ドライアイの原因と初期症状:診断・治療のポイント

ドライアイは日本で2200万人が罹患する国民病です。涙の量的・質的異常による多彩な症状と、環境要因から全身疾患まで幅広い原因について、医療従事者として押さえるべき診断・治療のポイントとは?

ドライアイの原因と初期症状

ドライアイの基本病態
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涙液層の構造異常

油層・水層・ムチン層の3層構造の破綻により目表面の保護機能が低下

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有病率と社会的影響

日本国内で約2200万人が罹患、VDT作業の普及により若年層にも拡大

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多因子性疾患

環境・加齢・全身疾患・薬剤など複数要因が複合的に関与する疾患

ドライアイの病態生理と発症メカニズム

ドライアイは単なる涙液減少症ではなく、涙液の量的・質的異常により目表面の恒常性が破綻した状態です。正常な涙液は、マイボーム腺から分泌される油層、涙腺から分泌される水層、杯細胞から分泌されるムチン層の3層構造を成しています。

 

発症メカニズムは大きく2つに分類されます。
量的異常(涙液分泌減少型)

質的異常(涙液蒸発亢進型)

  • マイボーム腺機能不全(MGD)による油層の異常
  • 瞬目回数の減少・不完全瞬目
  • 角結膜上皮の異常によるムチン層の破綻
  • コンタクトレンズ装用による涙液動態の変化

近年の研究では、これらの病態が単独で存在することは稀で、多くの症例で複数の要因が重複していることが明らかになっています。特にマイボーム腺機能不全は約86%の症例で合併しており、ドライアイ治療において重要な治療標的となっています。

 

ドライアイの初期症状と診断基準

ドライアイの初期症状は多彩で非特異的なため、患者の主訴だけでは診断が困難な場合があります。

 

典型的な初期症状

  • 目の乾燥感・異物感(ゴロゴロ感)
  • 眼精疲労・重圧感
  • 視力低下・かすみ目
  • 過敏症
  • 涙液過多(反射性流涙)
  • 朝の開瞼困難
  • 白色粘稠な眼脂の増加

興味深いことに、重症度と自覚症状の強さは必ずしも相関しません。軽度のドライアイでも強い症状を訴える患者がいる一方、重度の角結膜上皮障害があっても症状が軽微な症例も存在します。

 

診断基準(2016年ドライアイ研究会)

  1. 目の乾燥感や異物感などの自覚症状がある
  2. 涙液分泌機能、もしくは涙液動態に異常がある
  3. 角結膜上皮に障害がある

診断には最低限、BUT検査(涙液層破壊時間)とフルオレセイン染色による角結膜上皮障害の評価が必要です。BUT値5秒以下、角結膜染色スコア3点以上で確定診断となります。

 

ドライアイの原因別分類と環境要因

ドライアイの原因は多岐にわたり、原因に応じた治療戦略の選択が重要です。

 

環境要因

  • VDT作業:瞬目回数が通常の1/4まで減少
  • 空調による乾燥:相対湿度40%以下で症状増悪
  • コンタクトレンズ:特に高含水率ソフトレンズでリスク増大
  • 大気汚染・PM2.5:角結膜上皮への直接的障害

全身疾患

  • シェーグレン症候群:中年女性に多発、関節リウマチとの合併が多い
  • 甲状腺眼症:上眼瞼後退による露出性要因
  • Stevens-Johnson症候群:重篤な角結膜瘢痕を形成
  • 糖尿病:神経障害による涙腺分泌低下

薬剤性要因

加齢性変化
60歳以降では生理的な涙腺機能低下とマイボーム腺の脂質組成変化により、ドライアイ有病率が急激に上昇します。特に閉経後女性では、エストロゲン低下により涙腺・マイボーム腺両方の機能が低下するため注意が必要です。

 

ドライアイの検査法と鑑別診断

適切な診断には客観的検査による病態の把握が不可欠です。

 

基本検査

  • シルマー検査: 5分間で10mm以上が正常、5mm以下で分泌不全型を疑う
  • BUT検査: 10秒以上が正常、5秒以下で蒸発亢進型を確定
  • フルオレセイン染色: 角結膜上皮障害の程度と分布を評価
  • リサミングリーン染色: 結膜・眼瞼縁の異常をより詳細に検出

詳細検査

  • 涙液浸透圧測定: 正常値<308mOsm/L、高浸透圧はドライアイの鋭敏な指標
  • 涙液中炎症マーカー: MMP-9、IL-1βなどの測定
  • マイボーム腺造影: 赤外線カメラによる腺構造の可視化
  • 涙液メニスカス測定: 非侵襲的涙液量評価

鑑別診断

  • アレルギー性結膜炎好酸球、特異的IgEの検出
  • 感染性結膜炎:細菌培養、PCR検査
  • 眼瞼痙攣:ボツリヌス毒素注射への反応
  • 薬剤性偽性ドライアイ:点眼薬中止による症状改善

近年、非侵襲的検査機器の普及により、より客観的で再現性の高い評価が可能になっています。特に涙液浸透圧測定は、早期診断における有用性が注目されています。

 

ドライアイ患者への生活指導と予防的アプローチ

ドライアイ治療において、薬物療法と並行した生活指導は症状改善の鍵となります。医療従事者として患者教育に重点を置いたアプローチが重要です。

 

職場環境の最適化

  • VDT作業時の20-20-20ルール:20分毎に20フィート(6m)先を20秒間注視
  • モニター位置の調整:視線より10-20度下向きに設置
  • 室内湿度の維持:50-60%を目標、デスク用加湿器の活用
  • ブルーライトカット眼鏡の使用:概日リズムへの影響も考慮

瞬目指導の重要性
意識的完全瞬目の練習は、多くの患者で症状改善効果があります。1日3回、各10回の完全瞬目を指導し、角膜全面への涙液分布を促進します。

 

マイボーム腺ケアの指導

  • 温罨法:40-45℃で5-10分間、就寝前の実施
  • リッドハイジーン:希釈シャンプーによる眼瞼縁清拭
  • オメガ3脂肪酸サプリメント:EPA/DHA 1000mg/日の摂取

コンタクトレンズ装用者への特別指導

  • 装用時間の短縮:1日8時間以内を推奨
  • 低含水率レンズへの変更検討
  • 防腐剤フリー人工涙液の頻回点眼
  • 定期的な眼科受診(3ヶ月毎)

栄養学的アプローチ
最近の研究では、抗酸化物質(ビタミンA、C、E)やルテイン、アントシアニンがドライアイ症状の改善に寄与する可能性が示されています。特にビタミンA不足は角結膜上皮の角化を引き起こすため、栄養指導も重要な治療要素です。

 

睡眠衛生の重要性
睡眠中の不完全閉瞼(lagophthalmos)はドライアイの悪化因子となります。睡眠時の環境湿度維持、必要に応じた眼軟膏やテープによる閉瞼補助も効果的です。

 

参考:日本眼科学会によるドライアイ診療ガイドライン
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=9
ドライアイ治療は単一の治療法では限界があり、病態に応じた多角的アプローチが必要です。特に生活習慣の改善は長期的な症状コントロールに不可欠であり、患者の QOL向上に直結する重要な治療要素といえるでしょう。医療従事者として、薬物療法のみならず包括的な患者指導を心がけることが、良好な治療成績につながります。