リパーゼ基準値と膵疾患の診断意義

リパーゼの基準値は13~55U/Lで、急性膵炎や慢性膵炎、膵がんなどの診断に有用な検査項目です。アミラーゼとの違いや異常値の臨床的意義について、医療従事者として知っておくべき重要なポイントをわかりやすく解説します。リパーゼが異常値を示した際、どう対応すべきでしょうか。

リパーゼ基準値と膵疾患診断

リパーゼ検査の重要ポイント
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基準値範囲

13~55U/L(比色法)または11~57U/L(参考値)。測定法により若干の差異あり

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膵特異性

アミラーゼと異なり、唾液腺型が存在せず膵臓由来がほぼ100%で診断精度が高い

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上昇持続期間

急性膵炎発症後4~8時間で上昇、24時間でピーク、1週間前後高値持続

リパーゼ基準値の意義と測定法

リパーゼは膵腺房細胞で合成される分子量約45,000の糖タンパク質で、血液中ではそのほとんどが膵臓由来です。基準値は測定施設や測定法により若干異なりますが、一般的に13~55U/Lまたは11~57U/Lとされています。比色法による測定が標準的で、保険点数は24点、生化学的検査(Ⅰ)として扱われます。
参考)リパーゼ|臨床検査項目の検索結果|臨床検査案内|株式会社ファ…

リパーゼはトリグリセリド(中性脂肪)のα位脂肪酸エステルを加水分解する消化酵素として、脂肪の分解に重要な役割を果たしています。膵液中に分泌され十二指腸で働きますが、膵の障害によって血中に逸脱すると高値を示します。
参考)膵機能を調べる|健康ちょっとメモ|ダイハツ健康保険組合

膵型アミラーゼとの診断能はほぼ同等とされますが、リパーゼは唾液腺型が存在しないため膵特異性が高く、急性膵炎診療ガイドライン2015では推奨検査として位置づけられています。測定の標準化については、アミラーゼが酵素標準物質を介した標準化により施設間差が縮小している一方、リパーゼの標準化は今後の課題とされています。
参考)急性膵炎の診断 診断基準 (臨牀消化器内科 31巻5号)

リパーゼ高値の原因疾患と診断基準

リパーゼが高値を示す主な疾患は急性膵炎、慢性膵炎急性増悪期、膵がん(初期)、膵嚢胞です。急性膵炎では発症後4~8時間以内に上昇し、24時間で頂値に達し、1週間前後で正常に復帰しますが、血中アミラーゼよりも異常高値の持続日数が長い場合が多く、発症24時間以降はリパーゼの方がアミラーゼより感度が高いとされます。
参考)リパーゼ

急性膵炎の診断においてリパーゼの測定が推奨される理由は、膵特異性の高さに加え、血中膵リパーゼはアミラーゼよりも異常高値の持続期間が長いためです。特にアルコール性膵炎ではアミラーゼよりも高値となりやすく、アミラーゼ/リパーゼ比が3以上の場合にはアルコール性膵炎の可能性が高いとされます。
参考)https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0806_04.pdf

血中膵リパーゼ上昇の程度と膵炎の重症度とは必ずしも並行せず、広範な壊死性膵炎では血中膵リパーゼが病変の進行とともに低下することがあります。進行した慢性膵炎では膵機能の低下のため高値にならない場合もあり、腺房組織が過去の発作時に破壊されているため十分な量の酵素を分泌できない場合、アミラーゼとリパーゼはいずれも正常値を維持することがあります。
参考)リパーゼ|脂質|生化学検査|WEB総合検査案内|臨床検査|L…

リパーゼとアミラーゼの比較診断

リパーゼとアミラーゼは同時測定が保険制度上認められており、膵臓疾患の診断において相補的な役割を果たします。主な違いは以下の通りです。
参考)アミラーゼとリパーゼ href="https://hopesakura.com/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%81%A8%E3%83%AA%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BC/" target="_blank">https://hopesakura.com/%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%BC%E3%81%A8%E3%83%AA%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BC/amp;#8211; さくらクリニック 東つ…

項目 リパーゼ アミラーゼ
膵特異性 高い(膵臓由来がほぼ100%) 低い(唾液腺型が存在)
上昇持続期間 長い(1週間前後) 短い(3~7日)
アルコール性膵炎 高値となりやすい 上昇しにくい
唾液腺疾患 上昇しない 上昇する

アミラーゼには膵型(P型)と唾液腺型(S型)が存在し、P型アミラーゼが正常の場合は膵臓の病気とは関連がないため、アミラーゼ高値でもアイソザイム検査による分画が重要です。リパーゼは膵疾患以外で高値になる原因として肝硬変、十二指腸潰瘍穿孔、腎不全などがありますが、それらを疑うことは日常的に多くはありません。
参考)302 Moved Temporarily

急性膵炎の診断においてリパーゼはアミラーゼよりも膵炎に対して特異的ですが、両酵素とも腎不全および様々な腹部疾患(例:穿孔性潰瘍、腸間膜血管閉塞、腸閉塞)において上昇することがあります。膵炎の場合、時としてアミラーゼ値は正常範囲内でリパーゼ値が高い場合もあり得るため、両者を測定することは膵疾患の診断に有益です。
参考)急性膵炎 - 01. 消化管疾患 - MSDマニュアル プロ…

リパーゼ低値の臨床的意義

リパーゼが低値を示す場合は、慢性膵炎非代償期、膵がん(膵実質の広範な破壊)、膵嚢胞線維症、糖尿病、急性肝壊死などが考えられます。低値になる主な原因は、かなり進行した慢性膵炎などリパーゼの枯渇によるものや、糖尿病によるものなどがありますが、低値側の測定意義は少ないとされています。​
慢性膵炎は膵臓に炎症が繰り返し起こり、徐々に組織が線維化し硬くなっていく病気で、病気が進行すると膵臓のリパーゼを分泌する細胞が破壊され、血液中のリパーゼ値が低下します。リパーゼ値が低下している慢性膵炎は膵臓の組織が荒廃した末期の状態を示唆します。
参考)「アミラーゼが低い」と指摘されました - 広島市で内視鏡検査…

腹部エコーなどの画像検査で何も異常がないような方が低値になっている場合は、まず心配ありません。慢性膵炎が進んでしまった状態なのではないかと心配される方も多いですが、画像診断との組み合わせで評価することが重要です。リパーゼとアミラーゼの数値が低い場合は膵臓機能低下が疑われ、慢性膵炎や膵臓がんなどで起こることがあります。
参考)健康診断で異常を指摘された(TG:中性脂肪の基準値は?|あん…

リパーゼ検査における注意点と臨床応用

リパーゼ測定において注意すべき特殊な病態として、マクロリパーゼ血症があります。これはリパーゼが免疫グロブリン(主にIgG-λ)と結合した状態で、腎糸球体で濾過されず血中に停滞するため見かけ上の高値を示します。マクロリパーゼ血症では腹痛などの臨床症状がなく血中膵リパーゼ値が高値の場合、他の膵酵素を測定することが推奨されます。
参考)https://www.jamt.or.jp/congress/j64/pdf/general/0492.pdf

腎不全患者では特殊な病態を呈します。リパーゼは腎糸球体で濾過され、その後尿細管で再吸収・代謝されますが、腎不全では腎における代謝・不活性化機構が障害され、高リパーゼ血症となります。透析治療中の患者では血清リパーゼの異常高値が高頻度に認められますが、その機序については現在のところ不明な点が残されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi1964/75/5/75_5_686/_pdf/-char/en

膵がんの診断においては、同じ膵由来酵素でもアミラーゼやリパーゼより半減期の長いエラスターゼ1を測定する場合が多く、膵腺房細胞癌でリパーゼ産生腫瘍により高値を示すことがあるといわれますが非常にまれです。血液検査で膵臓の酵素や腫瘍マーカー値、ビリルビン値の動きをみることにより膵臓機能の異常、膵がんを発見できることがあります。
参考)膵臓がん(膵がん)の検査|オリンパス おなかの健康ドットコム

<参考リンク>
急性膵炎の診断基準と血中リパーゼの重要性について詳細な情報。
MSDマニュアル プロフェッショナル版:急性膵炎
膵疾患の臨床検査における血中リパーゼの診断的価値。
栄研化学:膵疾患の臨床検査