グルカゴン投与における最も注意すべき重篤な副作用として、ショックとアナフィラキシーショックがあります。これらの初期症状には不快感、顔面蒼白、血圧低下などが含まれ、投与後すぐに発現する可能性があります 。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
アナフィラキシーショックは特にβ遮断薬を内服中の患者において治療抵抗性を示すことがあり、このような場合にはグルカゴン自体が治療薬として有効であることが報告されています。β遮断薬の影響によりアドレナリンの効果が減弱する際、グルカゴンはβ受容体を介さずに心筋のcAMP濃度を上昇させる作用があるため、血圧上昇効果を示します 。
参考)https://hospital.city.sendai.jp/pdf/p062-065%2035.pdf
低血糖症状も重要な副作用であり、初期症状として嘔吐、嘔気、全身倦怠感、傾眠、顔面蒼白、発汗、冷汗、冷感、意識障害等が現れます。特に小児を対象とした成長ホルモン分泌機能検査では、嘔気(13%)、嘔吐(8.7%)、発汗(6.5%)等の低血糖によると思われる症状が高頻度で認められており、プロプラノロール併用時には40%の症例で低血糖症状が出現するため、観察を十分に行う必要があります 。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/sindan/JY-14023.pdf
グルカゴン投与後最も頻繁に認められる副作用は消化器系症状であり、特に嘔吐と嘔気が代表的です。グルカゴン注射後30秒から数分後に軽度の嘔気症状が出現することがありますが、ほとんどの場合すぐに治まります 。
参考)グルカゴン負荷試験
使用成績調査における総症例4,868例のうち、106例(2.18%)に副作用が報告され、主なものとして嘔気28件(0.58%)、嘔吐12件(0.25%)が挙げられています 。これらの消化器症状は、グルカゴンの消化管蠕動抑制作用と関連している可能性があります。
高用量のグルカゴン投与時には嘔吐、嘔気、血清カリウム低下を引き起こすことがあるため、投与量の調整が重要です 。また、グルカゴンの急速な投与は嘔吐を誘発するため、特に意識障害患者では側臥位での投与が重要であり、気道の安全性を確保しておく必要があります 。
グルカゴンの副作用は、その多様な生理作用と密接に関連しています。グルカゴン受容体は心臓、消化管、腎臓、脳、脂肪組織など種々の組織に発現しており、これらの組織におけるグルカゴンの様々な作用が副作用として現れることがあります 。
参考)日本大学医学部 内科学系 糖尿病代謝内科学分野
肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生の促進により血糖値上昇が起こりますが、この後にリバウンド現象として低血糖症状が現れやすくなります。これは、グルカゴン投与により一時的に上昇した血糖値に対してインスリンが過剰に分泌される結果として発生します 。
参考)医療用医薬品 : グルカゴン (グルカゴン注射用1単位「IL…
最近の研究により、インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)使用時にはグルカゴン負荷試験によるインスリン分泌能の過小評価が起こることが明らかになりました。これはグルカゴン応答性インスリン分泌にGLP-1受容体が関与することを示唆する重要な発見です 。
参考)https://kanden-hsp.jp/files/topics/GLP-1.pdf
グルカゴン投与は血液・循環器系にも多様な影響を与えます。主な副作用として、白血球増多症30件(0.62%)、白血球分画の変動20件(0.41%)が報告されており、血液系への作用も無視できません 。
循環器系では心悸亢進や血圧変動が認められます。特に低血糖時のグルカゴン投与後40分から60分に、12/35例(34.3%)で収縮期血圧が20~30mmHg程度低下することが観察されており、この血圧低下は静脈内投与より筋肉内投与で多く認められます 。
参考)http://www.ils.co.jp/pdf/pharmaceutical/product/list/6-glucagon-ils_attached-document.pdf
血清カリウム濃度の変動も重要な副作用の一つです。高用量のグルカゴンは血清カリウム低下を引き起こすことがあるため、電解質バランスの監視が必要です。また、血糖値上昇8件(0.16%)、尿糖7件(0.14%)といった糖代謝への影響も報告されています 。
グルカゴン負荷試験における特殊な副作用として、検査目的で使用する場合の注意点があります。成長ホルモン分泌機能検査では、最終的に下垂体性小人症と診断された症例でも一部にグルカゴン投与による血中成長ホルモンの上昇が認められることがあり、診断の精度に影響を与える可能性があります 。
妊娠中の使用については、動物試験において胎児の眼球異常が報告されているため、妊婦への投与は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与することが推奨されています 。
参考)https://www.carenet.com/drugs/materials/pdf/620023_7229402D1036_1_08.pdf
小児では低血糖症状が現れやすいため、特に注意深い観察が必要です。プロプラノロール併用による検査では、2/5例(40.0%)に低血糖によると思われる症状が認められており、β遮断薬との相互作用にも留意する必要があります 。
また、グルカゴンの臨床応用として、β遮断薬内服患者のアナフィラキシーショックに対する治療効果が報告されていますが、グルカゴンの添付文書には「アナフィラキシーショックの際の血圧上昇」という適応は記載されておらず、緊急時における使用判断には慎重な検討が必要です 。
参考)https://www.kitasato-u.ac.jp/ktms/kaishi/pdf/KI54-1/54-1_017-023.pdf