子宮筋腫の症状と治療方法
子宮筋腫の基本情報
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発症率
30代女性の約20~30%に見られる良性腫瘍
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主な症状
過多月経・月経痛・貧血・腹部圧迫感などが一般的
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治療法
経過観察・薬物療法・手術療法など症状に応じて選択
子宮筋腫とは:種類と発生メカニズム
子宮筋腫は、子宮の筋肉(平滑筋)から発生する良性の腫瘍です。女性特有の疾患であり、30代女性の約20~30%に見られるとされています。小さなものまで含めると、75%の女性に発生しているとの報告もあります。
子宮筋腫の発生メカニズムについては、現在のところ完全には解明されていませんが、女性ホルモン(特にエストロゲン)との関連が強いとされています。そのため、30歳から50歳の女性ホルモンの分泌が活発な年齢に多く見られ、閉経後には縮小する傾向があります。
子宮筋腫は発生する位置によって、以下の3種類に分類されます。
- 粘膜下筋腫:子宮の内側(子宮内腔側)に発生し、子宮内膜に突出するタイプ。比較的小さくても強い症状を引き起こしやすく、過多月経や不妊の原因になることがあります。
- 筋層内筋腫:子宮の筋肉層内に発生するタイプ。最も一般的なタイプで、小さいうちは症状が現れないことも多いですが、大きくなると月経量の増加や痛みの原因となります。
- 漿膜下筋腫:子宮の外側に向かって発生するタイプ。多くの場合、症状がほとんど現れませんが、大きくなるとお腹が膨らんだり、周囲の臓器を圧迫したりすることがあります。また、茎部がねじれると急な強い腹痛を引き起こすことがあります。
これらのタイプによって、現れる症状や最適な治療法が異なります。また、同一の患者さんに複数のタイプの筋腫が共存することも少なくありません。
子宮筋腫の主な症状と痛みの特徴
子宮筋腫の症状は、筋腫の大きさ、位置、数によって大きく異なります。小さな筋腫の場合は無症状のことも多く、健康診断や他の理由での婦人科受診時に偶然発見されることがあります。しかし、症状がある場合には以下のようなものが挙げられます。
1. 月経に関する症状
- 過多月経:月経時の出血量が異常に多くなる症状で、子宮筋腫の最も一般的な症状です。ナプキンを1~2時間で交換する必要があったり、血の塊が出たりします。
- 過長月経:月経期間が7日以上続く状態です。
- 月経困難症(月経痛):月経時の強い痛みを伴います。特に粘膜下筋腫では、子宮が収縮して筋腫を排出しようとするため、痛みが強くなることがあります。
2. 貧血症状
過多月経により慢性的に血液を失うことで、鉄欠乏性貧血を引き起こし、以下のような症状が現れます。
- めまい・ふらつき
- 疲れやすさ
- 息切れ
- 動悸
- 顔面蒼白
3. 圧迫による症状
筋腫が大きくなると周囲の臓器を圧迫し、さまざまな症状を引き起こします。
- 頻尿:膀胱を圧迫することで、トイレが近くなります。
- 便秘:腸管を圧迫することで、排便困難が生じることがあります。
- 腰痛・下腹部痛:神経や骨盤を圧迫することによって引き起こされます。
- 腹部膨満感:お腹が膨らんだように感じたり、実際に膨らんで見えることがあります。
4. 不正出血
月経期間以外にも不規則な出血が見られることがあります。
5. 不妊や流産のリスク
特に粘膜下筋腫は、子宮内膜に影響を与えるため、着床障害や流産のリスクを高める可能性があります。
特筆すべきは、筋腫のタイプによって症状の現れ方が異なる点です。例えば。
- 粘膜下筋腫:小さくても強い症状(特に過多月経)を引き起こしやすく、不妊のリスクも高くなります。
- 筋層内筋腫:中程度の症状を示すことが多いです。
- 漿膜下筋腫:比較的大きくなっても症状が現れにくいですが、茎捻転を起こすと激しい痛みを伴うことがあります。
これらの症状が日常生活に支障をきたす場合には、医療機関での診断と治療が必要となります。特に、急に症状が悪化した場合や、閉経後に筋腫が増大した場合には、子宮肉腫(悪性腫瘍)の可能性も考慮して、早めに婦人科を受診することが重要です。
子宮筋腫の診断方法と検査の流れ
子宮筋腫の診断は、まず問診と内診から始まります。問診では月経の状況や症状について詳しく確認し、内診では子宮の大きさや硬さ、痛みの有無などをチェックします。その後、より詳細な検査へと進みます。
1. 画像診断検査
- 経腟超音波検査:最も基本的な検査で、膣からプローブを挿入して子宮や卵巣の状態を観察します。子宮筋腫の位置、大きさ、数を確認するのに有用です。痛みはほとんどなく、短時間で終わる非侵襲的な検査です。
- 経腹超音波検査:お腹の上からプローブをあて、子宮の状態を観察します。大きな筋腫や子宮全体の大きさを確認するのに適しています。
- MRI検査:超音波検査よりも詳細な画像が得られ、筋腫のタイプ、正確な位置、変性の有無などを詳細に評価できます。また、子宮腺筋症や子宮肉腫との鑑別にも役立ちます。特に手術前の評価として重要です。
- CT検査:筋腫そのものの評価よりも、他の疾患との鑑別や周囲臓器への影響を調べるために行われることがあります。
2. 血液検査
- 貧血検査:過多月経による貧血の有無を確認するためのヘモグロビン値や血清フェリチン値の測定。
- 腫瘍マーカー:悪性腫瘍(子宮肉腫など)との鑑別のために行われることがあります。LDH、CA125などが測定されます。
3. 子宮内膜検査
- 子宮内膜細胞診・組織診:過多月経の原因が子宮筋腫なのか、子宮内膜増殖症や子宮体がんなどの他の疾患なのかを鑑別するために行われます。
- 子宮鏡検査:子宮内腔を直接観察する検査で、特に粘膜下筋腫の診断に有用です。必要に応じて同時に組織を採取することも可能です。
診断の流れ
- 初診時:問診、内診、経腟超音波検査を行い、子宮筋腫の可能性を評価します。
- 2次検査:必要に応じてMRI検査や血液検査などを追加します。
- 確定診断:画像所見と臨床症状から子宮筋腫と診断されます。
- 鑑別診断:子宮肉腫、子宮腺筋症、卵巣腫瘍などとの鑑別が重要です。
特に閉経後に子宮筋腫が増大する場合や、急速に大きくなる場合、不正出血が続く場合などは、子宮肉腫の可能性も考慮して慎重な診断が必要です。子宮肉腫は子宮筋腫に比べて非常に稀(子宮筋腫の0.1~0.5%程度)ですが、悪性腫瘍であるため早期発見が重要です。
診断後は、筋腫の大きさ、位置、症状の程度などを総合的に判断して、経過観察するか治療を行うかが決定されます。症状がなく、小さな筋腫(手拳大以下)の場合は、定期的な経過観察のみで対応することも多いです。
子宮筋腫の薬物療法と手術療法の選択
子宮筋腫の治療法は、年齢、症状の程度、筋腫の大きさと位置、妊娠希望の有無などを考慮して、個々の患者さんに最適な方法が選択されます。大きく分けて「経過観察」「薬物療法」「手術療法」の3つのアプローチがあります。
1. 経過観察
症状がない、あるいは軽微で、筋腫が比較的小さい(手拳大以下)場合には、定期的な診察と超音波検査による経過観察が選択されます。多くの子宮筋腫は緩やかな成長を示し、閉経後には縮小する傾向があるため、全ての子宮筋腫が治療を必要とするわけではありません。
2. 薬物療法
薬物療法は、症状の緩和や筋腫の一時的な縮小を目的として行われます。根本的に筋腫を消失させることはできませんが、症状のコントロールや手術前の準備として有効です。
対症療法
- 鉄剤:過多月経による貧血の改善のために処方されます。経口鉄剤が一般的ですが、症状が重い場合は点滴による鉄剤投与が行われることもあります。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs):月経痛などの痛みを緩和します。
- 止血剤:トラネキサム酸などの抗線溶薬が過多月経の軽減に用いられます。
ホルモン療法
- GnRHアゴニスト・アンタゴニスト(偽閉経療法):女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を抑制し、一時的に閉経状態を作り出します。筋腫を縮小させ、過多月経や貧血を改善する効果がありますが、長期使用(6ヶ月以上)は骨量減少などの副作用があるため避けられています。現在は、手術前の筋腫縮小や貧血改善を目的として使用されることが多いです。GnRHアゴニストは注射や点鼻薬、アンタゴニストは経口薬として使用できます。
- 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP):月経量を減らし、月経痛を軽減する効果がありますが、筋腫自体を縮小させる効果は限定的です。
- 子宮内黄体ホルモン放出システム:子宮内に挿入して黄体ホルモンを局所的に放出させるシステムで、子宮内膜を薄くして月経量を減らす効果があります。
3. 手術療法
薬物療法で症状が改善しない場合や、筋腫が大きい場合、急速に増大する場合などには手術療法が検討されます。
子宮温存手術(筋腫核出術)
- 妊娠希望のある女性に対して行われる手術で、子宮は残して筋腫のみを取り除きます。
- 開腹筋腫核出術:お腹を切開して行う従来の手術方法です。
- 腹腔鏡下筋腫核出術:小さな穴から細い器具を挿入して行う低侵襲手術です。
- 子宮鏡下筋腫切除術:膣から器具を挿入し、子宮内の粘膜下筋腫を切除する方法です。
- 子宮を温存するため、将来的に筋腫が再発する可能性があります。
子宮全摘術
- 妊娠希望がない女性に対して行われる手術で、子宮ごと筋腫を取り除きます。
- 開腹子宮全摘術:お腹を切開して行う従来の方法です。
- 腹腔鏡下子宮全摘術:小さな穴から行う低侵襲手術です。
- 膣式子宮全摘術:膣から子宮を摘出する方法です。
- 子宮を完全に摘出するため、筋腫の再発はありませんが、妊娠は不可能になります。
その他の治療法
- 子宮動脈塞栓術(UAE):カテーテルを用いて子宮筋腫への血流を遮断し、筋腫を壊死させる方法です。低侵襲ですが、将来の妊娠に影響する可能性があります。
- 子宮鏡下子宮内膜焼灼術(MEA):子宮内膜を焼灼して月経量を減らす方法です。筋腫自体は治療できません。
治療法の選択においては、年齢、症状の程度、妊娠希望、筋腫の大きさと位置、患者さんの希望など、多くの要素が考慮されます。例えば。
- 若い女性で妊娠希望がある場合:筋腫核出術が検討されます。
- 閉経が近い女性:短期間のホルモン療法で閉経を待つという選択肢があります。
- 子宮筋腫の症状が重く、妊娠希望がない場合:子宮全摘術が最も確実な解決策となります。
いずれの治療法を選択する場合も、利点とリスクを十分に理解し、医師とよく相談した上で決定することが重要です。
子宮筋腫と妊娠:不妊リスクと管理方法
子宮筋腫と妊娠の関係は複雑で、筋腫があることが必ずしも不妊や妊娠合併症を引き起こすわけではありませんが、筋腫の位置やサイズによっては生殖機能に影響を与える可能性があります。この関係性について詳しく見ていきましょう。
子宮筋腫が不妊に与える影響
子宮筋腫による不妊のメカニズムには、いくつかの要因が考えられています。
- 子宮内腔の変形:特に粘膜下筋腫や一部の筋層内筋腫は、子宮内腔の形を変えることで、受精卵の着床を妨げる可能性があります。
- 卵管の閉塞:筋腫が卵管入口付近にできると、精子や卵子の通過を妨げることがあります。
- 子宮内環境の変化:筋腫によって子宮内の血流が変化したり、子宮内膜の炎症反応が引き起こされたりすることで、着床に適さない環境になる可能性があります。
- 子宮収縮パターンの変化:筋腫がある子宮は、正常な収縮パターンが阻害され、精子の輸送や受精卵の移動に影響を与えることがあります。
研究によると、子宮筋腫を持つ女性のうち約5~10%が不妊の問題を抱えていると言われています。特に粘膜下筋腫は、他のタイプの筋腫よりも不妊との関連性が高いとされています。
妊娠中の子宮筋腫管理
すでに妊娠している場合の子宮筋腫の管理は、慎重な観察が基本となります。
- 定期検診の重要性:筋腫のサイズや位置の変化、胎児の成長を定期的に確認します。
- 筋腫の変化:妊娠中のホルモン変化により、約1/3の筋腫が大きくなり、別の1/3は変化せず、残りの1/3は縮小するとされています。特に妊娠初期(最初の12週間)に急速に成長することがあります。
- 合併症リスク。
- 疼痛:筋腫の赤色変性(筋腫内の血流が途絶えて起こる変性)による激しい痛みが生じることがあります。
- 流早産:特に粘膜下筋腫は流産や早産のリスクを高める可能性があります。
- 胎位異常:大きな筋腫により、胎児の位置が変わることがあります。
- 分娩障害:筋腫の位置によっては、正常な分娩を妨げることがあります。
- 産後出血:筋腫により子