ドライアイは単なる涙液減少症ではなく、涙液の量的・質的異常により目表面の恒常性が破綻した状態です。正常な涙液は、マイボーム腺から分泌される油層、涙腺から分泌される水層、杯細胞から分泌されるムチン層の3層構造を成しています。
発症メカニズムは大きく2つに分類されます。
量的異常(涙液分泌減少型)
質的異常(涙液蒸発亢進型)
近年の研究では、これらの病態が単独で存在することは稀で、多くの症例で複数の要因が重複していることが明らかになっています。特にマイボーム腺機能不全は約86%の症例で合併しており、ドライアイ治療において重要な治療標的となっています。
ドライアイの初期症状は多彩で非特異的なため、患者の主訴だけでは診断が困難な場合があります。
典型的な初期症状
興味深いことに、重症度と自覚症状の強さは必ずしも相関しません。軽度のドライアイでも強い症状を訴える患者がいる一方、重度の角結膜上皮障害があっても症状が軽微な症例も存在します。
診断基準(2016年ドライアイ研究会)
診断には最低限、BUT検査(涙液層破壊時間)とフルオレセイン染色による角結膜上皮障害の評価が必要です。BUT値5秒以下、角結膜染色スコア3点以上で確定診断となります。
ドライアイの原因は多岐にわたり、原因に応じた治療戦略の選択が重要です。
環境要因
全身疾患
薬剤性要因
加齢性変化
60歳以降では生理的な涙腺機能低下とマイボーム腺の脂質組成変化により、ドライアイ有病率が急激に上昇します。特に閉経後女性では、エストロゲン低下により涙腺・マイボーム腺両方の機能が低下するため注意が必要です。
適切な診断には客観的検査による病態の把握が不可欠です。
基本検査
詳細検査
鑑別診断
近年、非侵襲的検査機器の普及により、より客観的で再現性の高い評価が可能になっています。特に涙液浸透圧測定は、早期診断における有用性が注目されています。
ドライアイ治療において、薬物療法と並行した生活指導は症状改善の鍵となります。医療従事者として患者教育に重点を置いたアプローチが重要です。
職場環境の最適化
瞬目指導の重要性
意識的完全瞬目の練習は、多くの患者で症状改善効果があります。1日3回、各10回の完全瞬目を指導し、角膜全面への涙液分布を促進します。
マイボーム腺ケアの指導
コンタクトレンズ装用者への特別指導
栄養学的アプローチ
最近の研究では、抗酸化物質(ビタミンA、C、E)やルテイン、アントシアニンがドライアイ症状の改善に寄与する可能性が示されています。特にビタミンA不足は角結膜上皮の角化を引き起こすため、栄養指導も重要な治療要素です。
睡眠衛生の重要性
睡眠中の不完全閉瞼(lagophthalmos)はドライアイの悪化因子となります。睡眠時の環境湿度維持、必要に応じた眼軟膏やテープによる閉瞼補助も効果的です。
参考:日本眼科学会によるドライアイ診療ガイドライン
https://www.nichigan.or.jp/public/disease/name.html?pdid=9
ドライアイ治療は単一の治療法では限界があり、病態に応じた多角的アプローチが必要です。特に生活習慣の改善は長期的な症状コントロールに不可欠であり、患者の QOL向上に直結する重要な治療要素といえるでしょう。医療従事者として、薬物療法のみならず包括的な患者指導を心がけることが、良好な治療成績につながります。