免疫グロブリン(抗体)は、抗原刺激を受けたB細胞が分化・成熟して産生する血漿蛋白成分です。この抗体は私たちの体を守る免疫システムの重要な要素であり、特徴的なY字型の構造を持っています。
免疫グロブリンの基本構造は、分子量が重い「重鎖」と分子量が軽い「軽鎖」から構成されています。このY字型の左右に広がるアーム部分は0~180度まで開閉可能で、様々な抗原に合わせて形を変えることができる柔軟性を持っています。
免疫グロブリンの主な機能は以下の3つに分類されます。
これらの機能により、免疫グロブリンは感染症から体を守る「液性免疫」の主役として働いています。
免疫グロブリンには5種類のクラス(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)が存在し、それぞれが異なる構造と機能を持っています。
1. IgG(免疫グロブリンG)
IgGは血液中に最も多く存在し、免疫グロブリン全体の約80%を占めています。IgGには4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)があり、各サブクラスで補体活性能、オプソニン化能力、胎盤通過能などが異なります。
IgGの主な特徴。
2. IgA(免疫グロブリンA)
IgAは血清中では免疫グロブリンの7-15%を占め、2つのサブクラス(IgA1、IgA2)に分類されます。最大の特徴は、分泌型IgAとして涙液、唾液、母乳、消化管などの粘膜面に多く分布していることです。
IgAの主な特徴。
3. IgM(免疫グロブリンM)
IgMは免疫グロブリンの中で最大の分子量を持ち、感染症で最も早期に増加する抗体です。血清中の免疫グロブリンの約10%を占めています。
IgMの主な特徴。
4. IgD(免疫グロブリンD)
IgDは血清中に微量しか存在せず、その機能については未だ不明な点が多い免疫グロブリンです。
5. IgE(免疫グロブリンE)
IgEはアレルギー反応に関与する免疫グロブリンで、血清中の濃度は極めて低いですが、アレルギー疾患では上昇します。
免疫グロブリンの検査は、様々な疾患の診断や治療効果のモニタリングに重要です。主な検査方法と基準値について解説します。
検査方法
免疫グロブリンの測定には、主に以下の方法が用いられます。
主な免疫グロブリンの基準値
各免疫グロブリンの一般的な基準値は以下の通りです。
免疫グロブリン | 基準値 | 判断料点数 |
---|---|---|
IgG | 870~1700mg/dL | 38点 |
IgA | 110~410mg/dL | 38点 |
IgM | 33~190mg/dL | 38点 |
※基準値は年齢や性別、測定法によって異なる場合があります。
検査結果の解釈
免疫グロブリンの検査結果は、以下のような観点から解釈します。
特にIgG、IgMのパターン分析は抗体検査で重要です。
免疫グロブリン療法は、様々な免疫不全症や自己免疫疾患の治療に用いられる重要な治療法です。特に静注用免疫グロブリン(IVIG)療法は、その効果と安全性から広く使用されています。
免疫グロブリン療法の作用機序
免疫グロブリン療法の作用機序はまだ完全には解明されていませんが、以下のような機序が考えられています。
主な適応疾患
免疫グロブリン療法は以下のような疾患に適応があります。
免疫グロブリン製剤の種類と投与法
免疫グロブリン製剤には、主に以下の投与経路があります。
最新の研究動向
免疫グロブリン療法に関する最新の研究では、特定の免疫グロブリンサブクラスの臨床的意義や、より純度の高い製剤の開発に関する研究が進められています。また、IgAやIgM含有製剤の開発も進んでおり、特定の疾患に対する効果が期待されています。
日本臨床免疫学会誌に掲載された免疫グロブリン療法の最新動向に関する総説
免疫グロブリンの異常値は様々な疾患で見られます。ここでは主な疾患とその特徴について解説します。
1. 免疫グロブリン高値を示す疾患
多クローン性高γグロブリン血症
単クローン性高γグロブリン血症
特異的免疫グロブリン異常
2. 免疫グロブリン低値を示す疾患
原発性免疫不全症
続発性免疫不全症
3. 診断のポイント
免疫グロブリン異常を示す疾患の診断には、以下のようなアプローチが重要です。
診断においては、単一の検査結果だけでなく、臨床症状と併せた総合的な判断が重要です。特に小児の反復性感染症例では、免疫グロブリンサブクラスの測定も考慮すべきでしょう。
日本感染症学会による原発性免疫不全症診断ガイドライン
以上、免疫グロブリンの基礎から臨床応用まで概説しました。免疫グロブリンは生体防御の最前線で働く重要な分子であり、その異常は様々な疾患の診断や治療方針決定に重要な情報を提供します。検査値の適切な解釈と臨床像を組み合わせることで、より精度の高い診断と効果的な治療につなげることが可能になります。