フェントステープは、がん性疼痛や慢性疼痛に対して使用されるフェンタニル含有の貼付型麻薬性鎮痛剤です。臨床試験では413例中236例(57.1%)に副作用が認められ、約半数以上の患者で何らかの有害事象が発現しています。最も頻度の高い副作用は傾眠(12.6~23.9%)で、特に慢性疼痛患者での使用時に高い傾向があります。
参考)医療用医薬品 : フェントス (フェントステープ0.5mg …
消化器系副作用として悪心(11.6~21.7%)、嘔吐(10.4%)、便秘(9.9~11.2%)が高頻度で報告されています。これらは麻薬性鎮痛剤に共通する副作用ですが、フェントステープではμ1受容体への選択性が高いため、他のオピオイドと比較して便秘や眠気が起こりにくいとされています。その他の一般的な副作用として、めまい(8.4%)、食欲不振、頭痛、不眠などが挙げられます。
参考)フェントステープの副作用とは?麻薬性鎮痛剤なのか解説
貼付部位に関連した副作用も特徴的で、貼付部位のそう痒感(瘙痒感)、紅斑、皮膚炎、湿疹などが報告されています。これらの皮膚反応を軽減するため、貼付部位を毎回変更することが推奨されています。
参考)フェントステープの使用法と注意すべき点とは?|リクナビ薬剤師
KEGG MEDICUSのフェントステープ添付文書情報(副作用発現頻度の詳細な一覧表が掲載)
フェントステープの最も警戒すべき重大な副作用は呼吸抑制です。呼吸抑制は無呼吸、呼吸困難、呼吸異常、呼吸緩慢、不規則な呼吸、換気低下などとして現れ、最悪の場合死に至る可能性があります。特に貼付部位の温度が上昇するとフェンタニルの吸収量が増加し、過量投与による呼吸抑制のリスクが高まります。
参考)フェントステープ6mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品…
40℃以上の発熱がある患者では、体内に吸収される薬物量が増加するため使用は慎重を要します。貼付中は電気パッド、電気毛布、カイロ、加温ウォーターベッド、赤外線灯、こたつなどの外部熱源との接触を避ける必要があります。日光浴時も皮膚からの吸収が促進されるため注意が必要です。
参考)https://www.hosp.mie-u.ac.jp/kanwa-care/hp/wp-content/uploads/23seminarhandout.pdf
呼吸抑制が発現した場合は、直ちにフェントステープを剥離し、麻薬拮抗剤(ナロキソン、レバロルファンなど)の投与など適切な処置を行う必要があります。貼付剤剥離後も半減期が17時間以上と長いため、剥離後も鎮痛効果や副作用が残存することに留意が必要です。
最近の研究では、フェンタニルによる呼吸抑制のメカニズムとして、オピオイド受容体を介した抑制系と非オピオイド受容体を介した興奮系の二つのシステムが拮抗しながら呼吸調節に関与していることが明らかになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11063261/
三重大学医学部附属病院の医療用麻薬服薬指導資料(フェントステープの熱源回避の重要性について詳細な解説あり)
フェントステープは麻薬性鎮痛剤であり、継続使用により薬物依存を生じるリスクがあります。依存性には身体依存と精神依存の二種類があり、特に薬物依存の既往歴がある患者では依存性を生じやすいため慎重な投与が必要です。乱用や誤用により過量投与や死亡に至る可能性があるため、患者本人以外は絶対に使用してはならず、他人への譲渡は厳しく罰せられます。
参考)https://www.pmda.go.jp/RMP/www/650034/a19a4dd3-bdc9-4ab0-8a26-c9eaf32b79d3/650034_8219701S1025_03_001RMPm.pdf
身体依存が形成された状態で突然の中止、急速な投与量減少、または拮抗薬投与を行うと、退薬症候(離脱症状)が発現します。退薬症候の身体症状として、あくび、くしゃみ、めまい、掻痒感、散瞳、異常発汗、鼻漏、流涙、悪寒、発熱、下痢、腹部痙攣、悪心、嘔吐、頻脈、不整脈、血圧低下、振戦、全身痛などが報告されています。精神症状には不安、焦燥、静坐不能、不快感、倦怠感、抑うつ、易刺激性、興奮、不眠、せん妄などがあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001le8l-att/2r9852000001leip.pdf
他のオピオイド鎮痛剤からフェントステープに切り替えた場合、患者によっては悪心、嘔吐、下痢、不安、悪寒などの退薬症候が現れることがあるため、切り替え時には十分な観察が必要です。退薬症候は大幅な減量や突然の休薬で発症しやすく、症状は悲惨なほど激しい場合がありますが、適切な管理下では死に至ることはありません。
参考)オピオイド中毒および離脱 - 24. その他のトピック - …
妊娠中のフェンタニル経皮吸収型製剤の使用により、新生児に退薬症候がみられたとの報告もあるため、妊婦への投与は慎重に判断する必要があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067617.pdf
日本ペインクリニック学会のオピオイド鎮痛薬適正使用ガイドライン(身体依存と退薬症候の詳細な解説)
フェントステープの適切な貼付方法は、薬効と副作用の両面で重要です。貼付部位は胸部、腹部、上腕部、大腿部などが推奨され、痛みの部位に直接貼る必要はありません。これは成分が皮膚から吸収された後、血液を介して脳に到達して鎮痛効果を発揮するためです。
貼付前には貼付部位の表面の汗や水分をよく拭き取る必要があります。石けん、アルコール、ローションなどの使用は薬効成分の吸収に影響を与えるため避けるべきです。なるべく体毛のない部位を選び、体毛が濃い場合はカミソリではなくハサミで短くカットします。貼付後は30秒ほど圧着させ、皮膚刺激を避けるため毎回貼付部位を変更することが推奨されています。
皮膚の状態も吸収効率に大きく影響します。炎症がある場所や乾燥が強く落屑が多い場合、発汗が多い場合などは吸収が低下する可能性があります。逆に高体温状態(入浴後や発熱時)では血中濃度が上昇しやすくなります。フェントステープは1日1回交換する製剤で、効果発現に12~14時間を要するため急性疼痛には適していません。
参考)http://www.kanwa.med.tohoku.ac.jp/student/pdf/manual/2019/01.pdf
貼付部位に関連した皮膚反応として、そう痒感、紅斑、皮膚炎、湿疹などが発現する可能性があります。同一部位への繰り返し貼付を避け、位置を少しずつ変えることで皮膚刺激を最小限にできます。
参考)フェンタニルクエン酸塩1日用テープ1mg「第一三共」の添付文…
PMDA適正使用ガイド(患者向け)慢性疼痛におけるフェントステープの詳細な貼付方法と注意点
フェントステープの有効成分フェンタニルは主に肝臓のCYP3A4で代謝されるため、CYP3A4に影響を与える薬剤との相互作用に注意が必要です。CYP3A4阻害作用を有する薬剤(マクロライド系抗生物質、アゾール系抗真菌薬、HIVプロテアーゼ阻害薬、グレープフルーツジュースなど)との併用により、フェントステープの血中濃度が上昇し、副作用が増強する可能性があります。
参考)https://www.jichi.ac.jp/center/sinryoka/yakuzai/kensyuukai/gankagaku/sonota/yakubutsryohou_20240909.pdf
一方、CYP3A4誘導作用を有する薬剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェノバルビタール、フェニトインなど)との併用では、フェントステープの血中濃度が低下し治療効果が減弱するおそれがあります。特にCYP3A4誘導薬の中止後は、フェントステープの血中濃度が上昇し重篤な呼吸抑制などの副作用が発現する可能性があるため、観察を十分に行い慎重に使用することが求められます。
薬力学的相互作用にも注意が必要で、中枢神経抑制作用を有する薬剤(非定型抗精神病薬、定型抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、三環系抗うつ薬、神経障害性疼痛治療薬、アルコールなど)との併用により、中枢抑制作用が増強される可能性があります。抗コリン作用を有する薬剤との併用でも相乗的な副作用が生じる可能性があります。
オピオイド導入薬としてフェントステープを使用することは原則推奨されておらず、他のオピオイドで一定期間投与され忍容性が確認された患者に使用するのが基本です。ただし、フェントステープの最小規格(0.5mg)での導入は2020年6月より可能となっています。
自治医科大学附属病院の医療用麻薬資料(フェンタニルのCYP3A4相互作用の詳細と他のオピオイドとの比較表あり)
腎機能障害患者ではフェントステープの代謝・排泄が遅延し、副作用が現れやすくなる可能性があります。フェンタニルの利点として、腎機能低下時でも活性代謝物の蓄積が臨床上問題にならない点が挙げられますが、末期腎不全や透析施行中の患者では使用に慎重な判断が求められます。腎機能が低下している患者では、用量調整や慎重なモニタリングが必要です。
参考)エラー
高齢者では一般的に生理機能が低下しているため、薬物の代謝・排泄能力も低下していることが多く、副作用が発現しやすい傾向があります。特に高齢者は多剤併用(ポリファーマシー)の状態にあることが多く、相互作用のリスクも高まります。高齢患者では低用量から開始し、慎重に用量調整を行うことが推奨されます。
意外な情報として、腎機能が低下している患者に対するオピオイド選択において、フェンタニルは活性代謝物の蓄積リスクが低いため、モルヒネやオキシコドンと比較して相対的に安全性が高いとされています。これはフェンタニルがグルクロン酸抱合ではなくCYP3A4で代謝されるためです。しかし、それでも腎障害患者では慎重な使用と観察が必要です。
喘息患者では気管支収縮を起こすおそれがあり、徐脈性不整脈のある患者では徐脈を助長させる可能性があります。頭蓋内圧亢進、意識障害・昏睡、脳腫瘍等の脳器質的障害のある患者では呼吸抑制を起こすおそれがあるため、これらの患者群では特に慎重な投与判断が求められます。
妊婦への投与では、フェンタニル投与により胎児に徐脈が現れたとの報告があり、動物実験では胎児死亡も報告されています。授乳中の使用でも母乳に移行し乳児に影響を与える可能性があるため、医師への相談が必要です。