン、免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス)、ベンゾジアゼピン系薬剤、スタチン系薬剤などとの併用には注意が必要です。
キャンディン系抗真菌薬の副作用。
フルオロピリミジン系(フルシトシン)の副作用。
薬物相互作用と投与量調節の必要な状況。
抗真菌薬の治療薬物モニタリング(TDM)。
臨床管理において最も重要なのは、治療効果と副作用のバランスを定期的に評価し、必要に応じて薬剤の変更や用量調節を行うことです。特に長期治療を要する真菌感染症では、継続的なモニタリングが不可欠です。
以上、抗真菌薬の種類と臨床での使い分けについて解説してきました。真菌感染症の効果的な治療には、病原真菌の正確な同定と、適切な抗真菌薬の選択が鍵となります。各抗真菌薬の特性と患者個々の状態を考慮した治療戦略の立案が、良好な治療成績につながるでしょう。
キャンディン系抗真菌薬と耐性機構に関する詳細な情報はこちらを参照
亀田総合病院感染症内科による抗真菌薬の概要と臨床使用に関する詳細はこちらを参照