門脈血は消化管、膵臓、脾臓から集められた静脈血で、肝臓への血液供給の約70-80%を占める重要な血管系である。門脈血の最大の特徴は、小腸で吸収されたアミノ酸、糖質、脂質などの栄養素を豊富に含んでいることである。また、膵臓で産生されたインスリンやグルカゴンなどのホルモン、脾臓から排出された赤血球の分解産物も含まれている。
参考)肝臓はどのような構造になっているの?
門脈血は本来静脈血であるため、動脈血と比較して酸素濃度は低いものの、依然として肝臓に必要な酸素の約50%を供給している。これは門脈血の流量が非常に大きく、毎分1000-1200mlという豊富な血流量によるものである。門脈血は肝小葉の門脈域から類洞に流入し、肝細胞での代謝処理を受けて中心静脈へと流れる。
参考)肝臓の血管疾患の概要 - 04. 肝臓と胆嚢の病気 - MS…
門脈血の正常圧は100-150mmH2Oであり、200mmH2O以上になると門脈圧亢進症と診断される。門脈血には消化管から吸収された薬物成分も含まれているため、経口投与された薬物の初回通過効果の場となる重要な血液成分でもある。
参考)https://www.kanazawa-med.ac.jp/~hiromu/new_page_21.htm
肝動脈は心臓から送り出される酸素に富んだ動脈血を肝臓に供給する血管で、肝臓への血液供給の約20-30%を担っている。肝動脈血は門脈血と比較して血流量は少ないものの、高い酸素濃度により肝臓の酸素需要の約半分を満たしている。
参考)肝臓の血液循環とうっ血肝 病気事典[家庭の医学] -病院検索…
肝動脈は腹腔動脈から分岐し、左右の肝動脈に分かれて肝臓全体に酸素を供給する。肝動脈血は特に肝細胞の代謝活動に必要な酸素を提供し、肝臓の栄養血管としての役割を果たしている。肝動脈は門脈血流量の変化に応じて血流量を調整する肝動脈緩衝反応(hepatic arterial buffer response)により、肝臓への総血流量を一定に保つ機能を持っている。
参考)肝臓の血管障害の概要 - 02. 肝胆道疾患 - MSDマニ…
肝動脈血は門脈血と同じく類洞に流入し、門脈血と混合されて肝細胞での代謝に利用される。この二重の血液供給システムにより、一方の血管に異常が生じても肝機能の維持が可能となっている。肝動脈の血流は特に肝小葉の周辺部(門脈域)で重要な役割を果たし、より好気的な代謝に必要な酸素を供給している。
参考)https://plaza.umin.ac.jp/~histsite/monmyaku.pdf
肝細胞では門脈血と動脈血が類洞で混合され、効率的な代謝プロセスが行われる。門脈血から供給される栄養素は肝細胞に取り込まれ、グリコーゲンの合成・分解、タンパク質合成、脂質代謝などの複雑な生化学反応に利用される。
参考)肝臓の構造および機能 - 02. 肝胆道疾患 - MSDマニ…
肝小葉内では酸素濃度の勾配が存在し、門脈域では高い酸素分圧により好気的代謝が活発に行われる。この領域では脂肪酸酸化やアミノ酸分解など、酸素を必要とする代謝経路が優位となっている。一方、中心静脈域では相対的に酸素濃度が低く、解糖系など嫌気的な代謝経路が主体となる。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/36/6/36_6_315/_pdf
肝細胞では胆汁の産生も重要な機能の一つで、ビリルビン代謝により非抱合型ビリルビンを抱合型ビリルビンに変換し、胆汁中に排泄する。この過程では肝細胞内の酵素系が重要な役割を果たし、門脈血と動脈血の両方から供給される基質と酸素が必要である。また、肝細胞ではアルブミン、凝固因子、各種酵素の合成も行われ、全身の恒常性維持に貢献している。
肝臓の特徴的な血液供給システムでは、門脈血流量と肝動脈血流量が相補的に調整される肝動脈緩衝反応が重要な役割を果たしている。この機能により、門脈血流量が増大すると肝動脈血流量が減少し、その逆も成立することで、肝臓への総血流量が一定に保たれる。
類洞レベルでの血液混合により、門脈血由来の栄養素と動脈血由来の酸素が効率的に肝細胞に供給される。正常肝では約75%が門脈血、25%が肝動脈血の割合で混合されるが、慢性肝疾患の進展に伴いこの血行動態は著しく変化する。
参考)血流からみた肝臓―解剖・病理学的見地から (消化器画像 2巻…
肝内での血流分布は肝小葉の機能区分にも影響を与える。門脈域では栄養素の取り込みと初期代謝が行われ、中心静脈域では最終的な代謝産物の処理と排出が行われる。この機能的分化により、肝臓は効率的な代謝工場として機能している。また、門脈血中に含まれる薬物や毒素の解毒も、この血流パターンにより段階的に処理される仕組みとなっている。
門脈血と動脈血の二重供給システムの理解は、肝疾患の診断と治療において極めて重要である。肝硬変などの慢性肝疾患では門脈血流の障害により門脈圧亢進症が発症し、食道静脈瘤や腹水などの合併症を引き起こす。
参考)門脈 - Wikipedia
肝移植や肝切除術においては、門脈血と動脈血の両方の血流確保が成功の鍵となる。特に生体肝移植では肝動脈血栓症が重要な合併症の一つとされ、術後の血流評価と管理が重要である。また、門脈血行異常症では特徴的な画像所見を示し、血管造影検査による評価が診断上有用である。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/642fcd9a69d927a77950c0373c4c86074e8ba06e
薬物動態の観点からも、門脈血流は経口薬物の初回通過効果に大きく関与している。特に肝代謝を受けやすい薬物では、門脈血中の薬物濃度と動脈血中の濃度に大きな差が生じることがある。このため、薬物の肝臓での代謝研究では門脈血と動脈血の同時採取による解析が重要とされている。
参考)創薬における門脈血/動脈血同時採取法の有用性の検討: ラット…