月経不順・無月経の原因と初期症状を詳しく解説

月経不順や無月経は女性の健康状態を示す重要なサインです。ストレスやホルモンバランスの乱れから重篤な疾患まで、その原因は多岐にわたります。医療従事者として適切な診断と治療につなげるためには、どのような知識が必要でしょうか?

月経不順・無月経の原因と初期症状

月経不順・無月経の基本知識
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正常な月経周期

25~38日周期で、これを逸脱すると月経不順と診断

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無月経の分類

続発性(3か月以上停止)と原発性(18歳で初経なし)に分類

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早期発見の重要性

不妊症や重篤な疾患の早期発見につながる重要な症状

月経不順・無月経の基本的な分類と定義

月経不順・無月経の診断において、まず理解すべきは正常な月経周期の定義です。正常な月経周期は25~38日とされており、この範囲から逸脱する場合を月経不順と診断します。月経周期が24日以内の場合は頻発月経、39日以上3か月以内のものを希発月経と分類されます。

 

無月経については、続発性無月経と原発性無月経の2つに大別されます。続発性無月経は、それまであった月経が妊娠以外の理由で3か月以上停止している状態を指します。一方、原発性無月経は18歳を迎えても初経が来ない状態で、染色体異常や子宮・卵巣の発育障害が原因となることが多いです。

 

頻発月経の背景には、排卵の有無により異なる病態が存在します。排卵がある場合は卵胞期短縮症や黄体機能不全が考えられ、排卵がない場合は初経から数年の若い人や閉経が近づいた更年期に多く見られます。特に黄体機能不全は、卵巣からの黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌不全により、不妊症不育症の原因となるため注意が必要です。

 

希発月経においては、ストレスや体調の変化に伴う一過性のものと、排卵障害によるものがあります。38日以上の周期で定期的に月経がある場合は経過観察でも良いとされますが、妊娠を希望する場合は早期の相談が推奨されます。

 

月経不順・無月経の主要な原因

月経不順・無月経の原因は多岐にわたりますが、最も多いのはストレスや急激なダイエットによるホルモンバランスの崩れです。ストレス性(心因性)無月経は、受験、就職、失恋、引越しなどの生活環境の変化がトリガーとなり、視床下部-下垂体-卵巣系の連動に影響を与えることで発症します。

 

内分泌系の異常も重要な原因の一つです。高プロラクチン血症は、脳下垂体から分泌されるプロラクチンが過剰になることで月経が停止する疾患で、下垂体腺腫(良性腫瘍)や向精神薬の副作用が原因となることが知られています。甲状腺機能の異常も月経周期に大きく影響し、甲状腺機能低下症・亢進症のどちらでも月経異常が起こり得ます。

 

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、卵巣内の男性ホルモンが多いために排卵ができなくなる疾患で、生理不順の重要な原因です。PCOSの患者では、多毛、にきび、声の低音化、肥満などの症状が約20%に見られ、高プロラクチン血症やインスリン抵抗性を合併することもあります。

 

器質的疾患では、子宮筋腫子宮内膜症、子宮腺筋症などが月経異常の原因となります。特に過去の子宮内手術(流産手術や中絶手術)の影響で子宮内腔に癒着が生じるアッシャーマン症候群は、生理血の出口が塞がれることで無月経を引き起こします。

 

早発閉経(原発性卵巣不全)は40歳未満で卵巣機能が低下し、月経が停止する疾患です。月経停止以外にほてりや発汗など更年期様症状が出現することもあります。

 

月経不順・無月経の初期症状と見極めポイント

月経不順・無月経の初期症状を適切に把握することは、早期診断と治療開始において極めて重要です。まず基本的な症状として、月経周期の変化があります。正常な25~38日周期から逸脱し、24日以内の頻発月経や39日以上の希発月経が続く場合は注意が必要です。

 

無排卵性周期症では、月経様の出血はあるものの排卵を伴わない状態となります。この場合、月経周期が不順で、月経持続期間も短かったり長かったりし、基礎体温が一相性を示すことが特徴的です。患者に基礎体温の測定を指導し、排卵の有無を確認することが診断の手がかりとなります。

 

ホルモン異常に伴う症状も重要な見極めポイントです。高プロラクチン血症では月経停止に加えて乳汁分泌が見られることがあります。甲状腺機能異常では、甲状腺機能低下症の場合は体重増加、疲労感、寒がり、甲状腺機能亢進症では体重減少、動悸、発汗過多などの症状が併発します。

 

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)では、月経不順に加えて以下のような症状が見られます。

  • 多毛(顔、胸、腹部、背中の毛が濃くなる)
  • にきび(特に顎周りに重度のにきび)
  • 男性化徴候(声が低くなる、筋肉質になる)
  • 肥満(特に腹部肥満)
  • 黒色表皮症(首や脇の下の皮膚が黒くなる)

機能性子宮出血では、器質的疾患が認められない不正出血が生じます。排卵期出血は排卵直前のエストロゲン減少による消退出血で、少量で短期間であれば経過観察で十分ですが、量が多い場合や持続する場合は精査が必要です。

 

ストレス性無月経では、月経停止の前後に明らかなストレス要因(環境変化、精神的ショック、過度な運動、急激なダイエット)の存在を確認することが重要です。患者の生活歴や体重変化の詳細な聴取が診断につながります。

 

月経不順・無月経の診断プロセス

月経不順・無月経の診断において、系統的なアプローチが重要です。まず詳細な問診から開始し、初潮の時期、これまでの月経周期、最終月経、妊娠歴、薬剤使用歴、家族歴、生活習慣(ダイエット、運動、ストレス)について聴取します。

 

身体診察では、全身状態の評価、体重・BMIの測定、甲状腺触診、乳房診察(乳汁分泌の確認)、腹部診察、内診を行います。特に多毛、にきび、黒色表皮症などのPCOSに関連する身体所見の確認は重要です。

 

血液検査では、以下のホルモン値の測定が基本となります。

  • FSH(卵胞刺激ホルモン)
  • LH(黄体化ホルモン)
  • エストラジオール
  • プロラクチン
  • TSH、FT4(甲状腺機能)
  • テストステロン(男性ホルモン)
  • インスリン(PCOSの場合)

画像検査では、経腟超音波検査により卵巣の状態(多嚢胞性変化、卵胞の発育状況)、子宮内膜の厚さ、子宮筋腫や卵巣腫瘍の有無を評価します。必要に応じてMRI検査も考慮されます。

 

基礎体温の測定は、排卵の有無を判断する簡便で有用な方法です。二相性を示す場合は排卵あり、一相性の場合は無排卵と判断できます。現在では、アプリと連動した体温計により記録が簡便になっています。

 

薬剤による機能検査も診断に有用です。プロゲスチン負荷試験では、エストロゲンの作用が十分にある場合に消退出血が起こります。GnRH負荷試験では、視床下部-下垂体系の機能を評価できます。

 

鑑別診断では、妊娠の除外が最優先となります。その上で、機能性(ホルモン異常)と器質性(解剖学的異常)の鑑別を行い、原因に応じた治療方針を決定します。

 

月経不順・無月経の現代的課題と対応策

現代社会における月経不順・無月経の課題は、従来の医学的観点に加えて社会文化的要因も考慮する必要があります。特に若年女性において、SNSの影響による過度なダイエット志向や、学業・就職活動による慢性的なストレス状態が月経異常の新たなリスクファクターとなっています。

 

デジタル社会の影響として、月経管理アプリの普及により患者の月経に対する意識は向上している一方で、アプリの予測機能に過度に依存し、実際の身体症状を軽視する傾向も見られます。医療従事者としては、アプリのデータを参考にしつつも、基礎体温や身体症状の重要性を患者に伝える必要があります。

 

また、現代の女性のライフスタイルの多様化により、妊娠・出産を希望しない女性や、妊娠を先延ばしにする女性が増加しています。このような場合、月経不順があっても「月経がないほうが楽」と考え、治療を望まないケースもあります。しかし、長期間の無月経は骨密度低下や血管疾患のリスク増加につながる可能性があるため、適切な情報提供と治療提案が重要です。

 

職場環境における課題として、女性の社会進出に伴い、仕事のストレスや不規則な生活リズムが月経異常の原因となるケースが増加しています。特に夜勤や交代勤務に従事する女性では、概日リズムの乱れが視床下部-下垂体-卵巣系に影響を与え、月経不順を引き起こしやすくなります。

 

治療アプローチにおいても、個別化医療の観点から患者の価値観やライフスタイルを考慮した治療選択が求められています。低用量ピルによる月経周期の調整、漢方薬による体質改善、ライフスタイルの見直しなど、多角的なアプローチが必要です。

 

医療従事者として、月経不順・無月経に対する社会的偏見や誤解を解消し、適切な医療情報を提供することも重要な役割です。月経は女性の健康状態を反映する重要なバイタルサインであり、異常があれば早期に医療機関を受診することの重要性を啓発し続ける必要があります。

 

日本産科婦人科学会の診療ガイドラインに基づいた標準的治療の実践と、最新のエビデンスに基づいた治療選択により、患者のQOL向上と将来的な健康リスクの軽減を図ることが現代医療における重要な課題といえるでしょう。

 

日本産科婦人科学会の最新ガイドラインと治療指針
日本女性心身医学会による月経異常の心身医学的アプローチ