静脈瘤の種類と一覧:病態から症状、治療法まで

静脈瘤は伏在型、側枝型、網目状、クモの巣状の4タイプに分類され、それぞれに特徴的な症状や最適な治療法があります。あなたの患者さんの静脈瘤を正確に診断し、最適な治療を選択するにはどうすればよいでしょうか?

静脈瘤の種類と一覧について

静脈瘤4つの基本タイプ
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伏在型・側枝型静脈瘤

表在静脈の主要血管に発生する静脈瘤で、ぼこぼこした隆起が特徴。足のだるさや痛みの主な原因となる。

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網目状静脈瘤

直径2~3mmの皮下静脈が網目状に拡張した状態。青色が特徴で、特に膝裏に発生しやすい。

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クモの巣状静脈瘤

直径1mm以下の細い毛細血管の拡張。赤紫色で、見た目の問題が主だが、時に痛みを伴うことも。

下肢静脈瘤は、静脈内の血液が正常に心臓へ戻れなくなり、静脈内圧が上昇して血管壁が拡張・変形した状態です。医療従事者として患者さんを適切に診断し治療方針を決定するには、静脈瘤の種類の正確な理解が不可欠です。本稿では静脈瘤の種類と特徴、症状、治療法について詳述します。

 

静脈瘤の4つの基本タイプとその特徴

静脈瘤は主に4つのタイプに分類されます。それぞれの特徴を理解することが、正確な診断の第一歩となります。

 

  1. 伏在静脈瘤
    • 特徴:足の表面近くにある伏在静脈(大伏在静脈・小伏在静脈)自体が拡張したもの
    • 外観:太い血管がモコモコと蛇行し浮き出た状態
    • 発生部位:大伏在静脈瘤は足の付け根から太ももやふくらはぎの内側、膝の裏。小伏在静脈瘤はアキレス腱外側から膝裏
    • 頻度:下肢静脈瘤の中で最も多いタイプ(大伏在系約80%、小伏在系約20%)
  2. 側枝静脈瘤
    • 特徴:伏在静脈から枝分かれした静脈(側枝)が拡張したもの
    • 外観:伏在静脈瘤よりやや細いが、場所によっては大きく目立つこともある
    • 発生部位:主に膝から下の部分、特に膝周辺の裏側や太腿、ふくらはぎ
    • 特記事項:伏在静脈瘤に併発することが多いため、伏在型が隠れていないか確認が必要
  3. 網目状静脈瘤
    • 特徴:皮膚下の細い静脈が拡張したもの
    • サイズ:直径2~3mm程度
    • 外観:青色の細い血管が網目状になって見える
    • 発生部位:太もも外側から裏面、膝裏などに出やすい
  4. クモの巣状静脈瘤
    • 特徴:皮内の極めて細い毛細血管が拡張したもの(正確には毛細血管拡張症)
    • サイズ:直径0.1~1mm以下
    • 外観:赤紫色の細い血管がクモの巣のように見える
    • 特記事項:網目状静脈瘤の「栄養血管」として交通していることが多い

下肢静脈瘤の分類にあたっては、CEAP分類も国際的に用いられています。この分類ではreticular veins(網目状静脈瘤)、telangiectases(クモの巣状静脈瘤)はClass1、varicose veins(伏在型・側枝型)はClass2に区別されています。

 

伏在静脈瘤と側枝静脈瘤の違いと症状

伏在静脈瘤と側枝静脈瘤はどちらも「ボコボコと膨らむ」タイプの静脈瘤ですが、その発生機序や症状、治療法に違いがあります。

 

伏在静脈瘤の特徴と症状

  • 解剖学的特徴:伏在静脈は筋膜と筋膜の間に挟まれた"saphenous compartment"というスペースを走る
  • 発生機序:伏在静脈の弁不全により血液が重力で逆流し、血液が停滞(うっ滞)
  • 主な症状。
    • 足のだるさ・重さ
    • 足の血管が浮き出て目立つ
    • こむら返り(夜間に多い)
    • 足のむくみ
    • 長時間立っていると症状が悪化
  • 進行すると。
    • 湿疹・かゆみ(うっ滞性皮膚炎
    • 皮膚の色素沈着
    • 皮膚硬化
    • 潰瘍形成(皮膚に穴が開く)

    側枝静脈瘤の特徴と症状

    • 解剖学的特徴:伏在静脈から枝分かれして主に皮下脂肪の層を走るため、拡張と蛇行が著しい
    • 発生機序:側枝静脈単独の弁不全、または骨盤内の静脈(内腸骨静脈)の逆流が原因
    • 特殊なタイプ:陰部静脈瘤(卵巣や子宮周囲の静脈から逆流)も側枝型の一種
    • 主な症状。
      • 伏在型よりも症状は軽度であることが多い
      • 局所的な不快感
      • 軽度のむくみ
      • 足の疲労感

      両タイプの鑑別点として重要なのは、側枝型静脈瘤は伏在型静脈瘤に併発することが多く、エコー検査で伏在静脈の逆流の有無を確認することが診断の鍵となります。

       

      網目状静脈瘤とクモの巣状静脈瘤の見分け方

      「青・赤・紫の細かいもの」として分類される網目状静脈瘤とクモの巣状静脈瘤は、サイズや色、発生原因に違いがあります。これらを正確に識別することで、適切な治療法を選択できます。

       

      網目状静脈瘤の特徴

      • サイズ:直径2~3mm
      • 色調:鮮明な青色が特徴
      • 位置:皮膚下(皮下)の小静脈の拡張
      • 原因:静脈弁の機能不全による逆流圧
      • 特徴的な発生部位:ひざ裏、太もも裏側

      クモの巣状静脈瘤の特徴

      • サイズ:直径1mm以下
      • 色調:赤紫色が特徴
      • 位置:皮膚の真皮内の毛細血管の拡張
      • 原因:ホルモンの影響、遺伝、静脈圧上昇など(下肢静脈瘤とは発生機序が異なる)
      • 時期:思春期や妊娠中に発生することが多い

      鑑別のポイント

      1. 色の違い:青色(網目状)vs 赤紫色(クモの巣状)
      2. 触診での違い:網目状は軽度の隆起を触知できることがある
      3. 関連性:クモの巣状静脈瘤の「栄養血管」として網目状静脈瘤が存在することがある
      4. 症状の違い
        • 網目状:通常無症状だが、進行すると軽度のだるさを伴うことも
        • クモの巣状:基本的に無症状だが、時おりピリピリとした痛みやチクチク感、灼熱感を訴えることがある

      医療従事者として重要なのは、これらの静脈瘤が単なる美容上の問題だけでなく、より大きな静脈瘤の存在を示唆する可能性があることを認識することです。特に網目状静脈瘤が見られる場合は、伏在静脈や交通枝の逆流の有無を超音波検査で確認することが推奨されます。

       

      静脈瘤の種類による治療法の選択と対応

      静脈瘤の種類によって最適な治療法は異なります。患者の症状、静脈瘤のタイプ、重症度、患者の希望などを考慮して治療法を選択することが重要です。

       

      伏在型静脈瘤の治療法

      1. 血管内焼灼術:現在の標準治療
        • レーザーまたは高周波による熱で静脈を内側から焼灼
        • 日帰りまたは一泊入院で可能
        • 合併症:稀に肺動脈血栓塞栓症(発生頻度0.1~0.2%)
      2. ストリッピング手術:従来法だが、現在はあまり行われない
        • 皮膚切開が必要で体へのダメージが大きい
      3. スーパーグルー治療:国際的な標準治療の一つ
        • 接着剤で静脈を閉塞させる比較的新しい手法

      側枝型静脈瘤の治療法

      1. 瘤切除術(スタブアバルジョン):皮膚を数か所切開して直接静脈瘤を切除
      2. 硬化療法
        • 血管内に硬化剤を注入して炎症を起こし、静脈を閉塞させる
        • 特に屈曲が著しい場合に有効
      3. 分割レーザー焼灼術
        • 最近改良されたレーザーカテーテルによる治療
        • クネクネと曲がった静脈瘤にも対応可能

      網目状・クモの巣状静脈瘤の治療法

      1. 硬化療法:保険診療で可能
        • 細い注射針で硬化剤を注入
        • 10~30%に一時的な色素沈着が起こることがある
        • 効果は半年から1年で現れる
      2. 皮膚レーザー照射:主にクモの巣状静脈瘤向け(自由診療)
        • 赤い色に吸収されるレーザー光線を直接皮膚に照射
        • 硬化療法よりも仕上がりが優れている

      治療法選択の決め手

      • 伏在型静脈瘤:症状が強い、うっ滞性皮膚炎や潰瘍がある場合は積極的な治療が必要
      • 側枝型静脈瘤:伏在型の逆流の有無を確認し、単独の場合は比較的軽度の治療で対応可能
      • 網目状・クモの巣状:主に美容的な問題が中心だが、症状がある場合は治療を検討

      治療の有効性を評価するために、特に伏在型や側枝型の場合は術後のフォローアップが重要です。また、治療後の再発予防のために弾性ストッキングの着用や生活習慣の改善が推奨されます。

       

      静脈瘤の種類別合併症リスクと早期発見のポイント

      静脈瘤は単なる美容上の問題ではなく、種類によっては重篤な合併症につながるリスクがあります。医療従事者が静脈瘤を早期に発見し、適切に管理することが重要です。

       

      伏在型静脈瘤の合併症リスク

      1. 表在静脈血栓症(SVT)/表在性血栓性静脈炎(STP)
        • 症状:拡張した静脈が硬くなり、発赤、熱感、疼痛を伴う
        • リスク:深部静脈血栓症(DVT)に進展する可能性がある
        • 対応:抗凝固療法、圧迫療法、必要に応じて早期の焼灼術
      2. 皮膚合併症の進行
        • 進行段階:色素沈着 → 湿疹・皮膚炎 → 皮膚硬化 → 皮膚潰瘍
        • 発見のポイント:膝周囲や内果周辺の皮膚変化を定期的にチェック
        • 対応:早期段階での弾性ストッキング着用、必要に応じて治療介入

      側枝型静脈瘤の注意点

      1. 隠れた伏在型静脈瘤の存在
        • 側枝型だけに見えても、エコー検査で伏在静脈の逆流を確認することが重要
        • 特に膝下の側枝静脈瘤がある場合、後方弓状静脈(posterior arch vein)の逆流を疑う
      2. 妊娠との関連
        • 陰部静脈瘤は妊娠・出産時に悪化することが多い
        • 月経周期によって症状が変動する特徴がある

      「隠れ静脈瘤」の発見
      表面からは見えないが、エコーで確認できる「隠れ静脈瘤」があることも認識すべきです。

       

      • 特徴:表面からは見えないが症状(だるさ、重さ)がある
      • 診断:血管エコー検査が必須
      • 鑑別:深部静脈血栓症(DVT)との鑑別が重要

      静脈瘤の早期発見のためのスクリーニングポイント

      1. 問診での重要な質問
        • 家族歴(静脈瘤は遺伝的要素がある)
        • 職業(長時間立ち仕事をしているか)
        • 妊娠歴(特に複数回の妊娠経験)
        • 症状(だるさ、重さ、こむら返り、夕方のむくみなど)
      2. 視診のポイント
        • 立位での観察(座位や臥位では静脈瘤が見えにくい)
        • 足全体(大腿から足首まで)を確認
        • 内側・外側・後方からの観察
      3. 触診のポイント
        • 静脈の走行に沿った圧痛の有無
        • 硬結の有無(血栓の存在を示唆)
        • 浮腫の程度評価

      二次性静脈瘤の可能性も考慮し、特に両側性の急速に発症した静脈瘤や非典型的な分布パターンを示す場合は、深部静脈血栓症後遺症や骨盤内腫瘍などの可能性も検討する必要があります。

       

      静脈瘤の適切な管理において、正確な診断と定期的なフォローアップが合併症予防の鍵となります。患者教育と早期介入により、多くの合併症は予防可能です。

       

      日本の静脈学会による最新のガイドラインでは、静脈瘤の診断には超音波検査が強く推奨されており、特に伏在型静脈瘤が疑われる場合は必須の検査となっています。

       

      日本脈管学会:下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術のガイドライン