エストラジオールとエストロゲンの違い

エストラジオールとエストロゲンは混同されがちですが、実は明確な関係性があります。エストロゲンの種類や臨床応用における違いを理解していますか?

エストラジオールとエストロゲンの違い

この記事のポイント
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エストロゲンは総称

エストロゲンはエストロン、エストラジオール、エストリオールの3種類からなるステロイドホルモンの総称です

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エストラジオールが最強

エストラジオール(E2)は3種の中で最も強い生物学的活性を持ち、閉経前の主要なエストロゲンです

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臨床応用の違い

ホルモン補充療法(HRT)では主にエストラジオールが使用され、経口剤や経皮剤など多様な製剤があります

エストラジオールはエストロゲンの一種

 

エストロゲンは単一の物質ではなく、エストロン(E1)、エストラジオール(E2)、エストリオール(E3)の3種類の分子を指す総称です。これらはすべてステロイドホルモンの一種であり、コレステロールから合成されます。エストロゲンという用語はギリシャ語の"estrus(発情)"と接尾語の"-gen(生じる)"から成り立っており、エストロゲンの分泌がピークになると発情すると言われたことに由来します。
参考)エストロゲン受容体 (Estrogen Receptor)

エストラジオールは3種類のエストロゲンの中で最も生物学的活性が強く、閉経前の女性において卵巣から分泌される主要なエストロゲンです。17β-エストラジオール(E2)は思春期から閉経までの間、生体におけるエストロゲン活性の大半を媒介します。
参考)ナチュラルホルモン補充療法(BHRT)

エストロンは卵巣や副腎、肝臓、脂肪組織で作られ、閉経後は卵巣でエストラジオールに変換されます。閉経後はエストロンが主要なエストロゲンとなりますが、体脂肪率の上昇などでエストロンが増えすぎると乳腺や子宮の組織を刺激し、乳がんや子宮がんのリスクが高くなると指摘されています。エストリオールはエストラジオールやエストロンを肝臓で変換して作られ、乳腺や子宮に対する刺激が弱いため、がんを誘発せず逆にこれらのがんから体を守る働きがあります。​

エストラジオールの受容体結合と作用機序

エストラジオールはエストロゲン受容体(ER)に結合することで生理作用を発現します。ERには主にERαとERβの2つのサブタイプが存在し、組織や細胞によって分布パターンが異なります。エストラジオールがERに結合すると、受容体はホモ二量体(αα、ββ)またはヘテロ二量体(αβ)を形成して活性化します。
参考)エストロゲン受容体 - Wikipedia

活性化したER二量体はZnフィンガーモチーフを介してDNAのエストロゲン応答エレメント(ERE)に結合し、標的遺伝子の転写を促進します。ERの標的遺伝子にはサイクリンD1(CCND1)やトレフォイル因子1(TFF1)、核内受容体相互作用タンパク質1(NRIP1)などが存在し、これらは細胞の増殖や乳腺の発達、乳がん細胞の浸潤に関わります。
参考)エストロゲン - 脳科学辞典

近年の研究では、エストロゲン受容体の活性化はリガンドの結合だけでなく翻訳後修飾も重要な役割を担っていることが明らかになっています。特にERのリン酸化はリガンド依存的・非依存的のいずれの転写活性化機構も促進し、アミノ基末端側から118番目のセリン残基(S118)のMAPキナーゼやサイクリン依存性キナーゼ(CDK)7によるリン酸化が重要であると報告されています。​

エストラジオールとエストロゲンの臨床応用における違い

ホルモン補充療法(HRT)において、エストラジオール製剤は更年期障害の治療や骨粗鬆症の予防に広く使用されています。エストラジオールは天然型のエストロゲンであり、ヒトの卵巣で作られるエストロゲンと同じ構造を持つため、飲み薬の他にも経皮剤としてパッチやジェルも利用可能です。
参考)HRTで使用できる天然型の女性ホルモン製剤について

エストリオール製剤は、E1やE2と比べてエストロゲン受容体との結合時間が短く親和性も低いため、更年期症状改善効果は弱いですが副作用の発症も少ないとされています。乳腺や子宮に対する刺激が弱い特性から、乳がんや子宮がんのリスクを懸念する患者に対して選択されることがあります。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/5850

経口エストロゲンは肝臓での凝固因子の合成を促進し、protein C抵抗性を高めて凝固系の亢進をもたらします。これに対して経皮エストラジオールは、protein Cやprotein Sの活性、プラスミノーゲンなどに影響を与えることなく、血液凝固第VII因子-組織因子複合体やPAI-1などの凝固系マーカーの低下をもたらすため、静脈血栓のリスクは上昇しないとされます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/dds/24/2/24_2_117/_pdf

エストラジオールの生体内代謝と変換

エストロゲンの生合成経路において、アンドロステンジオンテストステロンまたはエストロンになり、エストロンはエストラジオールに変換されます。テストステロンはエストラジオールまたはアンドロステンジオンになり、エストラジオールはエストロンまたはエストリオールに変換される関係にあります。
参考)エストロゲン - Wikipedia

閉経後の女性では、卵巣からのエストラジオール分泌が大幅に減少し、副腎や脂肪組織で産生されるエストロンが主要なエストロゲンとなります。この代謝の変化により、閉経後の女性ホルモン環境は大きく変化します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6148803/

エストロゲンの一種であるエステトロール(E4)は、エストラジオールとエストリオールからヒトの胎児の肝臓でのみ産生される特殊なエストロゲンです。エステトロールは終末代謝産物であり、生体内でエストリオール、エストラジオール、エストロンなどの活性代謝物に逆変換されないユニークな代謝プロファイルを持ちます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10293541/

エストラジオールの組織特異的作用

エストラジオールは骨や血管の健康維持、肌や髪のツヤの保持、気分の安定、女性らしい体の形成など、多岐にわたる生理作用を持ちます。骨密度を保ち動脈硬化を防ぐことで骨粗鬆症や心血管疾患の予防に寄与し、コラーゲンの生成を促して肌のハリを維持します。
参考)【医師監修】エストロゲンとプロゲステロンの違いは?女性特有の…

エストラジオールは自律神経に作用して感情の浮き沈みを抑え、乳腺の発達を助けて子宮内膜を増殖させることで妊娠の準備をします。肝臓ではLDL受容体の数を増加させてLDLコレステロールの取り込みを促進し、脂質代謝にも重要な役割を果たします。
参考)https://jsre.umin.jp/13_18kan/7-review2.pdf

エストラジオールは抗酸化作用を有し、神経細胞において酸化ストレスアポトーシスに対する保護作用を示すことが報告されています。骨代謝においてもエストロゲン依存的な制御を受けるタンパク質群が同定されており、骨代謝過程で中心的な役割を担います。​
エストロンとエストラジオールでは血管内皮コロニー形成細胞(hECFC)に対する作用が異なることが明らかになっています。エストロンとエストラジオールを等濃度で併用すると、それぞれ単独で存在する場合よりも増殖反応が減弱する共抑制関係が認められ、エストロンのシグナル伝達がエストラジオールとは異なることが示されています。この知見は、閉経後の女性においてエストラジオールレベルが低下しエストロンが優勢なエストロゲンとなることの臨床的意義を理解する上で重要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10550204/

 

 


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