胃腸炎 症状と治療方法
胃腸炎の重要ポイント
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原因
ウイルス、細菌、寄生虫感染、食中毒、ストレスなど多様な要因があります
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主な症状
吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱が一般的で、種類により症状は異なります
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治療の基本
脱水予防のための水分補給と症状に応じた対症療法が中心です
胃腸炎の主な症状と診断方法
胃腸炎は胃や腸の粘膜に炎症が生じる疾患であり、患者が訴える症状は多岐にわたります。最も一般的な症状には、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛があります。これらの症状は突然発症することが多く、患者の日常生活に大きな支障をきたします。
胃腸炎の症状の特徴として、以下の点が挙げられます。
- 嘔吐:特にウイルス性胃腸炎では初期症状として頻繁に見られます
- 下痢:水様性から粘液性まで様々な性状があり、回数も増加します
- 腹痛:けいれん性の痛みが一般的で、排便前に増強します
- 発熱:通常は軽度(37〜38℃程度)ですが、細菌性では高熱になることもあります
- 悪心:食欲不振を伴うことが多いです
- 全身倦怠感:脱水や炎症による影響で全身の倦怠感を訴えます
診断方法としては、まず詳細な問診が重要です。症状の発現時期や経過、周囲の同様の症状がある人の有無、最近の食事内容、渡航歴などを確認します。身体診察では、脱水の評価(皮膚の弾力性、粘膜の湿潤度、尿量減少など)や腹部の圧痛の有無を確認します。
検査としては以下が有用です。
- 血液検査:炎症マーカー(白血球数、CRPなど)の上昇
- 便検査:下痢の原因となる病原体の検出(細菌培養、ウイルス抗原検査など)
- 腹部画像検査:重症例や合併症が疑われる場合にはCTやエコーが必要な場合があります
特に医療従事者は、脱水の重症度評価が非常に重要となります。軽度、中等度、重度の脱水に分類し、それぞれに適切な対応が求められます。
胃腸炎の種類と原因による症状の違い
胃腸炎はその原因によって大きく分類され、症状にも特徴的な差異が見られます。医療従事者として、これらの違いを理解することで、より適切な診断と治療が可能になります。
ウイルス性胃腸炎
ウイルス性胃腸炎は、最も一般的な形態です。主な原因ウイルスとしては以下があります。
- ノロウイルス:冬季に多発し、嘔吐が顕著
- ロタウイルス:主に小児に発症し、水様性下痢が特徴
- アデノウイルス:発熱と呼吸器症状を伴うことがある
ウイルス性胃腸炎の症状の特徴は、突然の発症、嘔吐が先行し、その後に下痢が続くパターンが多いこと、そして1〜2日で症状のピークを迎え、通常は3〜7日程度で自然治癒することです。発熱は軽度であることが多いですが、小児では38℃を超えることもあります。
細菌性胃腸炎
細菌性胃腸炎の主な原因菌には以下があります。
- カンピロバクター:血便や発熱を伴うことが多い
- サルモネラ菌:高熱と腹痛が特徴的
- 病原性大腸菌:水様性下痢から血性下痢まで様々
- ウェルシュ菌:食中毒の原因として集団発生することがある
細菌性胃腸炎の特徴は、発熱が高い傾向にあること、腹痛が強いこと、そして下痢が主症状で、時に血便や粘液便を呈することです。食中毒の場合は、原因食品摂取後、菌種により数時間から数日で発症します。
寄生虫性胃腸炎
寄生虫による胃腸炎は、ジアルジア、クリプトスポリジウム、赤痢アメーバなどが原因となります。症状は慢性的で、間欠的な下痢、腹部不快感、体重減少などが特徴です。特に免疫不全患者では重症化することがあります。
非感染性胃腸炎
ストレス、薬剤、食物アレルギーなどによる非感染性胃腸炎もあります。ストレス性胃腸炎では、胃酸過多による症状(胸やけ、胃もたれ、胃痛など)が特徴的です。NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などの薬剤による胃腸炎では、薬剤摂取との時間的関連が診断の鍵となります。
胃腸炎の効果的な治療法とホームケア
胃腸炎の治療は原因により異なりますが、基本的には脱水予防と対症療法が中心となります。医療従事者として患者に適切な治療法とホームケアの指導を行うことが重要です。
脱水予防のための水分・電解質補給
胃腸炎治療の最も重要な側面は、適切な水分と電解質の補給です。
- 経口補水液(ORS):WHOが推奨する電解質バランスを考慮した製剤が有効です
- スポーツドリンク:軽度の胃腸炎では、希釈して使用することが推奨されます
- 点滴治療:経口摂取が困難な重度の脱水では、静脈内輸液が必要になります
水分摂取は少量ずつ頻回に行うことが重要で、一度に大量に摂取すると嘔吐を誘発することがあります。特に小児や高齢者では脱水のリスクが高いため、注意深い観察と管理が必要です。
原因別の治療アプローチ
原因によって治療法は異なります。
- ウイルス性胃腸炎:特異的治療法はなく、対症療法が基本です
- 細菌性胃腸炎:重症例や特定の病原体の場合は抗菌薬が考慮されます(例:カンピロバクター、サルモネラの侵襲性感染症)
- 寄生虫性胃腸炎:メトロニダゾールなどの抗寄生虫薬が使用されます
- 薬剤性胃腸炎:原因薬剤の中止が最も重要です
- ストレス性胃腸炎:H2ブロッカーやプロトンポンプ阻害剤(PPI)が有効です
症状に対する対症療法
症状を緩和するための対症療法も重要です。
- 制吐剤:メトクロプラミド、ドンペリドンなど(ただし、細菌性下痢の場合は腸管からの毒素排出を遅らせる可能性があるため注意)
- 止痢剤:ロペラミドなど(感染性腸炎での使用は慎重に)
- 鎮痛剤:腹痛に対してはブスコパンなどの鎮痙薬が有効な場合があります
- 整腸剤:ビフィズス菌製剤などのプロバイオティクスが回復を早める可能性があります
食事療法とホームケア
回復期の食事管理も重要です。
- 消化の良い食事(BRAT食:バナナ、米、りんご、トースト)から始める
- 少量ずつ頻回に摂取する
- 刺激物(辛いもの、油っこいもの、カフェイン、アルコール)は避ける
- 乳製品は一時的に控える場合もある(特に小児)
十分な休息をとることも回復を早めるために重要です。また、感染拡大防止のために、患者の排泄物の適切な処理と手洗いの徹底を指導することも医療従事者の重要な役割です。
医療従事者が知っておくべき胃腸炎の合併症と注意点
胃腸炎は一般的に自己限定性の疾患ですが、特定の状況では重篤な合併症を引き起こす可能性があります。医療従事者として、これらの合併症を早期に認識し適切に対応することが重要です。
重度の脱水とその合併症
脱水は胃腸炎の最も一般的な合併症であり、特に注意が必要です。
脱水の評価には、バイタルサイン(頻脈、低血圧、頻呼吸)、皮膚や粘膜の乾燥、尿量減少、意識レベルの変化などを総合的に判断します。特に注意すべき患者群としては、乳幼児、高齢者、慢性疾患(心不全、腎疾患など)を持つ患者、免疫不全患者が挙げられます。
特殊な病態と合併症
特定の胃腸炎では特有の合併症があります。
- 溶血性尿毒症症候群(HUS):志賀毒素産生性大腸菌感染後に発症することがある重篤な合併症
- ギラン・バレー症候群:カンピロバクター腸炎後の自己免疫性神経疾患
- 反応性関節炎:サルモネラやカンピロバクター感染後に関節症状を呈することがある
- 炎症性腸疾患の増悪:既存のIBD患者での胃腸炎は疾患活動性を高める可能性がある
入院適応と重症度評価
以下の場合は入院を考慮すべきです。
- 経口摂取が不可能な重度の嘔吐
- 脱水症状が著明で経口補水が困難
- 高熱や血便など重症感染を示唆する所見
- 免疫不全患者や合併症を有する高リスク患者
- 症状が遷延または増悪する場合
重症度評価には各種スコアリングシステムを活用することも有用ですが、個々の患者の状態を総合的に判断することが最も重要です。
医原性リスクと投薬上の注意点
医療従事者が治療において注意すべき点。
- 抗菌薬の不適切使用:ウイルス性胃腸炎への抗菌薬使用は耐性菌選択の原因になります
- 制吐剤・止痢剤の過剰使用:特に小児での使用は慎重に
- NSAIDsの使用:胃粘膜障害を悪化させる可能性があるため避けるべき
- 薬物相互作用:下痢による薬物吸収低下(経口避妊薬など)に注意
胃腸炎の患者に対しては、安静、適切な水分・電解質補給、症状に応じた対症療法を基本としつつ、個々の病態に合わせた治療計画を立てることが重要です。特に合併症の早期発見と対応が予後改善につながります。
胃腸炎の予防と患者への指導ポイント
胃腸炎の予防は治療と同様に重要です。医療従事者として、患者や一般市民に適切な予防策を指導することで、発症率の低減と集団感染の防止に貢献できます。
感染性胃腸炎の予防策
感染性胃腸炎の予防には以下の対策が有効です。
- 手洗いの徹底:石けんと流水による丁寧な手洗いが最も基本的で重要な予防策です
- 食品衛生の管理:適切な温度管理、十分な加熱調理、生肉と調理済み食品の分離などが重要です
- 調理器具の清潔維持:まな板や包丁などの調理器具は使用後に十分洗浄・消毒します
- 感染者の隔離と接触予防:特に集団生活施設(学校、保育所、高齢者施設など)では重要です
- 環境消毒:ノロウイルスなどに対しては次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤)による消毒が有効です
ワクチン接種
一部の胃腸炎には予防接種が利用可能です。
- ロタウイルスワクチン:小児のロタウイルス胃腸炎予防に有効
- コレラワクチン:流行地域への渡航者に推奨される場合がある
- 腸チフスワクチン:特定の地域への渡航者に検討される
患者教育と指導ポイント
医療従事者から患者への指導内容として以下が重要です。
- 症状出現時の対応:早期に水分補給を開始し、必要に応じて医療機関を受診する
- 再発予防:適切な手洗い習慣と食品衛生管理の重要性
- 二次感染予防:家庭内での感染拡大防止策(タオルの共用避止、トイレ清掃など)
- 職場・学校復帰の目安:特に食品取扱者や医療従事者、保育関係者は症状消失後も排菌が続く場合があることを説明
特殊な状況における予防
特定の環境や状況における予防策も重要です。
- 医療機関での院内感染対策:標準予防策の徹底、有症状患者の隔離、適切な環境整備
- 集団生活施設での管理:発症者の早期隔離、接触者の健康観察、施設内消毒
- 海外渡航時の注意:安全な水と食品の摂取、生水や氷の摂取回避、現地の衛生状況に応じた予防対策
公衆衛生的アプローチ
地域社会における胃腸炎の予防には、公衆衛生的な取り組みも重要です。
- 集団発生時の早期探知と対応:食中毒や感染症のサーベイランスシステム
- 食品衛生に関する啓発と教育:一般市民や食