ディスバイオーシスは腸内細菌叢の正常なバランスが崩れた状態を指し、有益菌の減少と病原菌の異常増殖が特徴的な病態です。健康な腸内では多様な腸内細菌が適切なバランスを保つことで免疫の恒常性が維持され、有害な菌の増殖を妨げています。
参考)https://kenchonavi.com/column/13
この病態が進行すると、腸管を保護する粘液が希薄化してバリア機能が低下し、免疫反応が亢進して慢性炎症が引き起こされます。さらに、タイトジャンクションの結合が弱まることでリーキーガットシンドロームが誘発され、菌や菌体成分のリポ多糖類(LPS)が血中に漏出し全身性の炎症反応を惹起します。
参考)https://symgram.symbiosis-solutions.co.jp/column/0013
診断には腸内細菌叢の多様性の評価、病原菌の検出、炎症マーカーの測定が有効です。特に、便中の短鎖脂肪酸濃度や腸内フローラの組成分析により、ディスバイオーシスの程度と改善効果を定量的に評価することができます。
参考)https://www.kateigaho.com/article/detail/152176
プロバイオティクスは腸内細菌の遺伝子発現や代謝に大きな影響を及ぼし、日常的な摂取がディスバイオーシスの予防と改善に寄与することが明らかになっています。特に乳酸菌(Lactobacillus)やビフィズス菌(Bifidobacterium)は、腸内環境を酸性化することで病原菌の増殖を抑制し、腸管バリア機能を強化します。
参考)https://nagao-naika.jp/blog/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9-vs-%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9%EF%BC%9A%E3%81%A9%E3%81%A3/
最新の研究では、特定のプロバイオティクス株が腸のバリア機能を強化し、炎症を抑制することで病原菌の侵入を防ぐ可能性が示されています。また、プロバイオティクスの摂取により腸内細菌叢の多様性が向上し、長期的な腸の健康維持に重要な役割を果たします。
参考)https://th-clinic.com/2025/02/16/chokatsu/
複数種類の菌株をブレンドした製品を選択することで、より多角的な効果が期待できますが、SIBO(小腸内細菌異常増殖症)の場合には医師の判断で使用を控える必要があります。個々の患者の腸内細菌叢の構成に基づいた個別化された投与が最も効果的とされています。
プレバイオティクスは腸内細菌のエサとなることで腸内細菌叢を急速に変化させる重要な要素です。オリゴ糖、食物繊維、レジスタントスターチなどが腸内で発酵され、短鎖脂肪酸(特に酪酸)の産生を促進し、腸内環境のpHを適正に保ちます。
最新の研究では、プレバイオティクスが腸内細菌の代謝活動を促進し、特に酪酸産生菌の増加につながることが明らかになっています。酪酸は腸の粘膜を保護し、腸の炎症を抑える重要な役割を果たすため、ディスバイオーシス改善において極めて重要な物質です。
高齢者におけるプレバイオティクスの効果は特に注目されており、加齢に伴う腸内フローラの乱れを補正し、免疫機能の低下を防ぎ、腸内の炎症を軽減することで健康維持に貢献することが報告されています。個人の腸内細菌叢の構成に基づいたパーソナルな食事療法が有望視されています。
食事は短期的にも長期的にも腸内細菌に影響を与える最も重要な因子の一つです。高脂肪食、高糖質食、高たんぱく質食といった偏った食事や食物繊維の少ない食事により、腸内細菌叢のバランスが悪化することが知られています。
発酵食品の積極的な摂取は、ディスバイオーシス改善において基本的かつ効果的な戦略です。ヨーグルト、納豆、味噌、漬物などの伝統的発酵食品には多様な有益菌が含まれており、継続的な摂取により腸内環境の改善が期待できます。
参考)https://rafflesj-clinic.com/column/mc-sano39/
また、運動不足や生活リズムの乱れもディスバイオーシスの原因となるため、規則正しい生活習慣の確立が重要です。抗生物質の不適切な使用も腸内細菌叢に長期的な悪影響を与えるため、医師による適切な処方管理が必要です。
便移植療法(FMT)は、健康なドナーの便を患者の腸に移植し、腸内細菌叢を根本的に改善させる革新的な治療法です。2013年にクロストリジウム・ディフィシル感染症の治療で81.3%という高い無再発治癒率を示して以来、国内外で臨床研究が急速に進展しています。
参考)https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2018/PA03303_02
現在、炎症性腸疾患、大腸がん、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの腸内細菌が関連する代謝性疾患の治療方法として期待されています。国内でも複数の大学病院で臨床試験が実施されており、独自の生成方法により菌の生着率や生着時間を向上させた治療法が開発されています。
参考)https://takanawa-clinic.com/medicine/intestinal-flora
しかし、FMTには感染リスクや長期的な安全性の問題が存在するため、現状では厳格な適応基準の下で臨床試験として実施されることが望ましいとされています。また、ドナーの選定、便の処理・保存方法、移植手技の標準化など、多くの課題が残されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/108/9/108_1939/_pdf
医療従事者によるディスバイオーシス改善の管理では、患者の腸内細菌叢の現状を正確に把握し、個別化された治療計画を立案することが重要です。まず、腸内細菌叢の検査・分析により約30種類の疾病リスクを網羅的に評価し、患者の病態を詳細に把握します。
治療戦略は段階的アプローチを採用し、まず食事療法とプロバイオティクス・プレバイオティクスの併用から開始し、効果が不十分な場合には薬物療法やFMTなどの先進治療を検討します。治療効果の評価には、症状の改善だけでなく、腸内細菌叢の組成変化、炎症マーカーの推移、短鎖脂肪酸濃度の変化を定量的にモニタリングします。
また、医療従事者は患者教育にも重点を置き、ディスバイオーシスの病態、治療の必要性、生活習慣改善の重要性について分かりやすく説明し、患者の治療コンプライアンス向上に努めることが求められます。継続的なフォローアップにより、治療効果を長期的に維持し、再発防止に取り組むことが重要です。