血清中に存在するグロブリンは、タンパク質の一群を指し、アルブミンと並んで血清タンパク質の主要構成要素となっています。グロブリンは水に不溶で希塩類溶液に溶ける性質を持ち、電気泳動法によって複数の種類に分画されます。臨床検査では血清タンパク電気泳動を実施することで、α1グロブリン、α2グロブリン、βグロブリン、γグロブリンの4つの主要カテゴリに分類され、それぞれが異なる臨床的意義を持っています。
参考)グロブリン - Wikipedia
グロブリンの種類を理解することは、感染症、炎症性疾患、肝疾患、腎疾患、免疫異常、血液腫瘍など、多岐にわたる疾患の診断と病態評価において不可欠です。特に免疫グロブリンと呼ばれるタンパク群は、γグロブリン分画の主要成分として抗体機能を担い、生体防御において中心的な役割を果たしています。
参考)A/G|蛋白|生化学検査|WEB総合検査案内|臨床検査|LS…
血清タンパク電気泳動では、グロブリンはアルブミンとともに分析され、陽極側からアルブミン、α1グロブリン、α2グロブリン、βグロブリン、γグロブリンの5分画として検出されます。これらの分画は、電荷と分子量の違いによって分離され、各分画にはそれぞれ特有のタンパク質が含まれています。
参考)血清蛋白分画 - Wikipedia
α1グロブリン分画にはα1アンチトリプシンやα1酸性糖蛋白(α1AGP)が含まれ、α2グロブリン分画にはα2マクログロブリン、ハプトグロビン、セルロプラスミンなどが含まれます。これらは主に急性相タンパク質として機能し、炎症反応時に顕著に増加する特徴があります。βグロブリン分画にはトランスフェリンや補体成分が含まれ、肝機能や鉄代謝の評価に関連します。γグロブリン分画には免疫グロブリン(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)が主に含まれ、免疫応答の中心的役割を担っています。
参考)抗体の種類 
分画パターンの異常は疾患特異的な変化を示すことがあり、例えば多発性骨髄腫では単クローン性のM蛋白がγ分画に鋭いピークとして現れます。また、肝硬変ではβ-γ架橋と呼ばれる特徴的なパターンが観察され、ネフローゼ症候群ではα2グロブリンの増加とγグロブリンの低下が見られます。
参考)わかっていそうでわかっていない、少しだけわかる蛋白分画(獣医…
免疫グロブリンはグロブリンの中でも特に重要な種類であり、IgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5種類が存在します。これらは重鎖(H鎖)の定常部の違いによって分類され、それぞれ異なる構造、分布、機能を持っています。
参考)免疫グロブリンについて 一般社団法人日本血液製剤協会
IgGは血清免疫グロブリンの70~75%を占める最も多い種類で、二次免疫応答において中心的な役割を果たします。IgGは胎盤を通過できる唯一の免疫グロブリンであり、母体から胎児への受動免疫を可能にしています。またIgGにはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4の4つのサブクラスが存在し、それぞれ異なるエフェクター機能を持ちます。
参考)免疫グロブリン(免疫グロブリン検査 / Immunoglob…
IgMは血清免疫グロブリンの約10%を占め、基本のY字構造が5つ結合した5量体構造を持つ種類です。IgMは感染初期に最初に産生される抗体であり、急性感染症の診断マーカーとして重要です。親和性は一般的にIgGより低いですが、多価結合により結合力を補っています。
参考)抗体検査、IgMとIgGの違いって? - 東京ビジネスクリニ…
IgAは血清免疫グロブリンの10~15%を占め、粘膜表面での防御に特化した種類です。血清中では単量体として、粘膜分泌液中では2量体として存在し、唾液、涙液、母乳、腸液などに豊富に含まれています。IgAはIgA1とIgA2の2つのサブクラスに分けられます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3670108/
IgEは血清中に極めて微量(0.001%以下)しか存在しない種類ですが、アレルギー反応と寄生虫感染症において重要な役割を果たします。肥満細胞や好塩基球の表面に結合し、抗原と反応すると即時型アレルギー反応を引き起こします。
IgDは血清中濃度が非常に低く、主にBリンパ球表面に膜結合型として存在する種類です。IgDの正確な機能については未解明な部分が多いものの、B細胞の分化や活性化に関与すると考えられています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC95839/
免疫グロブリンの各種類の詳細な構造と機能について
各グロブリン種の測定は、多様な疾患の診断、病態評価、治療効果判定において重要な情報を提供します。血清タンパク電気泳動とA/G比(アルブミン/グロブリン比)は、グロブリン全体の量的変化を簡便に評価できる検査です。
A/G比は正常では1.2~2.0程度ですが、肝疾患や糸球体疾患ではアルブミン減少とグロブリン増加により低下します。逆に低ガンマグロブリン血症や無ガンマグロブリン血症ではA/G比が上昇します。ただし、A/G比単独ではM蛋白血症の見落としのリスクがあるため、蛋白分画との組み合わせが推奨されます。
各免疫グロブリン種の個別定量検査では、IgGの低下は免疫不全や低ガンマグロブリン血症を示唆し、IgGの上昇は慢性感染症、自己免疫疾患、肝疾患などで見られます。IgMの上昇は急性感染症や原発性胆汁性肝硬変、マクログロブリン血症の可能性を示し、IgAの上昇は肝疾患、炎症性腸疾患、IgA骨髄腫などで観察されます。IgEの著明な上昇はアレルギー疾患や寄生虫感染症で見られます。
多発性骨髄腫などの形質細胞腫瘍では、腫瘍化した形質細胞が単一種類の異常免疫グロブリン(M蛋白)を大量に産生します。M蛋白は電気泳動で鋭いピークとして検出され、免疫固定電気泳動によりIgG型、IgA型、IgM型などの種類が同定されます。M蛋白の増加は過粘稠度症候群、アミロイドーシス、正常抗体産生の抑制による易感染性などの合併症を引き起こします。
参考)多発性骨髄腫の検査・診断 
免疫グロブリンの種類と疾患との関連に関する詳細情報
免疫グロブリンの基本構造は、2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)から構成されるY字型の分子です。重鎖には5つの異なる種類(μ、δ、γ、α、ε)が存在し、それぞれIgM、IgD、IgG、IgA、IgEのアイソタイプを決定しています。一方、軽鎖にはκ鎖とλ鎖の2種類のみが存在します。
参考)免疫グロブリン重鎖 - Wikipedia
各免疫グロブリン種の分子量は大きく異なり、最も軽いαグロブリンは分子量約93、最も重いγグロブリンは分子量約1193とされています。IgGは基本のY字構造を持つ単量体で分子量約150kDaですが、IgMは5量体構造を形成し分子量約900kDaに達します。IgAは血清中では単量体、分泌液中では2量体として存在し、J鎖と分泌成分を伴います。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8657937/
重鎖は可変領域(VH)と複数の定常領域(CH1、CH2など)から構成され、抗原結合部位は重鎖と軽鎖の可変領域が形成する相補性決定領域(CDR)に位置します。この構造の多様性により、免疫グロブリンは無数の種類の抗原を認識できる能力を獲得しています。
参考)抗体の種類とは? 
各免疫グロブリン種の定常領域の違いは、エフェクター機能の違いをもたらします。例えばIgGとIgMは補体を活性化できますが、IgAとIgEは主に異なる機序で免疫応答を発揮します。IgGはFcγ受容体を介して食細胞による貪食を促進し、IgEはFcε受容体を介して肥満細胞からの脱顆粒を引き起こします。
参考)https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fimmu.2014.00520/pdf
グロブリンの種類と量の異常は、多様な病態を反映します。多クローン性高ガンマグロブリン血症では、複数種類の免疫グロブリンが全体的に増加し、慢性感染症、自己免疫疾患、肝硬変などで観察されます。
単クローン性ガンマグロブリン血症では、特定種類の免疫グロブリンが異常増加し、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症(MGUS)などの形質細胞異常症を示唆します。M蛋白の種類はIgG型が最も多く、次いでIgA型、IgM型、まれにIgD型やIgE型が見られます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12038478/
低ガンマグロブリン血症や無ガンマグロブリン血症では、免疫グロブリンの種類や量が全般的に低下し、原発性免疫不全症や続発性免疫不全症を示します。選択的IgA欠損症は最も頻度の高い原発性免疫不全症の一種で、IgA種のみが選択的に欠損します。
α2グロブリン種の増加はネフローゼ症候群の特徴的所見であり、アルブミンやγグロブリンが尿中に漏出する一方で、分子量の大きいα2分画タンパクは漏出しにくく肝臓での産生も増加するため相対的に増加します。肝硬変ではアルブミンおよびαグロブリン、βグロブリン種の合成低下が起こり、A/G比の低下とγグロブリンの相対的増加が見られます。
急性炎症ではα1グロブリンおよびα2グロブリン種が増加し、慢性炎症でもこれらの急性相タンパクは持続的に上昇します。炎症性腸疾患、関節リウマチ、悪性腫瘍などでは多クローン性のγグロブリン増加も伴うことが多く、複数のグロブリン種が同時に変動します。
A/G比と血清タンパク分画の臨床的解釈