慢性膵炎の症状と病期による変化

慢性膵炎は膵臓に慢性的な炎症が続く疾患で、腹痛や消化不良、糖尿病など多様な症状が現れます。進行すると膵機能が低下し生活の質が大きく低下しますが、早期発見と適切な対応で予後改善が可能です。あなたは慢性膵炎の症状をどこまで理解していますか?

慢性膵炎の症状

慢性膵炎の主な症状
🔥
腹痛・背部痛

みぞおちから背中にかけての持続的な痛み。アルコールや脂肪分の多い食事で悪化します。

💊
消化不良

脂肪便、下痢、体重減少などの症状が現れ、栄養状態の悪化につながります。

📊
糖尿病

膵臓の内分泌機能低下により血糖値が上昇し、糖尿病を発症することがあります。

慢性膵炎の初期症状と潜在期・代償期の特徴

 

慢性膵炎の初期段階である潜在期や代償期では、膵臓の機能がある程度保たれているため、明確な症状が現れにくいことが特徴です。この時期の最も典型的な症状は、上腹部痛や腰背部痛、腹部膨満感、全身倦怠感などですが、単なる胃腸の不調として見過ごされることも少なくありません。
参考)慢性膵炎とは?症状・原因から膵臓がんとの関係までわかりやすく…

代償期における腹痛は約80%の患者に認められ、通常の鎮痛剤が効きにくい頑固で難治性の痛みとされています。痛みはアルコール摂取、暴飲暴食、脂っこい食事などをきっかけに食後数時間後から始まることが多く、膵臓の酵素が膵臓自体を傷つけることで発生します。この時期には、血中や尿中の膵酵素(アミラーゼリパーゼなど)が上昇することが多く、診断の手がかりとなります。
参考)慢性膵炎についてご存知ですか?href="https://www.do-yukai.com/medical/74.html" target="_blank">https://www.do-yukai.com/medical/74.htmlamp;nbsp;

初期段階では膵臓の機能低下による脂肪便や高血糖、口渇感といった症状はあまり見られず、画像検査で診断することも困難な場合が多いため、症状と病歴、膵酵素の測定で慢性膵炎を疑うことが重要です。腹痛が改善するとほとんど日常生活に障害がなく、アルコール摂取などの生活習慣の改善が行われないまま腹痛が反復することが問題となります。
参考)「慢性膵炎」とあなたの症状との関連性をAIで無料チェック

慢性膵炎の進行期における症状の変化

慢性膵炎が進行し移行期から非代償期に至ると、症状は大きく変化します。通常5~10年が経過すると、膵臓の細胞破壊が進行し、痛みはかえって落ち着く傾向にあります。これは膵臓の機能が完全に荒廃して炎症が軽減することによるもので、決して改善を意味するものではありません。
参考)慢性膵炎(症状・原因・治療など)|ドクターズ・ファイル

非代償期には膵臓の機能不全に伴う症状が顕著になります。膵臓の外分泌細胞が障害されることで脂肪やタンパク質の消化酵素の分泌が低下し、消化吸収不良が生じます。特徴的な症状として、悪臭を伴い薄黄色クリーム状で水に浮く脂肪便が現れ、食欲低下、下痢、体重減少などが認められます。
参考)慢性膵炎

さらに、慢性膵炎が長期にわたると膵臓の線維化が進行し、膵外分泌細胞のみならずインスリン分泌障害も引き起こします。血糖値の調節ができなくなり糖尿病を発症するのが典型的な経過であり、これにより体重減少や筋力低下、免疫力の低下などが起こる可能性があります。一方で、無症状で経過する患者も存在し、気づかないうちに慢性膵炎が進行している場合もあるため注意が必要です。
参考)https://www.suizou.org/citizen/qa/qa02-2.htm

慢性膵炎の原因と発症リスク因子

2011年の調査によると、慢性膵炎の主な原因はアルコールで約70%を占めています。アルコール量換算で一日20g以上を摂取し続けると慢性膵炎の発症リスクが高くなり、60g以上摂取し続けるとリスクはさらに急上昇します。特に女性では男性に比べてより少量で発症しやすいことが分かっており、注意が必要です。男性の罹患者は過剰な飲酒による発症が多く、その発症リスクは飲酒量に比例して増加傾向にあります。
参考)慢性膵炎(まんせいすいえん)

アルコール以外の原因としては、特発性(医学的に原因不明)が約20%、急性膵炎が約2%、胆石、遺伝、自己免疫性がそれぞれ約1%となっていました。女性は原因がはっきりしない膵炎(特発性慢性膵炎)を患う方が多いという特徴があります。遺伝性膵炎は稀なケースですが、遺伝子の異常が認められた場合は約50%の方が慢性膵炎を患い、若いうちに発症する傾向があります。
参考)慢性膵炎の原因はアルコール?症状のチェックと食事方法|岐阜・…

喫煙も慢性膵炎の発症を促すのみならず、膵がんの原因ともなることが知られており、重要なリスク因子です。アルコール性ではない慢性膵炎では、ストレスが発症に深く関係していることがあり、自律神経の不調から下痢や便秘、不眠、頭痛や肩凝りを訴えやすいという特徴もあります。​

慢性膵炎の診断と早期発見のための検査方法

慢性膵炎の診断には、症状や血液・尿検査、画像検査の結果をもとに確診例(間違いなく慢性膵炎)、準確診例(ほぼ間違いなく慢性膵炎)、早期慢性膵炎と分類されます。早期の段階では自覚症状が現れにくく、診断されたときには既に進行した状態であることが少なくないため、早期診断のための検査が重要となります。
参考)慢性膵炎 (まんせいすいえん)とは

血液・尿検査では、血中または尿中膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)値の異常が診断の手がかりとなります。画像検査としては、腹部超音波やCT・MRIなどの各種画像検査で、慢性膵炎かどうか、膵石や膵嚢胞、膵臓がんの有無について診断を行います。慢性膵炎の確診例や準確診例では、膵臓が縮んだり、膵液の通り道である膵管が細くなったり、膵石が出現したりする特徴的な所見が認められます。​
早期慢性膵炎の診断には、内視鏡の先端にエコーが付いている超音波内視鏡検査(EUS)が膵臓に近い胃から観察ができるため適しています。EUSは経胃もしくは経十二指腸的に至近距離から高解像度での観察が可能であり、他の検査では捉えられない微細な膵実質・膵管異常を捉えることができる優れた検査法です。2009年に慢性膵炎診断基準が改定され早期慢性膵炎診断が可能となり、この診断基準にEUS所見が明記されました。上腹部痛や背部痛を訴える患者で明らかな消化管異常が認められず慢性膵炎が疑われる症例においては、積極的なEUS施行が推奨されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/suizo/26/1/26_1_29/_pdf

慢性膵炎の合併症と膵臓がんリスク

慢性膵炎患者が医療機関を受診する最も頻度が高い原因は腹痛ですが、それ以外にも様々な合併症が存在します。膵内の主な器質的合併症としては、膵石灰化(膵石)、膵仮性囊胞、膵癌があり、膵外合併症としては、膵性胸・腹水や胆道・消化管狭窄、消化管出血、膵以外の悪性腫瘍などがあります。機能的合併症としては、消化不良と糖尿病が代表的です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/103/10/103_10_1103/_pdf

慢性膵炎患者の約半数に膵石が見られ、膵石が膵管に詰まると腹痛が悪化するため、取り除く治療が推奨されます。アルコール性慢性膵炎では非アルコール性慢性膵炎に比べ、膵石灰化、膵仮性囊胞、糖尿病などの合併症の発症頻度が高いことが知られています。​
特に重要な合併症として膵臓がんの発生があります。メタ解析によると、慢性膵炎の膵癌リスクは一般人口に比べて13.3倍、慢性膵炎の診断2年以内の膵癌症例を除いた場合でも5.8倍とされています。特に遺伝性膵炎では69倍と非常に高いことが認められており、健常人の50倍の確率で膵がんになりやすいともいわれています。慢性膵炎患者の死亡率は一般人口の死亡率の約2倍とされ、膵癌の発生率は年齢・性別・国を調整した予想発症数の26倍にものぼることが報告されています。このため、慢性膵炎を早期に診断し適切な治療を行うことの重要性が認識されています。
参考)慢性膵炎と膵癌

慢性膵炎の治療と生活管理の重要性

慢性膵炎による痛みの治療としては、痛み止めや蛋白分解酵素阻害薬の内服を行います。膵管の狭窄や膵石が痛みの原因と考えられる場合には、内視鏡を用いた治療が選択されることがあります。内視鏡治療では、膵管内にカニューレを挿入し造影剤で膵石の位置を確認し、バスケットという道具を使って膵石を腸の中につかみだします。また、膵管の狭いところを広げるために、プラスチック製のステントを留置する治療も行われます。
参考)慢性膵炎

「膵石症の内視鏡治療ガイドライン2014」によると、膵石症の治療適応は主に疼痛のある膵石症と主膵管内結石で、ERCPのほか症例によっては体外衝撃波結石破砕術(ESWL)を併用します。ただし、無症状の膵石に対する内視鏡治療については、糖尿病の悪化や疼痛症状の出現のリスクを低下させることができないことや内視鏡治療には合併症のリスクがあることも留意する必要があります。
参考)https://www.kmu.ac.jp/news/laaes7000000vsgc-att/20250415Press_Release.pdf

生活管理において最も重要なのは食事療法です。慢性膵炎代償期では腹痛発作の予防のため、1日の脂肪の摂取量を30~35g程度に制限し、消化しやすい脂肪源を選ぶことが重要です。膵臓はリパーゼという脂質の消化を助ける酵素を分泌するため、脂質が多い食事を取ると膵臓に大きな負担がかかります。メインのおかずには肉料理より脂質が少ない魚料理を選び、肉を食べる場合は赤身やヒレなど脂肪分の少ない種類や部位を選ぶことが推奨されます。
参考)慢性膵炎の食事で注意したい5つの鉄則|改善に向けて毎日の生活…

アルコールは膵臓に大きな負担をかけるため、禁酒が原則となります。アルコールが原因の慢性膵炎ではない場合も症状を悪化させる可能性があるので、お酒を控えるように心がける必要があります。急性膵炎を発症された方は、慢性膵炎の発症を防ぐために禁酒する必要があります。​
消化に負担をかけない食べ物を選ぶことも重要で、ゴボウやれんこんのような根菜、キノコ類、海藻などの食物繊維の多い食品は消化しにくいため、できるだけ避けるか小さく切ったりよく噛んだりして消化しやすいよう工夫します。特に痛みがあるときは、ワサビや辛子、唐辛子やカレー粉などの刺激の強い香辛料を控え、症状によっては炭酸飲料やコーヒー、濃いお茶も控えた方がよい場合があります。​
参考リンク
日本消化器病学会による慢性膵炎の診療ガイドライン(病期分類や診断基準の詳細を確認できます)
慢性膵炎診療ガイドライン2021
慶應義塾大学病院の慢性膵炎に関する医療情報(症状の進行や治療法について詳しく解説されています)
慢性膵炎 | KOMPAS
日本膵臓学会による患者向け慢性膵炎ガイド(食事管理や日常生活での注意点が詳しく説明されています)
慢性膵炎 - 日本膵臓学会

 

 


患者さんと家族のための慢性膵炎ガイドブック