シックデイルールパンフレットは、糖尿病患者が急性疾患に罹患した際の適切な薬物療法を支援するための重要な教育ツールです。シックデイとは「糖尿病以外の急性期疾患に罹患した状態」を指し、風邪や下痢、発熱、腹痛、食欲不振などの症状が現れる時期を意味します。
参考)https://hmc-gen.jp/disease/pdf/sickday.pdf?v2
パンフレットの主要目的は以下の通りです。
シックデイ時には、病気や体調不良による身体的・精神的ストレスでストレスホルモン(カテコールアミンやコルチゾール)が分泌され、血糖値が上昇しやすくなります。一方で、食欲低下により食事摂取量が減少した状態で通常通りの薬物療法を継続すると、深刻な低血糖を起こす可能性があります。
日本くすりと糖尿病学会の適正使用指導指針では、このような状況を避けるためパンフレットを活用した事前指導の重要性が強調されています。
内服薬の減量指導では、薬剤の薬理作用に基づいた個別対応が必要です。基本的な減量方針として、以下の分類に従って指導を行います:
参考)https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/ALL_sickday_rule_20200527.pdf
スルホニル尿素薬(SU薬)の調整
速効型インスリン分泌促進薬の調整
その他の糖尿病薬の対応
薬剤師による指導では、患者が普段服用している薬剤ごとの具体的な対応方法を事前に説明し、パンフレットに個別の指示を記載することが効果的です。これにより、主治医に連絡が取れない状況でも適切な判断ができる体制を整えます。
参考)https://jpds.or.jp/net/wp-content/uploads/2024/01/SickDayCard_UsersManual_20220721.pdf
インスリン療法における調整は、1型糖尿病と2型糖尿病で異なるアプローチが必要です。基本原則として「インスリン注射は決して中止してはならない」という点を患者に徹底指導する必要があります。
参考)https://www.jmedj.co.jp/files/premium_blog/ocsd/ocsd_sample.pdf
1型糖尿病患者への指導内容
2型糖尿病患者への指導内容
実際の調整では、以下のような食事量スケールを活用します。
血糖測定は1日4回(各食前と眠前)を基本とし、血糖値が200mg/dlを超える場合は3-4時間おきの測定を推奨します。この頻回測定により、高血糖と低血糖の両方を早期発見できる体制を構築します。
効果的なシックデイルール指導には、医師・薬剤師・看護師・介護スタッフによる多職種連携が不可欠です。各職種が共通認識を持ち、患者を包括的にサポートする体制の構築が求められます。
医師の役割
薬剤師の役割
看護師の役割
連携ツールとして、シックデイカードの活用が推奨されます。このカードは糖尿病連携手帳やお薬手帳に挟んで携帯でき、患者本人だけでなく家族や医療・介護職が共通して確認できる仕組みとなっています。
施設全体での教育システム構築には、定期的な勉強会の開催と症例検討会による知識共有が効果的です。特に「Back to the future Approach」と呼ばれる手法では、実際のシックデイ症例を振り返りながら、より良い対応方法を検討する継続的改善プロセスを採用しています。
シックデイルール指導において、患者が医療機関を受診すべき明確な基準を設定することは患者の安全確保に直結します。適切な受診タイミングを逃すと、糖尿病性ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群などの重篤な合併症に進展するリスクがあります。
緊急受診が必要な症状・状況
段階的受診判断の指導
医療機関との連携では、かかりつけ医との事前の相談体制構築が重要です。普段の診療時に「主治医に連絡し指示を受ける」原則を確認し、連絡先や代替医療機関の情報を患者と共有しておきます。
参考)https://www.pref.shimane.lg.jp/medical/kenko/iryo/shimaneno_iryo/tyouseikaigi.data/R5_hamada_2_shiryou1.pdf
夜間・休日対応については、地域の医療連携システムを活用した24時間サポート体制の整備が求められます。患者には緊急連絡先リストとともに、症状の程度に応じた適切な受診先(かかりつけ医、救急外来、専門病院など)を事前に伝えることで、迅速かつ適切な医療アクセスを可能にします。
また、災害時や感染症流行時など特殊な状況下でのシックデイ対応についても、平時から準備を進めることが重要です。食事供給が困難な状況や医療機関へのアクセスが制限される場合を想定し、より長期間の自己管理が可能となるような指導内容の検討が必要です。