消化酵素一覧と種類、働き、臨床応用

消化酵素にはアミラーゼ、ペプシン、リパーゼなど多様な種類があり、それぞれ異なる栄養素を分解する働きを持っています。各酵素の分泌部位や機能、臨床での活用法を詳しく解説しますが、あなたは消化酵素の全体像を正しく理解できていますか?

消化酵素の種類と働き

この記事で理解できる消化酵素の基礎
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消化酵素の分類

糖質、タンパク質、脂質を分解する酵素の種類と特徴を理解できます

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分泌部位と機能

唾液腺、胃、膵臓、小腸からの分泌と各器官での役割を把握できます

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臨床での活用

消化酵素製剤の使い分けや診断への応用を学べます

消化酵素の主要な糖質分解酵素

消化酵素のうち糖質を分解する酵素として、アミラーゼとマルターゼが重要な役割を果たしています。アミラーゼは唾液と膵液の両方に含まれ、デンプンやグリコーゲンを麦芽糖に分解する働きがあります。唾液中のアミラーゼは口腔内で最初の消化を開始し、膵液中のアミラーゼは小腸でさらに分解を進めます。
参考)消化酵素とは?消化酵素の役割や種類と特徴、体内酵素の働きを高…

マルターゼは小腸の壁に存在する酵素で、麦芽糖を最終的にブドウ糖に分解する機能を持ちます。この段階的な分解プロセスにより、糖質は体内で吸収可能な形態に変換されます。アミラーゼの活性は広範囲のpH域で機能し、胃での消化もサポートします。
参考)消化酵素とは?役割や代謝酵素との違いを簡単に解説 | 全国酵…

糖質分解酵素の不足は消化不良や腹部膨満感を引き起こす可能性があり、特にデンプンの未消化物が腸内に停滞すると発酵が進みガスが発生しやすくなります。
参考)消化不良の原因とセルフチェックテスト - 東京原宿クリニック

消化酵素のタンパク質分解酵素の種類

タンパク質を分解する消化酵素には複数の種類があり、消化管の部位によって異なる酵素が作用します。胃液に含まれるペプシンは、タンパク質を初期段階でペプチドに分解する重要な酵素です。ペプシンは胃の酸性環境下で最適な活性を示し、不活性型のペプシノーゲンとして分泌された後、胃酸により活性化されます。
参考)酵素の働きと健康効果

膵液には複数のタンパク質分解酵素が含まれており、トリプシン、キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼが代表的です。トリプシンとキモトリプシンはそれぞれ不活性型のトリプシノーゲン、キモトリプシノーゲンとして膵臓から分泌され、小腸に到達後に腸粘膜のエンテロペプチダーゼによって活性化されます。この活性化機構により、膵臓自身がタンパク質分解酵素によって損傷を受けることを防いでいます。
参考)https://lab-brains.as-1.co.jp/enjoy-learn/2023/05/47087/

小腸壁に存在するペプチダーゼは、ペプチドをさらに分解してアミノ酸を生成し、体内での吸収を可能にします。タンパク質分解酵素の不足は、未消化タンパク質の腸内停滞を引き起こし、腐敗や毒素の発生につながる可能性があります。
参考)アミラーゼ・ペプシンなど消化酵素の名前を知りたい

消化酵素の脂質分解酵素リパーゼ

脂質を分解する消化酵素の主役はリパーゼであり、主に膵液に含まれています。リパーゼは脂肪をグリセリンと脂肪酸に分解する機能を持ち、小腸での脂質の消化吸収に不可欠な酵素です。唾液にも少量の唾液リパーゼが含まれており、口腔内で脂質の初期分解を開始しますが、その活性は膵リパーゼに比べて限定的です。
参考)楽天市場

脂質の消化には胆汁の存在も重要で、胆汁酸が脂肪を乳化させることでリパーゼの作用を受けやすくします。胆汁は肝臓で生成され胆嚢に蓄えられた後、十二指腸に分泌されます。リパーゼの活性はアルカリ性環境で最適化されるため、膵液に含まれる重炭酸イオンが胃酸を中和することで効率的な脂質分解が可能になります。
参考)食道・胃・小腸・胆嚢・膵臓の仕組み|食べる(3)

リパーゼの分泌不足は慢性膵炎や膵囊胞線維症患者において見られ、脂肪便や下痢の原因となります。このような患者には消化酵素製剤による補充療法が必要となります。​
タンパク質分解酵素の活性化機構について詳しく解説(水産タンパク質研究所)

消化酵素の分泌部位と分泌調節

消化酵素は消化管の各部位から特異的に分泌され、ホルモンや神経系によって精密に調節されています。唾液は唾液腺から分泌され、口腔内での機械的消化と化学的消化の両方を支えます。胃液は胃壁の胃腺から分泌され、ペプシンのほか胃酸やムチンといった成分を含み、食物の殺菌と初期消化を担います。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7271190/

膵液は膵臓から分泌される消化液で、トリプシン、キモトリプシン、アミラーゼ、リパーゼなど多種類の消化酵素を含む最も包括的な消化液です。膵液の分泌は消化管ホルモンのセクレチンコレシストキニンによって調節され、食物が十二指腸に到達すると分泌が促進されます。胆汁は肝臓で生成され胆嚢に貯蔵された後、コレシストキニンの刺激により十二指腸に放出されます。​
小腸からは腸液が分泌され、エンテロペプチダーゼやペプチダーゼといった最終段階の消化酵素が含まれます。この多段階の分泌システムにより、栄養素は段階的かつ効率的に分解され吸収可能な形態に変換されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6820690/

消化酵素不足の症状と原因

消化酵素の不足は多様な消化器症状を引き起こし、栄養吸収障害の原因となります。主な症状として、消化不良、胃もたれ、腹部膨満感、便秘、下痢、脂肪便などが挙げられます。消化酵素が不足すると食物が十分に分解されず、未消化物が腸内に停滞して腐敗や発酵が進み、ガスの発生や腹痛を引き起こします。
参考)消化酵素が少ない人の原因を解説!消化酵素を増やすには? | …

消化酵素不足の原因には、加齢、慢性膵炎、膵囊胞線維症、胆道閉塞、小腸疾患などがあります。慢性膵炎では膵臓の外分泌機能が低下し、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼなどの分泌が減少します。膵囊胞線維症では粘液が膵管を閉塞させ、消化酵素の適切な分泌が妨げられます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/suizo/32/2/32_125/_pdf

生活習慣の乱れも酵素不足の要因となり、暴飲暴食、過度の飲酒、喫煙、ストレス、運動不足などが消化酵素の産生や働きを低下させます。長期的な酵素不足は体重減少、貧血、全身のむくみ、免疫力低下などの全身症状につながる可能性があります。
参考)消化不良の原因 症状・疾患ナビ

消化吸収障害の病態生理と臨床応用(Nutrients誌)

消化酵素を増やす食事と生活習慣

消化酵素を体内で効率的に活用するには、酵素を多く含む食品の摂取と生活習慣の改善が重要です。発酵食品は消化酵素を豊富に含み、納豆、味噌、ぬか漬け、キムチ、ヨーグルト、チーズなどが代表的です。これらの食品に含まれる酵素は消化を助けるだけでなく、腸内環境を整える効果も期待できます。
参考)酵素とは何?多く含む食べ物やおすすめの取り入れ方を紹介 href="https://www.e-homare.jp/column/enzymes-and-food/" target="_blank">https://www.e-homare.jp/column/enzymes-and-food/amp;#…

生の野菜や果物にも消化酵素が多く含まれており、大根、キャベツ、山芋、玉ねぎ、パイナップル、パパイヤ、キウイなどが推奨されます。パイナップルのブロメライン、パパイヤのパパイン、キウイのアクチニジンはタンパク質分解酵素として知られ、消化をサポートします。これらの酵素は熱に弱いため、生で摂取することが効果的です。
参考)消化酵素2 を増やすためには|簡単!時短!栄養レシピ「カニカ…

生活習慣の改善も酵素活性の維持に不可欠で、食事をよく噛むことで唾液中のアミラーゼが効果的に働き、消化の負担を軽減します。規則正しい生活、適度な運動、ストレス管理も消化酵素の産生を促進します。サプリメントや健康食品を活用して酵素を補う方法も、忙しい現代人には有効な選択肢です。​

消化酵素製剤の種類と臨床応用

消化酵素製剤は膵外分泌機能不全や消化吸収障害の治療に広く使用されており、その種類と特性を理解することが適切な使い分けにつながります。消化酵素製剤は大きく分けて、ブタ膵臓抽出物であるパンクレアチンと微生物由来の複合酵素製剤があります。パンクレアチンはアルカリ域でのみ活性を示すため、胃酸による失活を防ぐために腸溶コーティングが施されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00004300.pdf

微生物由来酵素は酸性から中性、アルカリ性まで広いpH域で活性を示すため、胃でも消化が期待できる利点があります。現在の消化酵素製剤の多くは、胃溶部と腸溶部に分けて配合した二層構造を採用し、消化管全体での効果を最大化しています。​
臨床応用においては、慢性膵炎、膵切除術後、膵囊胞線維症などの患者に対して消化酵素補充療法が実施されます。各患者の膵外分泌機能の程度を正確に評価し、障害の度合いに応じて適切な製剤を選択することが重要です。消化酵素製剤の使用により、脂肪便の改善、栄養状態の向上、生活の質の改善が期待されます。​
消化酵素製剤の特長と使い分け(日本膵臓学会)

消化酵素の臨床検査と診断への活用

消化酵素は臨床診断において重要なバイオマーカーとして活用され、各種疾患の診断やモニタリングに役立ちます。血中アミラーゼやリパーゼの測定は急性膵炎の診断に不可欠で、これらの酵素活性が著しく上昇することで膵臓の炎症や損傷を検出できます。慢性膵炎では膵外分泌機能の評価が必要であり、便中エラスターゼ測定や膵刺激試験が実施されます。
参考)https://www10.showa-u.ac.jp/~biolchem/H20-P2protein-5.pdf

肝機能の評価にはアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)やアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アルカリフォスファターゼなどの酵素活性測定が用いられます。心筋梗塞の診断ではクレアチニンキナーゼやトロポニンといった心筋細胞由来の酵素が指標となります。​
13C呼気ガス診断は非侵襲的な消化管機能検査として注目されており、胃排出能、腸管吸収機能、膵外分泌機能の評価に応用されています。この検査法は簡便で患者負担が少なく、日常診療での活用が期待されています。酵素活性測定には補酵素NADHの紫外吸収変化を利用する方法が一般的で、初速度を求めることで正確な酵素活性を評価できます。
参考)https://www.jrias.or.jp/report/pdf/2007-56-10.pdf

消化酵素と腸内環境の相互作用

消化酵素の働きと腸内細菌叢は密接に関連しており、両者のバランスが消化吸収や全身の健康に大きく影響します。腸内細菌は宿主が産生する消化酵素では分解できない複雑な炭水化物を分解する糖質活性酵素(CAZymes)を産生し、短鎖脂肪酸などの有益な代謝産物を生成します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7030758/

消化酵素の不足により未消化の栄養素が腸内に到達すると、腸内細菌叢の組成が変化し、ディスバイオーシス(腸内細菌叢の乱れ)を引き起こす可能性があります。特に未消化タンパク質や脂質は腸内で異常発酵や腐敗を起こし、有害な代謝産物の産生につながります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10224187/

逆に、腸内環境の悪化は消化酵素の働きにも影響を及ぼします。炎症性腸疾患機能性ディスペプシアなどでは、腸内細菌叢の乱れと消化酵素活性の低下が相互に作用し、症状を悪化させることが報告されています。発酵食品やプロバイオティクスの摂取により腸内環境を改善することで、消化酵素の効率的な働きをサポートし、消化吸収機能の向上が期待できます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9214042/