コレシストキニンはどこから分泌されるか

コレシストキニンは小腸や脳から分泌される消化管ホルモンで、膵液分泌や胆嚢収縮、食欲調節など多彩な生理作用を持ちます。その分泌部位と機能の全体像を医療従事者向けに解説しますが、脳腸相関におけるCCKの役割をご存じですか?

コレシストキニンの分泌部位

コレシストキニン分泌の主要部位
🔬
小腸のI細胞

十二指腸と近位空腸のI細胞から分泌される主要な消化管ホルモンとして機能

🧠
中枢神経系

脳内で神経伝達物質として合成され、満腹中枢の興奮や記憶に関与

脳腸相関

消化管と脳が自律神経やホルモンを介して相互に影響する調節機序を媒介

コレシストキニンのI細胞からの分泌機序

コレシストキニン(CCK)は、十二指腸および近位空腸に存在する消化管内分泌細胞であるI細胞から主に分泌されます。I細胞は小腸粘膜の基底膜上に位置し、電子顕微鏡で観察すると中等度の電子密度を持つ顆粒を有することから、intermediate cellと名付けられました。これらの細胞は腸管腔内の栄養成分、特にペプチド、アミノ酸、脂肪酸の存在を感知して、CCKを血中へ放出します。
参考)コレシストキニン【ナース専科】

食物中の長鎖脂肪酸が十二指腸や上部小腸に入ると、I細胞は脂肪酸受容体であるGPR40を介してこれを感知し、CCKの分泌が促進されます。この脂肪酸センシングメカニズムは、効率的な脂質の消化吸収を担う上で重要な役割を果たしています。また、タンパク質由来のアミノ酸も、腸管に発現する味覚受容体T1R1-T1R3を介してCCK分泌を刺激することが明らかになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3566511/

CCKは33個のアミノ酸からなるペプチド(CCK-33)として小腸のI細胞で産生され、十二指腸内のペプチド、アミノ酸、脂肪酸によって分泌が促進されます。分泌されたCCKは血中に流入し、膵腺細胞のホスホリパーゼCを活性化させることで、イノシトールトリスリン酸の増加を介して膵酵素を分泌させます。
参考)コレシストキニン - Wikipedia

コレシストキニンの中枢神経系における分泌

CCKは消化管ホルモンとしてだけでなく、脳内でも分泌合成される神経伝達物質としての側面を持ちます。中枢神経系では、CCKは大脳皮質、海馬、扁桃体、視床下部など広範な脳領域に分布しており、脳内で最も豊富なペプチド性神経伝達物質の一つとされています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3005241/

脳内のCCKは、GABAと共局在する介在ニューロンに多く発現しており、神経細胞の興奮性調節に関与しています。また、CCKニューロンは体軸突樹状突起部位からもCCKを放出することができ、これが局所的な神経伝達の調節に寄与しています。特に脳弓下器官では、水分摂取を抑制するCCK作動性神経細胞(CCKニューロン)が同定されており、口や喉の渇きの調整機能に関与しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6573316/

脳内CCKは満腹中枢を興奮させることで摂食調整に関わるほか、記憶形成、不安、疼痛調節など多様な中枢機能に関与することが知られています。中脳中心灰白質や黒質などの領域では、CCKがエンドカンナビノイドシステムやオピオイド系と相互作用し、痛みや不安の調節に複雑な役割を果たしています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11627476/

コレシストキニン分泌を促進する栄養素

CCKの分泌は特定の栄養素によって選択的に促進されます。最も強力な分泌刺激となるのは、食物中の脂質、特に長鎖脂肪酸です。脂肪を含む食事を摂取すると、十二指腸に到達した脂肪酸がI細胞表面の脂肪酸受容体を刺激し、CCK分泌を引き起こします。
参考)http://www2.htc.nagoya-u.ac.jp/~ishiguro/lhn/sibou.html

タンパク質およびその分解産物であるペプチドやアミノ酸も、CCK分泌の重要な刺激因子です。小腸のI細胞は、オリゴペプチド輸送体PepT1やアミノ酸受容体(味覚受容体T1R1-T1R3)を発現しており、これらを介してタンパク質の存在を検知します。特にフェニルアラニン、ロイシン、グルタミン酸などのアミノ酸がCCK分泌を強く刺激することが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3094145/

一方、炭水化物はCCK分泌に対してはほとんど影響を与えません。CCKは主に脂肪やタンパク質などの化学的消化に時間を要する栄養素の摂取に応答して分泌され、これらの栄養素の効率的な消化を促進する役割を担っています。食事開始から10~20分ほどでCCKの血中濃度が上昇し、消化管機能の調節と満腹感の形成に寄与します。
参考)食欲調節と消化管ホルモン 消化管ホルモンによる食欲抑制 コレ…

コレシストキニンの受容体と作用部位

CCKの生理作用は、2種類の受容体であるCCK1受容体(CCK1R、旧称CCK-A受容体)とCCK2受容体(CCK2R、旧称CCK-B受容体)を介して発現します。これらは両方ともGタンパク質共役型受容体であり、組織分布と機能特性が異なります。
参考)https://www.bri.niigata-u.ac.jp/uploads/2013/07/2402%E6%B8%A1%E8%BE%BAH24.pdf

CCK1受容体は、消化器系の標的臓器に高密度で発現しています。具体的には、膵腺房細胞、胆嚢平滑筋、胃主細胞(ペプシノーゲン分泌細胞)、腸管筋間神経叢ニューロン、カハール間質細胞の5種類の細胞に選択的に発現します。また、腸管を走行する神経線維にも発現しており、迷走神経の求心性神経末端に存在するCCK1受容体は、消化管から脳への情報伝達に重要な役割を果たします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2692370/

血液脳関門を欠く最後野(area postrema)から拡散する血中CCKは、迷走神経背側複合体(DVC)のCCK1受容体を活性化し、孤束核と最後野における神経活動を調節します。これにより、末梢で分泌されたCCKが中枢神経系に作用して、摂食行動や消化機能の調節に関与するメカニズムが明らかになっています。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K06746/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-21K06746/amp;mdash; 研究課題をさがす

CCK2受容体は主に中枢神経系に分布しており、神経伝達物質としてのCCKの作用を媒介します。脳内のCCK2受容体は、ガストリンにも結合するため「CCK/ガストリン受容体」とも呼ばれます。海馬や大脳皮質に高密度で発現し、学習・記憶、不安、疼痛認知などの高次脳機能に関与しています。​

コレシストキニン分泌異常と臨床的意義

CCK分泌の異常は、様々な消化器疾患や代謝性疾患の病態に関連しています。膵疾患においては、CCKは膵外分泌のフィードバック調節機構の中心的役割を果たしており、CCK受容体拮抗剤は急性膵炎や慢性膵炎に対する治療薬としての応用が研究されています。
参考)膵外分泌機能調節ペプチド・2 コレシストキニン (臨床検査 …

肥満や機能性消化管障害の病態においても、CCKの役割が注目されています。CCKは脳腸軸と称される調節機序を介して脳内満腹中枢を興奮させ、満腹感を形成することで、適切な摂取カロリーや食事時間内に食行動を終了させる役割があります。この作用が低下すると、過食や肥満のリスクが高まる可能性があります。
参考)臨床医学出版/日本メディカルセンター

機能性消化管障害の患者では、CCKによる胃排出遅延や内臓知覚過敏が症状発現に関与している可能性が指摘されています。また、CCK1受容体欠損マウスを用いた研究では、CCKがエネルギー代謝やインスリン非依存性糖尿病の病態に関与することも示されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/8397615bed1d64c9c7a9557110fb9084c2888abe

中枢神経系においては、CCKの異常がパニック障害やてんかんなどの神経精神疾患に関連することが報告されており、CCKの分泌調節と受容体機能は幅広い臨床応用の可能性を秘めています。消化管ホルモンとしての役割と神経伝達物質としての役割を併せ持つCCKの全体像を理解することは、消化器疾患や代謝性疾患、精神神経疾患の病態解明と治療戦略の構築に重要です。​