シェーグレン症候群は、涙腺・唾液腺等の腺組織にリンパ球浸潤などの慢性炎症が生じ、涙や唾液の分泌量が低下することで眼や口腔の乾燥を主症状とする自己免疫疾患です。1933年にスウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレン氏によって初めて報告され、日本では1977年の厚生労働省研究班の研究を経て医師の間に広く認識されるようになりました。
シェーグレン症候群の分類には主に以下の2つがあります。
疫学的特徴として、シェーグレン症候群は50~60歳代の女性に好発し、男女比は約1:17と女性に圧倒的に多い疾患です。ただし、年齢に関しては小児から80歳の高齢者まで幅広い年齢層での発症が確認されています。
発症には複数の因子が関与していると考えられており、①遺伝的要因、②ウイルスなどの環境要因、③免疫異常、④女性ホルモンの影響などが複雑に関連し合っています。同一家族内での膠原病の発症率は約8%、シェーグレン症候群の発症率は約2%と一般集団より若干高いものの、単一の遺伝子変異による遺伝病ではないことが明らかになっています。
シェーグレン症候群の症状は、主に腺症状と腺外症状に大別されます。
1999年に改定された厚生省の診断基準では、以下の4項目のうち2項目以上が陽性であればシェーグレン症候群と診断されます。
なお、シェーグレン症候群の診断にあたっては、薬剤性の口腔乾燥や他疾患による同様の症状を除外することが重要です。
シェーグレン症候群は現状では根本的な治癒が難しい疾患であるため、治療の主な目標は①乾燥症状の軽減、②疾患活動性の抑制、③進行の阻止、④合併症への対応となります。病態に応じた治療アプローチを解説します。
シェーグレン症候群の治療では、症状の程度に応じた段階的なアプローチが重要です。軽度の乾燥症状には対症療法を中心に行い、臓器病変など重度の合併症を伴う場合は免疫を抑制する治療が選択されます。また、合併する他の膠原病がある場合はその治療を優先することも多いため、各診療科との連携が重要となります。
治療には患者個別の状態に合わせたオーダーメイド的なアプローチが必要であり、医師と患者の協力のもと、根気強く対応していくことが推奨されています。
シェーグレン症候群は長期的な管理が必要な慢性疾患であり、患者の日常生活の質(QOL)を維持するためには、医学的治療とともに生活上の工夫や自己管理が重要です。ここでは、シェーグレン症候群患者が日常生活で意識すべきポイントを解説します。
シェーグレン症候群の症状は環境やストレスによって変動することが多いため、日々の体調の変化に注意を払い、悪化のサインを見逃さないことが重要です。また、定期的な医療機関の受診と処方薬の確実な服用を心がけ、医療従事者と連携しながら病気と向き合うことが長期的な病状管理の鍵となります。
シェーグレン症候群患者において特に注目すべき合併症の一つが悪性リンパ腫です。一般集団と比較して、シェーグレン症候群患者は悪性リンパ腫の発症リスクが約16〜44倍も高いという報告があります。この重要かつあまり強調されていない関連性について、医療従事者が知っておくべき知見を解説します。
シェーグレン症候群患者の中でも、特に以下の因子を持つ患者は悪性リンパ腫発症のリスクが高まることが知られています。
シェーグレン症候群に合併する悪性リンパ腫は、以下のような特徴があります。
現時点では悪性リンパ腫の発症を確実に予防する方法は確立されていませんが、以下のような管理が推奨されます。
シェーグレン症候群は単なる乾燥症状を呈する疾患ではなく、悪性リンパ腫発症のリスクも含めた全身性疾患として捉える視点が重要です。特にリスク因子を複数持つ患者については、悪性リンパ腫の早期発見に向けた定期的かつ綿密な観察が求められます。また、最近の研究ではB細胞を標的とした生物学的製剤(リツキシマブなど)が一部の患者においてリンパ増殖性疾患の発症リスクを低減する可能性も示唆されており、将来的な治療戦略としても注目されています。