味覚障害の原因と初期症状を医療従事者が解説

味覚障害は亜鉛欠乏や薬剤性要因など多様な原因で発症し、初期症状の見極めが重要です。適切な診断と治療介入のタイミングを見逃していませんか?

味覚障害の原因と初期症状

味覚障害の概要
👅
症状の多様性

味覚減退から異常味覚まで幅広い症状を呈する

主要原因

亜鉛欠乏が最も重要な要因として位置づけられる

📊
疫学的特徴

50-60歳代女性に多く、増加傾向にある疾患

味覚障害の主要症状と分類

味覚障害は、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の基本五味に対する感受性の異常として現れます。臨床的には量的味覚異常と質的味覚異常に大別され、それぞれ特徴的な症状パターンを示します。

 

量的味覚異常の症状

  • 味覚減退:濃い味でないと感じない状態
  • 味覚脱失:全く味を感じない完全な感覚消失
  • 味覚過敏:薄味を濃い味として過剰に感じる

質的味覚異常の症状

  • 異常味覚(異味症):口の中が常に苦い、しょっぱいと感じる
  • 錯味(味覚錯誤):甘いものを苦く感じるなど本来とは異なる味覚
  • 解離性味覚障害:特定の味覚のみが認識できない状態

最も頻度が高いのは味覚減退で、患者は「何を食べてもおいしく感じない」「味が薄く感じる」といった訴えをします。舌の一部や片側のみに限局する場合もあれば、舌全体に及ぶ場合もあり、病変の局在を推測する重要な手がかりとなります。

 

味蕾は舌乳頭に存在し、味細胞の集合体として機能します。これらの味蕾は舌のみならず軟口蓋や下咽頭、喉頭の粘膜にも広く分布しており、複数の神経経路を経て大脳の味覚中枢に情報を伝達します。

 

味覚障害の亜鉛欠乏による原因

亜鉛欠乏は味覚障害の最も重要な原因として位置づけられており、日本人の食生活では特に不足しやすいミネラルです。味細胞の新陳代謝には亜鉛が必須であり、欠乏状態では味細胞の正常な再生が阻害されます。

 

亜鉛欠乏のメカニズム

  • 味細胞の代謝遅延による機能低下
  • 味覚神経の反応に関わる酵素活性の低下
  • 細胞や組織の代謝障害による味蕾の機能不全

厚生労働省の推奨摂取量は成人男性12mg、成人女性9mgですが、高齢者では吸収能力の低下により、より多くの摂取が必要となります。加齢による消化吸収機能の衰えに加え、多剤併用による薬物相互作用も亜鉛の生体利用率を低下させる要因となります。

 

亜鉛を多く含む食品

  • 魚介類:カキ、うなぎ
  • 種実類:ごま、アーモンド
  • 動物性食品:牛肉、鶏肉、卵黄
  • 植物性食品:大豆、海藻

動物性タンパク質との同時摂取により亜鉛の吸収率が向上し、ビタミンCは亜鉛の働きを高める効果があります。一方、食物繊維や茶・コーヒーに含まれるタンニンは亜鉛の吸収を阻害するため、摂取タイミングの調整が重要です。

 

味覚障害の薬剤性原因と発症時期

薬剤性味覚障害は、特定の薬物投与により引き起こされる医原性の味覚異常です。発症までの期間は薬剤により異なりますが、多くは服用開始から2-6週間以内に症状が出現します。

 

味覚障害を引き起こす主要薬剤

薬剤性味覚障害の特徴として、服用中止後も症状が数ヶ月にわたって持続することがあります。これは薬物が体内に蓄積し、徐々に排泄される過程で味覚機能の回復が遅延するためです。

 

高齢者では複数の慢性疾患に対する多剤併用が一般的であり、薬物相互作用による亜鉛の吸収阻害や排泄促進が味覚障害のリスクを高めます。特に利尿薬は亜鉛の尿中排泄を促進し、長期投与により亜鉛欠乏状態を惹起する可能性があります。

 

診断においては詳細な服薬歴の聴取が不可欠であり、症状の発症時期と薬剤開始時期の関連性を慎重に評価する必要があります。疑われる薬剤の減量や変更が可能な場合は、主治医と連携して治療方針を検討することが重要です。

 

味覚障害のストレス関連原因

近年、心因性要因による味覚障害の増加が注目されています。過度なストレスや自律神経の失調は、味覚処理に関わる神経伝達や脳機能に影響を与え、味覚異常を引き起こします。

 

ストレス関連味覚障害の病態

  • 自律神経バランスの失調による唾液分泌の減少
  • 味覚情報を処理する脳機能の変調
  • 仮面うつ病や不安神経症による身体症状としての味覚異常

自律神経は全身の臓器機能をコントロールしており、バランスの崩れは味覚以外にも頭痛めまい、動悸、発汗、食欲不振などの多彩な症状を引き起こします。特に現代社会では、仕事や人間関係のストレス、不規則な生活リズムにより自律神経の失調を来す患者が増加しています。

 

心因性味覚障害の特徴

  • 症状の日内変動や状況依存性
  • 他の身体症状との合併
  • 心理的要因との明確な関連性
  • 従来の治療に反応しにくい傾向

診断には心理社会的要因の詳細な評価が必要であり、必要に応じて精神科や心療内科との連携を検討します。治療においては亜鉛補充などの従来のアプローチに加え、ストレス管理や心理的サポートが重要な役割を果たします。

 

味覚障害の診断と受診タイミング

味覚障害の適切な診断には、症状の詳細な把握と系統的な原因検索が不可欠です。早期診断と治療介入により、症状の改善と生活の質の向上が期待できます。

 

診断に必要な評価項目

  • 詳細な病歴聴取:発症様式、経過、関連症状
  • 服薬歴:現在および過去の薬物使用状況
  • 全身疾患の評価:糖尿病、肝疾患、腎疾患、消化器疾患
  • 血液検査:血清亜鉛値、その他の栄養状態評価
  • 味覚検査:定量的味覚検査、電気味覚検査

血清亜鉛値の正常範囲は60-130μg/dlですが、軽度の低下でも味覚障害を引き起こす可能性があります。また、亜鉛と競合的に吸収される銅や鉄の状態も併せて評価することが重要です。

 

受診を推奨するタイミング

  • 味覚異常が2週間以上持続する場合
  • 食事摂取量の明らかな減少がある場合
  • 日常生活に支障を来している場合
  • 他の神経症状を伴う場合

風邪や感染症に伴う一過性の味覚障害は自然回復することが多いですが、症状が遷延する場合は器質的な原因を検索する必要があります。特に高齢者では複数の要因が重複していることが多く、包括的な評価が求められます。

 

耳鼻咽喉科は味覚障害診療の専門科として位置づけられており、全身の医学的知識を有する医師による総合的な診断と治療が可能です。症状の程度や原因に応じて、亜鉛補充療法、薬物調整、生活指導などの適切な治療選択肢を提供することができます。

 

日本耳鼻咽喉科学会の味覚障害診療ガイドライン