高血糖の症状と治療方法で知っておくべきインスリンの役割

高血糖の症状とその治療方法について詳しく解説した記事です。インスリンの働きから食事療法、運動療法、薬物療法まで幅広く紹介。症状の早期発見と適切な対応が合併症予防に繋がりますが、あなたは自分の血糖値を正しく管理できていますか?

高血糖の症状と治療方法

高血糖の主なポイント
🩸
血糖値の上昇

インスリンの作用不足や糖質の過剰摂取により血液中の糖濃度が高くなる状態

😓
主な症状

口渇、多飲、多尿、体重減少、倦怠感など

💊
治療の三本柱

食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせた総合的アプローチ

高血糖が引き起こす主な症状とインスリンの関係

高血糖とは、血液中のブドウ糖濃度が異常に高くなった状態を指します。健康な人の体内では、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが血糖値を適切に調整していますが、このインスリンの作用が不足すると高血糖状態に陥ります。インスリンの作用不足には、分泌量の低下とインスリン抵抗性(細胞がインスリンに反応しにくくなる状態)の2つのパターンがあります。

 

高血糖状態が続くと、以下のような特徴的な症状があらわれます。

  • 口渇・多飲:血液中の糖濃度が上昇すると、体はそれを薄めようと水分を多く必要とします
  • 多尿:余分な糖を排出するために尿量が増加します
  • 倦怠感・易疲労感:細胞内にエネルギー源となる糖が取り込めないため、エネルギー不足になります
  • 体重減少:十分な栄養が細胞に取り込めないことによるものです
  • 尿の泡立ち:尿中の糖が増えることで泡立ちやすくなります

これらの症状は1型糖尿病では急激に、2型糖尿病ではゆっくりと現れるという特徴があります。しかし、初期段階では自覚症状がほとんどないケースも多く、健康診断で指摘されて初めて高血糖に気づくことも少なくありません。

 

高血糖状態が進行すると、より深刻な状態として「糖尿病性ケトアシドーシス」や「高浸透圧高血糖症候群」などの高血糖緊急症を引き起こす可能性があります。これらは生命に関わる危険な状態であり、速やかな治療が必要です。

 

糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリンの極度の不足により、体内でケトン体という酸性物質が蓄積した状態です。主に1型糖尿病患者さんに多く見られますが、感染症や強いストレスがある場合には2型糖尿病の方でも発症することがあります。症状としては、上記の高血糖症状に加えて、呼吸困難、吐き気、嘔吐、腹痛、意識障害などが現れます。

 

一方、高浸透圧高血糖症候群は、高血糖と脱水により血液が濃縮された状態で、主に高齢の2型糖尿病患者さんに見られます。感染症や脳卒中、ステロイド薬の使用などが引き金となることが多く、様々な程度の意識障害やけいれんを引き起こします。

 

高血糖の治療における食事療法の重要性

高血糖治療の基本となるのが食事療法です。食事療法の目的は、体内に取り込まれる糖の量やエネルギーバランスを調整し、できるだけ正常に近い血糖値を維持することにあります。糖尿病の種類や状態にかかわらず、すべての患者さんに必要な治療法といえるでしょう。

 

まず取り組むべきは、基本的な食習慣の見直しです。以下のポイントを意識することが大切です。

  • 一日三食、規則正しく食べる
  • バランスの良い食事を心がける
  • よく噛んでゆっくり食べる
  • 腹八分目を意識する
  • 夜遅くや就寝前の食事は避ける

これらは当たり前のことのように思えますが、実際には多くの方が実践できていません。まずはこれらの基本的な習慣を身につけることが、高血糖治療の第一歩となります。

 

次に、食品の選び方や調理法についても工夫が必要です。糖質制限が話題になることが多いですが、極端な糖質制限は必ずしも全ての方に適しているわけではありません。医師や管理栄養士と相談しながら、自分に合った食事内容を決めていくことが重要です。

 

食事療法で意識すべきポイントには以下のようなものがあります。

  1. 総エネルギー摂取量の適正化。
    • 標準体重(kg)× 身体活動量(25〜35kcal)を目安に
    • 肥満がある場合は体重減少を目指した調整が必要
  2. 栄養素のバランス。
    • 炭水化物:50〜60%
    • タンパク質:15〜20%(腎機能低下がある場合は調整)
    • 脂質:20〜25%
    • 食物繊維を積極的に摂取する
  3. 食べ方の工夫。
    • 野菜から先に食べる
    • 白米を玄米や雑穀米に変える
    • 果物や甘い飲み物の摂取量に注意する
    • アルコールの摂取は適量を守る

食事療法は継続が難しいと感じる方も多いですが、無理なく続けられる方法を見つけることが大切です。また、食事記録をつけることで、自分の食習慣を客観的に把握できるようになります。現在では食事記録をサポートするスマートフォンアプリも数多く提供されていますので、これらを活用するのも一つの方法です。

 

日本糖尿病学会の食事療法についての詳しい情報はこちら

高血糖を改善する効果的な運動療法のポイント

高血糖治療の重要な柱の一つが運動療法です。適切な運動は、筋肉でのブドウ糖と脂肪酸の利用を促進し、インスリンの働きを助けることで血糖値の改善に効果を発揮します。さらに、血圧や脂質異常の改善、心肺機能の向上、ストレス解消など、多面的な健康効果も期待できます。

 

運動療法には主に「有酸素運動」と「レジスタンス運動(筋力トレーニング)」の2種類があり、これらをバランスよく組み合わせることが推奨されています。

 

【有酸素運動】

  • ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなど
  • 推奨頻度:週3日以上(週150分かそれ以上)
  • 強度:中等度(最大酸素摂取量の40〜60%)
  • 連続して休む日が2日以上にならないようにする
  • 食後に行うと食後高血糖の改善に特に効果的

【レジスタンス運動】

  • スクワット、腹筋、かかと上げなどの筋力トレーニング
  • 推奨頻度:週2〜3回、連続しない日程で
  • 方法:8〜10種類の運動を選び、1種類につき10〜15回ずつ行う
  • 初心者は無理をせず、数種類から始めて徐々に増やしていく

運動療法を始める際の注意点としては、以下のようなポイントがあります。

  1. 運動前後の血糖チェック。

    特にインスリンや血糖降下薬を使用している方は、運動前後の血糖値をチェックし、低血糖に注意しましょう。

     

  2. 合併症の状態に応じた運動選択。
    • 網膜症がある場合:眼圧が上昇するような激しい運動は避ける
    • 腎症がある場合:過度な負荷がかかる運動を控える
    • 神経障害がある場合:足のケアに注意し、適切な靴を選ぶ
    • 血管疾患がある場合:医師と相談の上、適切な運動強度を決める
  3. 水分補給。

    運動中は適切な水分補給を行いましょう。ただし、糖分を含むスポーツドリンクの摂取には注意が必要です。

     

  4. 段階的な運動強度の上げ方。

    いきなり激しい運動を始めるのではなく、軽い強度から始めて徐々に強度を上げていくことが大切です。

     

特に注目したいのは、近年の研究で明らかになってきた「インターバルトレーニング」の効果です。短時間の高強度運動と休息を交互に繰り返すこの方法は、従来の中強度持続運動よりも血糖コントロールに効果的であるという報告もあります。ただし、心血管リスクのある方は医師に相談してから取り入れるようにしましょう。

 

また、日常生活における「非運動性活動熱産生(NEAT)」も見逃せません。階段の使用、こまめな立ち上がり、家事など、日常の小さな活動量を増やすことも血糖コントロールに役立ちます。特に長時間座り続けることを避け、1時間に5分程度は立ち上がって動くことを習慣にするとよいでしょう。

 

高血糖治療に用いられる薬物療法の種類と特徴

高血糖の治療において、食事療法や運動療法だけでは十分な血糖コントロールが難しい場合、薬物療法が導入されます。現在、高血糖治療に用いられる薬剤は多岐にわたり、それぞれ作用機序や効果、副作用が異なります。ここでは主な薬剤の種類と特徴について解説します。

 

【経口血糖降下薬】

  1. ビグアナイド薬(メトホルミンなど)
    • 作用:肝臓での糖新生を抑制し、筋肉での糖取り込みを増加させる
    • 特徴:体重増加が少なく、低血糖リスクも低い
    • 主な副作用:消化器症状(下痢、吐き気など)、乳酸アシドーシス(まれ)
  2. スルホニル尿素薬(グリメピリドなど)
    • 作用:膵臓からのインスリン分泌を促進する
    • 特徴:強力な血糖降下作用があるが、低血糖リスクがある
    • 主な副作用:低血糖、体重増加
  3. DPP-4阻害薬(シタグリプチンなど)
    • 作用:インクレチンというホルモンの分解を阻害し、インスリン分泌を促進
    • 特徴:低血糖リスクが低く、体重増加も少ない
    • 主な副作用:上気道感染、頭痛(比較的少ない)
  4. SGLT2阻害薬(エンパグリフロジンなど)
    • 作用:腎臓での糖再吸収を阻害し、尿中に糖を排出させる
    • 特徴:体重減少効果があり、心血管イベントや腎機能障害のリスク低減効果も
    • 主な副作用:尿路・性器感染症、脱水、ケトアシドーシス(まれ)
  5. その他の経口薬
    • α-グルコシダーゼ阻害薬:炭水化物の吸収を遅らせる
    • チアゾリジン薬:インスリン抵抗性を改善する
    • グリニド薬:食後の急激な血糖上昇を抑える

【インスリン療法】
インスリンは膵臓から分泌されるホルモンを人工的に補充する治療法です。1型糖尿病では必須の治療であり、2型糖尿病でも経口薬で血糖コントロールが不十分な場合などに用いられます。

 

インスリン製剤は作用時間によって以下のように分類されます。

  • 超速効型:食直前に注射し、食後の血糖上昇を抑える
  • 速効型:食事の30分前に注射
  • 中間型:12時間程度作用し、基礎インスリンとして使用
  • 持続型:24時間近く安定した効果を発揮
  • 混合型:速効型と中間型を混合したもの

インスリン療法の導入にあたっては、適切な注射手技の習得、血糖自己測定の実施、低血糖への対処法の理解などが重要になります。医療機関での十分な指導を受けることをお勧めします。

 

【GLP-1受容体作動薬】
近年注目されている治療薬として、GLP-1受容体作動薬があります。これはインクレチンホルモンの一種であるGLP-1の働きを増強する注射薬で、以下のような特徴があります。

  • インスリン分泌促進(血糖値に応じて働くため低血糖リスクが低い)
  • グルカゴン分泌抑制
  • 胃腸の運動や食欲を抑制(体重減少効果)
  • 心血管イベントリスクの低減効果

これらの薬剤は単独で使用されることもありますが、多くの場合は患者さんの病態に合わせて複数の薬剤が組み合わせて処方されます。薬物療法の選択においては、血糖コントロールの目標、患者さんの年齢、合併症の有無、ライフスタイルなどを考慮する必要があります。

 

特に高齢者では、多剤併用(ポリファーマシー)による副作用や相互作用のリスクにも注意が必要です。薬の効果や副作用について疑問がある場合は、自己判断で中止せず、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

 

日本糖尿病学会の薬物療法ガイドラインについての詳細はこちら

高血糖が続くことによる合併症とその予防策

高血糖状態が長期間続くと、全身のさまざまな臓器に障害をもたらす「糖尿病合併症」が発症するリスクが高まります。これらの合併症は患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させる可能性があるため、早期発見と適切な対応が重要です。

 

【主な糖尿病合併症】

  1. 細小血管合併症
    • 糖尿病性網膜症:視力低下や失明の原因になる
    • 糖尿病性腎症:腎機能が徐々に低下し、最終的には透析が必要になることも
    • 糖尿病性神経障害:しびれや痛み、自律神経の機能異常などを引き起こす
  2. 大血管合併症
    • 冠動脈疾患:心筋梗塞や狭心症などの原因となる
    • 脳血管障害脳梗塞や脳出血などのリスクが高まる
    • 末梢動脈疾患:下肢の血流障害により、重症化すると切断が必要になることも
  3. その他の合併症
    • 足病変:神経障害と血流障害が組み合わさり、小さな傷が重症化することがある
    • 感染症:高血糖により免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなる
    • 認知機能障害:認知症リスクが高まるという報告もある

これらの合併症を予防するためには、以下のような対策が重要です。
【合併症予防の基本戦略】

  1. 血糖コントロールの最適化
    • HbA1c(ヘモグロビンA1c)値の目標を医師と相談して設定
    • 自己血糖測定による日々の血糖変動の把握
    • 食事・運動・薬物療法の適切な組み合わせ
  2. 血圧管理
    • 目標血圧:130/80 mmHg未満(腎症がある場合はより厳格な管理が必要)
    • 減塩(6g/日未満)、適度な運動、必要に応じて降圧薬の使用
  3. 脂質管理
  4. 禁煙
    • 喫煙は全ての合併症のリスクを高める
    • 禁煙外来や禁煙補助薬の活用も検討
  5. 定期的な合併症スクリーニング
    • 眼科検診(年1回以上)
    • 尿検査アルブミン尿のチェック)
    • 神経障害検査(モノフィラメントテストなど)
    • 足の視診・触診

特に早期の段階では自覚症状が乏しいため、症状がなくても定期的な検査が非常に重要です。合併症の早期発見により、適切な治療介入が可能になり、進行を遅らせることができます。

 

また、近年注目されているのが「血糖変動」の重要性です。平均血糖値だけでなく、1日の中での血糖値の上下動(変動幅)が大きいことも合併症リスクを高める要因であることが分かってきました。持続血糖モニタリング(CGM)システムを活用するなどして、血糖変動も含めた総合的な血糖管理を行うことが推奨されています。

 

高血糖が引き起こす合併症は一度進行すると完全に元に戻すことが難しいため、「予防」が最も重要な対策といえます。日常生活の中で継続的に血糖コントロールに取り組むことが、将来的な合併症リスクを大きく低減させることにつながります。

 

高血糖緊急症の早期発見と対応の重要性

高血糖が極端に悪化すると、「高血糖緊急症」と呼ばれる生命に関わる危険な状態に陥ることがあります。高血糖緊急症は主に「糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)」と「高浸透圧高血糖症候群(HHS)」の2つに分類され、それぞれ特徴的な病態を示します。

 

【糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)】
糖尿病性ケトアシドーシスは、インスリンの極度の不足により、体内でケトン体という酸性物質が蓄積して血液が酸性に傾いた状態です。主に1型糖尿病患者さんに見られますが、感染症や強いストレスがある場合には2型糖尿病の方でも発症することがあります。

 

  • 主な原因。
  • インスリン治療の中断
  • 1型糖尿病の新規発症
  • 重度の感染症
  • 心筋梗塞などの重大な疾患
  • 大量の糖分摂取(特にソフトドリンク)
  • 主な症状。
  • 高度の脱水症状(口渇、多飲、多尿)
  • 吐き気・嘔吐
  • 腹痛
  • 呼吸が速く深くなる(クスマウル呼吸)
  • アセトン臭(息から甘酸っぱい臭いがする)
  • 意識障害(進行すると昏睡に至ることも)

【高浸透圧高血糖症候群(HHS)】
高浸透圧高血糖症候群は、高血糖と脱水により血液が濃縮された状態で、主に高齢の2型糖尿病患者さんに見られます。ケトアシドーシスを伴わないか、軽度である点がDKAとの大きな違いです。

 

  • 主な原因。
  • 脱水(高齢者では喉の渇きを感じにくい)
  • 感染症
  • 脳卒中
  • 副腎皮質ステロイド薬や利尿薬の使用
  • 高カロリー輸液
  • 主な症状。
  • 著しい脱水
  • 様々な程度の意識障害(錯乱、けいれん、昏睡など)
  • 高血糖(一般的に600mg/dL以上)
  • 血清浸透圧の上昇

これらの高血糖緊急症は適切な治療が行われなければ致命的になりうる状態であり、緊急入院と集中的な治療が必要です。治療の基本は、インスリン投与による血糖降下、水分・電解質の補正、原因となった疾患の治療です。

 

【高血糖緊急症の予防と早期発見のポイント】

  1. 自己血糖測定の活用
    • 体調不良時には通常よりも頻回に血糖測定を行う
    • 高血糖が続く場合は早めに医療機関を受診する
  2. シックデイルールの理解と実践
    • 発熱、下痢、嘔吐などの体調不良時も決して自己判断でインスリンを中止しない
    • 水分を十分に摂取する
    • 食事が取れなくても炭水化物を含む飲料などで糖分を摂取する
    • 血糖値、尿ケトン体を頻回に測定する
    • 症状が改善しない場合は早めに医療機関を受診する
  3. 危険信号を見逃さない
    • 高度の口渇
    • 頻回の嘔吐
    • 腹痛
    • 意識がもうろうとする
    • 呼吸が速く深くなる
  4. 教育と準備
    • 患者さん自身と家族が高血糖緊急症の症状を理解しておく
    • 緊急時の連絡先や受診先を事前に確認しておく

特に1型糖尿病患者さんや高齢の糖尿病患者さん、独居の方、過去に高血糖緊急症を経験したことがある方は、より注意が必要です。体調不良時の対応について、かかりつけ医と事前に相談しておくことも大切です。

 

高血糖緊急症は早期に適切な対応を取ることで予後が大きく変わります。「様子を見よう」と判断を遅らせるのではなく、疑わしい症状がある場合は速やかに医療機関を受診することが重要です。

 

日本糖尿病学会のシックデイガイドラインについての詳細はこちら