肝不全の原因と初期症状を医療従事者向けに解説

肝不全の原因は急性と慢性で大きく異なり、初期症状の見極めが重要です。ウイルス性や薬剤性など多様な原因と、黄疸や肝性脳症などの症状について詳しく解説。あなたは適切な診断ができていますか?

肝不全の原因と初期症状

肝不全の原因と初期症状
急性肝不全の主要原因

B型肝炎ウイルスが最多、アセトアミノフェンなど薬剤性も重要

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初期症状の特徴

倦怠感、食欲不振から始まり、黄疸、肝性脳症へ進行

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診断のポイント

血液検査でのGOT・GPT値とプロトロンビン時間の評価が重要

肝不全の急性と慢性の原因分類

肝不全の原因は発症の時期によって大きく異なります。急性肝不全では、ウイルス性肝炎が最も一般的で、特にB型肝炎ウイルスが原因の約45%を占めています。興味深いことに、C型肝炎ウイルスによる急性肝不全は稀で、わずか数%程度にとどまります。

 

薬剤性肝障害も重要な原因で、全体の約15%を占めています。特にアセトアミノフェンは急性肝不全の最も多い薬物原因とされており、解熱鎮痛薬として広く使用されているため注意が必要です。2002年の中国製ダイエット用健康食品による劇症肝炎事例では、重症例8例中5例が中国製痩せ薬が原因で、うち1例が死亡、3例に生体肝移植が施行されました。

 

慢性肝不全の原因として、日本ではC型慢性肝炎が約60%と最多で、B型慢性肝炎が約15%、アルコール性肝障害が約15%となっています。近年増加傾向にあるNASH(非アルコール性脂肪肝炎)も重要な原因として注目されており、肥満や糖尿病と密接に関連しています。

 

自己免疫性肝炎は全体の約10%を占め、原因不明の症例も約30%存在することから、詳細な病歴聴取と包括的な検査が必要です。

 

肝不全の初期症状と進行段階別症状

肝不全の初期症状は非特異的であることが多く、早期診断を困難にしています。初期段階では倦怠感、食欲不振、吐き気などの症状が現れますが、これらは他の疾患でも見られるため注意深い観察が必要です。

 

急性肝不全では、発症直後に体温37.2〜37.8℃の発熱と倦怠感が現れ、12〜24時間以内に食事摂取量が通常の30%以下まで低下する食欲不振が生じます。24〜72時間以内には血中ビリルビン値の上昇に伴う黄疸が出現し、皮膚や白目が黄色くなる特徴的な症状が現れます。

 

慢性肝不全では症状の進行は緩やかで、長期間無症状で経過することが多いため「沈黙の臓器」と呼ばれます。しかし、非代償期に入ると以下のような重篤な症状が現れます。

  • 腹水アルブミン産生低下により水分が腹腔内に貯留
  • 肝性脳症:アンモニアの蓄積により意識障害や異常行動
  • 食道胃静脈瘤破裂:門脈圧亢進により突然の大量吐血
  • 皮下出血:凝固因子産生低下による出血傾向

特筆すべきは、急性肝不全患者では「肝性口臭」と呼ばれるカビ臭く甘ったるい匂いの口臭が現れることです。これは肝臓の解毒機能低下により毒性物質が蓄積することで生じる特徴的な症状です。

 

肝不全の診断における血液検査と画像診断

肝不全の診断において血液検査は最も重要な検査手段です。急性肝炎では肝酵素のGOT(AST)とGPT(ALT)が激しく上昇し、正常上限の100倍以上に達することがあります。興味深いことに、劇症肝炎では進行に伴い肝腫大が一転して急速に縮小し、残存肝細胞の減少によりAST・ALTは逆に低下することがあります。

 

プロトロンビン時間(PT)は肝不全の重症度評価に不可欠で、劇症肝炎の定義では40%以下が基準となっています。国際標準化比(INR)の上昇も重要な指標ですが、播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併しない限り実際の出血は稀です。これは急性肝不全患者では凝固促進因子と抗凝固因子のバランスが保たれているためです。

 

総ビリルビン値の上昇は進行性の高度黄疸を示し、直接ビリルビンの上昇が特徴的です。アンモニア値の測定は肝性脳症の診断に重要で、血中アンモニア濃度が150μg/dL以上で脳症の危険性が高まります。

 

画像診断では、腹部エコー検査により肝臓の形態変化、脾腫、腹水の有無を評価できます。CT検査では肝硬変の進行度や肝癌の合併を確認でき、造影CTでは肝血流の評価も可能です。門脈血流が90%以上閉塞された場合、24時間以内に広範な肝細胞壊死が生じるため、血流評価は予後判定に重要です。

 

肝不全の薬剤性と感染症リスク管理

薬剤性肝障害は急性肝不全の重要な原因で、医療従事者として特に注意が必要な領域です。アセトアミノフェンによる肝障害は用量依存性で、成人では1回15g以上または1日4g以上の継続投与で肝毒性が現れやすくなります。早期診断できれば、N-アセチルシステインによる解毒療法で症状の回復が期待できます。

 

薬剤性肝障害の発症機序は主に以下の3つに分類されます。

  • 直接肝毒性:薬物自体が肝細胞を直接傷害
  • 代謝物による毒性:薬物代謝産物が肝毒性を示す
  • 免疫学的機序:個体の免疫反応による肝細胞傷害

特に健康食品による肝障害では、個体の免疫学的機序の関与が示唆されており、血液生化学的および組織学的所見から好酸球増多や肝組織への炎症細胞浸潤が認められることが多いです。

 

肝不全患者では感染症のリスクが著しく増加します。腸管の細菌が血液中に移行しやすくなる bacterial translocation が生じ、敗血症の原因となります。感染症のある患者では、時として局所症状(咳嗽、排尿困難など)が見られることもありますが、無症状の場合も多く注意が必要です。

 

予防策として以下の点が重要です。

  • 無菌操作の徹底
  • 早期の抗生物質投与の検討
  • 定期的な血液培養検査
  • 体温、白血球数、CRPの継続的監視

肝不全の合併症と予後評価における循環動態管理

肝不全患者の循環動態管理は予後に直結する重要な課題です。循環障害による急性肝不全は全症例の約10〜15%を占め、心拍出量が正常の50%以下に低下することで発症します。肝臓への血流が通常の70%以下まで減少すると、肝細胞は急速に壊死に陥り、血清トランスアミナーゼ値は正常上限の100倍以上まで上昇します。

 

浮腫は急性肝不全の最も致命的な合併症の一つです。動物実験では、急性肝不全時の脳浮腫は主にアストロサイトの膨化によるもので、血液脳関門透過性亢進よりも血中毒性物質による脳代謝抑制が原因と考えられています。臨床的には、昏睡を含む意識障害、徐脈、高血圧などが脳浮腫の徴候として現れます。

 

重篤な合併症として以下の病態に注意が必要です。

予後評価には複数のスコアリングシステムが用いられます。Child-Pugh分類は慢性肝不全の評価に広く使用され、ビリルビン値、アルブミン値、プロトロンビン時間、腹水、肝性脳症の5項目で評価します。MELDスコア(Model for End-stage Liver Disease)は移植適応の判定に重要で、血中クレアチニン値、ビリルビン値、INRから算出されます。

 

急性肝不全では、King's College基準が予後予測に用いられ、アセトアミノフェン中毒例とその他の原因例で異なる基準が設定されています。これらの評価基準を適切に活用することで、肝移植の適応時期を適切に判断することが可能となります。

 

肝不全患者の管理において、多職種チームでの包括的なアプローチが不可欠です。早期からの栄養管理、感染症予防、循環動態の安定化を図りながら、必要に応じて肝移植センターとの連携を検討することが、患者の予後改善につながります。