利尿薬 種類と作用機序 副作用 臨床使い分け

利尿薬には様々な種類があり、それぞれ腎臓の異なる部位に作用します。本記事では利尿薬の分類から作用機序、副作用まで詳しく解説します。あなたはどの利尿薬がどんな患者さんに適しているか把握できていますか?

利尿薬の種類と特徴

利尿薬の基本情報
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定義と目的

利尿薬は腎臓に作用して尿量を増加させ、体内の余分な水分や電解質を排出する薬剤です。高血圧や浮腫性疾患の治療に用いられます。

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主な分類

ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬、カリウム保持性利尿薬、バソプレシン拮抗薬の4つに大きく分類されます。

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注意点

電解質異常や脱水などの副作用に注意が必要です。特に高齢者や腎機能低下患者では慎重な投与が求められます。

利尿薬の種類と作用機序による分類

利尿薬は腎臓の尿細管に作用し、ナトリウムや水分の再吸収を抑制することで余分な水分を尿として排泄させる薬剤です。腎臓の異なる部位に作用する様々な種類があり、作用機序によって大きく4つのグループに分類されます。

 

  1. ループ利尿薬:ヘンレループ(ヘンレ係蹄の上行脚)に作用し、Na⁺-K⁺-2Cl⁻共輸送体を阻害します。
  2. サイアザイド系利尿薬:遠位尿細管に作用し、Na⁺-Cl⁻共輸送体を阻害します。
  3. カリウム保持性利尿薬:遠位尿細管および集合管に作用し、主にアルドステロン受容体を介した作用やナトリウムチャネル阻害により利尿効果を発揮します。
  4. バソプレシン拮抗薬:集合管に作用し、バソプレシン受容体(V2)に拮抗することで水の再吸収を抑制します。

利尿薬の作用部位を理解することは、臨床での適切な薬剤選択において重要です。例えば、腎機能低下患者ではループ利尿薬が有効であることが多く、軽度〜中等度の高血圧患者ではサイアザイド系が第一選択となることが一般的です。

 

ループ利尿薬とサイアザイド系利尿薬の特徴

ループ利尿薬は腎臓のヘンレループに作用し、強力な利尿効果を示します。主な薬剤としては以下のものがあります。

  • フロセミド(ラシックス):作用時間は約6時間で、経口薬と注射薬があります。
  • アゾセミド(ダイアート):作用持続時間は約12時間とフロセミドより長いのが特徴です。
  • トラセミド(ルプラック):作用時間は6〜8時間で、抗アルドステロン作用を持ち、低カリウム血症が起こりにくいという利点があります。
  • ブメタニド(ルネトロン):フロセミドの代替として使用されることがあります。

ループ利尿薬は主に心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫などの浮腫性疾患の治療に用いられます。また、高血圧症の治療にも使用されますが、単剤よりも他の降圧薬との併用が一般的です。

 

副作用としては、低カリウム血症、低クロール症候群、アルカローシス、胃腸障害、聴力障害などが報告されています。特に聴力障害は高用量投与や急速静注で起こりやすいため注意が必要です。

 

サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管に作用し、中等度の利尿効果を示します。主な薬剤には。

  • ヒドロクロロチアジド:作用時間は約12時間です。
  • トリクロルメチアジド(フルイトラン):作用時間は約24時間とやや長いのが特徴です。

また、サイアザイド類似利尿薬

  • インダパミド(ナトリックス):作用時間は約24時間で、血管拡張作用も有しています。

サイアザイド系利尿薬は主に本態性高血圧症の第一選択薬として広く使用されています。少量から開始することで、血圧を効果的に下げつつ副作用を最小限に抑えることができます。

 

サイアザイド系利尿薬の特徴的な点として、血中カルシウム濃度を上昇させる作用があります。これは遠位尿細管でのカルシウムの再吸収を促進するためであり、高カルシウム血症患者や腎結石患者には注意が必要です。一方、この作用を利用して骨粗鬆症の予防にも役立つと考えられています。

 

カリウム保持性利尿薬とバソプレシン拮抗薬の特性

カリウム保持性利尿薬は、他の利尿薬と異なり、カリウムの排泄を抑制するという特徴を持っています。主な薬剤は以下の通りです。

  • スピロノラクトン(アルダクトン):アルドステロン受容体に競合的に結合し、アルドステロンの作用を阻害します。作用持続時間は48〜72時間と長いのが特徴です。
  • エプレレノン(セララ):選択的アルドステロンブロッカー(SAB)で、アルドステロン受容体に選択的に結合します。スピロノラクトンより性ホルモン関連の副作用が少ないという利点があります。
  • エサキセレノン(ミネブロ):より新しい選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬です。

カリウム保持性利尿薬は、単独では比較的弱い利尿作用しか示しませんが、他の利尿薬との併用により、低カリウム血症のリスクを軽減しつつ利尿効果を高めることができます。特に心不全患者では生命予後を改善する効果が示されており、ARB・Ca拮抗薬に続く第3の降圧薬としても用いられています。

 

スピロノラクトンの主な副作用として、男性での女性化乳房や女性での月経異常などの性ホルモン関連の副作用があります。これはスピロノラクトンがアルドステロン受容体だけでなく、性ホルモンの受容体(アンドロゲン・プロゲステロン)にも結合するためです。一方、エプレレノンはアルドステロン受容体に選択的に作用するため、これらの副作用が少ないという利点があります。

 

バソプレシン拮抗薬(アクアレティクス)は比較的新しいタイプの利尿薬です。

  • トルバプタン(サムスカ):バソプレシン(抗利尿ホルモン)V2受容体に拮抗し、集合管での水の再吸収を抑制します。作用時間は12〜24時間です。

バソプレシン拮抗薬の大きな特徴は、ナトリウムやカリウムなどの電解質の排泄を増加させず、水分のみを選択的に排泄させることです。そのため、電解質バランスを維持しながら利尿効果を得ることができます。

 

主な適応としては、心不全や肝硬変に伴う体液貯留、低ナトリウム血症などがあります。特に他の利尿薬で効果不十分な場合や、低ナトリウム血症が問題となる場合に有用です。

 

副作用としては、口渇や頻尿が一般的です。また、CYP3A4で代謝されるため、CYP3A4阻害薬(一部の抗真菌薬、マクロライド系抗生物質など)や誘導薬(セイヨウオトギリソウなど)との相互作用に注意が必要です。グレープフルーツジュースとの併用も避けるべきです。

 

利尿薬の副作用と電解質への影響

利尿薬は有効な治療薬である一方、様々な副作用を引き起こす可能性があります。特に電解質バランスへの影響は重要です。以下に利尿薬の種類別に主な副作用と電解質への影響をまとめます。

 

ループ利尿薬の副作用と電解質影響

  • 低カリウム血症:尿中へのカリウム排泄が増加することで発生します。筋力低下、不整脈、便秘などの症状が現れることがあります。
  • 低ナトリウム血症:過剰な利尿により発生することがあります。
  • 低カルシウム血症:カルシウムの尿中排泄が増加します。
  • 尿酸血症:尿酸の再吸収が促進されるため、痛風発作のリスクが高まります。
  • 血糖値上昇インスリン抵抗性の増加により、糖尿病患者では血糖コントロールが悪化することがあります。
  • 代謝性アルカローシス:水素イオンとカリウムイオンの排泄増加により発生します。

サイアザイド系利尿薬の副作用と電解質影響

  • 低カリウム血症:ループ利尿薬と同様、尿中へのカリウム排泄が増加します。
  • 低ナトリウム血症:特に高齢者や低塩分食摂取者で起こりやすいです。
  • 高カルシウム血症:遠位尿細管でのカルシウム再吸収が促進されます。
  • 高尿酸血症:ループ利尿薬と同様、尿酸の再吸収が促進されます。
  • 血糖値上昇:インスリン分泌低下やインスリン抵抗性増加により、糖尿病発症リスクが若干高まります。
  • 脂質代謝異常:LDLコレステロールやトリグリセリドの増加が報告されています。

カリウム保持性利尿薬の副作用と電解質影響

  • 高カリウム血症:最も重要な副作用です。特に腎機能障害患者やACE阻害薬/ARB服用患者、高齢者で注意が必要です。
  • 低ナトリウム血症:まれに発生することがあります。
  • 性ホルモン関連副作用:スピロノラクトンでは女性化乳房や性欲減退(男性)、月経不順(女性)などが起こることがあります。

バソプレシン拮抗薬の副作用

  • 口渇・頻尿:水利尿により発生します。
  • 脱水:過剰な水分排泄により発生する可能性があります。
  • 高ナトリウム血症:水のみが排泄されるため、血清ナトリウム濃度が急激に上昇するリスクがあります。

電解質異常を早期に発見し対処するためには、定期的な血液検査による電解質モニタリングが重要です。特に治療開始時や用量変更時、高リスク患者(高齢者、腎機能低下患者、複数の薬剤を服用している患者など)では慎重なモニタリングが必要です。

 

利尿薬の臨床での使い分けと投与タイミングの工夫

臨床現場での利尿薬の適切な選択と使用方法は、患者の状態や併存疾患、目的によって異なります。以下に、状況別の利尿薬の使い分けと、あまり知られていない投与タイミングの工夫について解説します。

 

高血圧治療における利尿薬の選択

  • 第一選択:低用量のサイアザイド系利尿薬が推奨されます。特に塩分感受性の高い患者、高齢者、黒人患者で有効性が高いとされています。
  • 複合高血圧:カリウム保持性利尿薬(特に選択的アルドステロンブロッカー)が、ARB・ACE阻害薬やCa拮抗薬との併用で有効です。
  • 治療抵抗性高血圧:ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬の増量、または両者の併用を検討します。

心不全治療における利尿薬の選択

  • 急性/重症心不全:即効性のあるループ利尿薬(フロセミドなど)が第一選択です。
  • 慢性心不全:ループ利尿薬を基本としながら、アルドステロン拮抗薬(スピロノラクトン、エプレレノン)の追加が生命予後改善につながります。
  • 利尿抵抗性心不全:サイアザイド系利尿薬とループ利尿薬の併用(逐次ネフロンブロック)や、トルバプタンの追加を検討します。

腎機能障害患者での利尿薬選択

  • 軽度〜中等度腎機能障害:ループ利尿薬が有効ですが、用量調整が必要です。
  • 重度腎機能障害:高用量のループ利尿薬が必要となる場合がありますが、副作用のリスクも高まります。
  • 透析患者:基本的に利尿薬の効果は限定的ですが、残存腎機能がある場合はループ利尿薬が考慮されることがあります。

電解質異常がある患者での選択

  • 低カリウム血症:カリウム保持性利尿薬の併用を検討します。
  • 高カリウム血症:カリウム保持性利尿薬は避け、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬を選択します。
  • 低ナトリウム血症:トルバプタンの使用を検討します(適応が認められている場合)。

投与タイミングの工夫(あまり知られていない視点)。

  • ループ利尿薬の分割投与:1日1回の投与よりも、同じ総量を2〜3回に分けて投与することで、薬剤の作用時間を超えた「リバウンド」による塩分・水分貯留を防ぎ、より安定した利尿効果が得られることがあります。
  • 就寝前投与の回避:夜間の頻尿を防ぐため、ループ利尿薬は朝〜昼に投与するのが一般的です。しかし、夜間の心不全悪化を防ぐため、あえて夕方に少量投与するという工夫もあります。
  • 食事との関係:一部の利尿薬は食後投与で吸収が変化します。フロセミドは空腹時投与で吸収が良いとされています。
  • 利尿抵抗性への対応:長期の利尿薬使用で効果が減弱する「利尿抵抗性」が生じた場合、数日間の休薬後に再開することで感受性が回復することがあります。また、異なる作用機序の利尿薬の併用(サイアザイド系とループ利尿薬など)も有効です。
  • アルブミン併用:重度の低アルブミン血症患者では、アルブミン製剤とループ利尿薬の併用で利尿効果が増強することがあります。

薬剤師の専門的な視点からは、利尿薬使用中の患者さんへの服薬指導として、体重モニタリングの重要性、めまいなどの副作用症状の確認、電解質異常の初期症状についての説明が重要です。また、NSAIDsなど利尿薬の効果を減弱させる薬剤との相互作用についても注意喚起が必要です。

 

利尿薬は適切に選択・使用することで、患者の症状改善や予後改善に大きく貢献する重要な薬剤です。それぞれの特性を理解し、患者の状態に合わせた最適な利尿療法を提供することが求められます。

 

日本循環器学会の心不全治療ガイドラインでも、利尿薬の適切な使用方法について詳細な推奨がなされています。

 

心不全治療ガイドライン(日本循環器学会)
また、腎臓病患者における利尿薬の使用については、日本腎臓学会のガイドラインが参考になります。

 

CKD診療ガイド2018(日本腎臓学会)