加水分解酵素一覧と医療現場での臨床応用

加水分解酵素は生体内で重要な役割を果たす酵素群で、医療診断や治療に幅広く活用されています。EC3に分類される加水分解酵素にはどのような種類があり、臨床現場でどう応用されているのでしょうか?

加水分解酵素の種類と分類

加水分解酵素の主要分類
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エステラーゼ群

エステル結合を加水分解する酵素で、リパーゼ、コリンエステラーゼ、ホスファターゼなどが含まれます

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グリコシダーゼ群

グリコシド結合を分解する酵素で、アミラーゼ、α-グルコシダーゼなどが該当します

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ペプチダーゼ群

ペプチド結合を切断する酵素で、プロテアーゼ、ペプシン、トリプシンなどが代表的です

加水分解酵素のEC番号による体系的分類

 

加水分解酵素は国際生化学・分子生物学連合によって制定されたEC番号では第3群(EC 3)に分類されており、基質となる結合の種類によって11の小グループに細分化されています。これらの酵素はヒドロラーゼとも呼ばれ、生体内のさまざまな加水分解反応を触媒する重要な役割を担っています。
参考)Category:加水分解酵素 - Wikipedia

加水分解酵素の主要なグループとして、まずエステラーゼがあります。エステラーゼはカルボン酸、チオール、リン酸、硫酸のエステル結合に作用する酵素群で、リパーゼ(EC 3.1.1.3)はトリグリセリドの加水分解を触媒し、脂肪酸とグリセリンを生成します。コリンエステラーゼ(ChE)は血清中に存在する偽性コリンエステラーゼとして知られ、肝機能の全体的な把握に有用です。
参考)【総説】リパーゼの特徴と有効性について|siyaku blo…

次にグリコシルヒドロラーゼ(グリコシダーゼ)は、グリコシド結合を加水分解する酵素群です。アミラーゼは多糖類であるデンプンをマルトースグルコースに分解し、α-グルコシダーゼはα-配糖体結合に作用してオリゴ糖を加水分解します。これらの酵素は消化酵素として重要な役割を果たしています。
参考)酵素の分類|気になる遺伝子

ペプチダーゼ(プロテアーゼ)はペプチド結合を加水分解する酵素の総称であり、タンパク質を構成する多数のアミノ酸のペプチド結合(-CO-NH-)を切断します。エンドペプチダーゼはタンパク質の内部ペプチド結合を加水分解して短いペプチドを形成し、エキソペプチダーゼはC末端またはN末端から加水分解して遊離アミノ酸を生成します。​

加水分解酵素のリン酸エステル加水分解酵素群

リン酸エステル加水分解酵素は生体内に存在するさまざまなリン酸エステル構造を加水分解する活性を持つ酵素で、医療診断において重要な役割を果たしています。代表的なものにアルカリホスファターゼ(ALP)があり、アルカリ性条件下(pH8~10付近)でリン酸モノエステルを基質として加水分解する酵素です。
参考)共同発表:疾患と関わる血液中の酵素活性異常を「1分子」レベル…

ALPは肝臓、骨、軟骨、小腸粘膜などに多く分布し、細胞膜に多在して膜を通してのリン酸の転送に関与していると考えられています。由来組織に応じて異なるサブタイプが存在し、臓器非特異的ALP(TNAP)と小腸型ALP(ALPI)は血液中で観察される代表的なサブタイプです。
参考)アルカリ性リン酸酵素

酸性ホスファターゼ(ACP)は酸性条件下でリン酸化合物を加水分解する酵素で、細胞質のライソソームに含まれる代表的な加水分解酵素です。ACP染色は単球、形質細胞、骨髄巨核球などに染まる傾向があり、血液学的検査に利用されます。
参考)ホスファターゼ(アルカリ,酸) (検査と技術 4巻12号)

N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ(NAG)は分子量112,000~126,000と推定されるライソゾーム中に含まれる加水分解酵素で、前立腺と腎臓、特に近位尿細管に多く含まれています。NAGは腎尿細管や糸球体障害で尿中に出現し、腎病変の早期発見に有用な検査マーカーとして活用されています。
参考)NAG|酵素|生化学検査|WEB総合検査案内|臨床検査|LS…

加水分解酵素の消化酵素としての多様な機能

消化に関与する加水分解酵素は、栄養素を吸収可能な形に分解する重要な役割を担っています。これらの酵素は基質特異性によって異なる栄養素を分解します。
参考)加水分解酵素 - Wikipedia

リパーゼは脂質のエステル結合を加水分解する酵素の総称で、脂肪酸とグリセリンからなるトリグリセリドを基質として、加水分解、合成、または転移反応を行います。リパーゼは位置特異性を持ち、トリグリセリドの1位、2位、3位のどの位置を加水分解するかは酵素の種類により異なります。また、脂肪酸の鎖長特異性も存在し、短鎖、中鎖、長鎖の脂肪酸結合をそれぞれ選択的に加水分解するリパーゼが存在します。​
プロテアーゼは活性部位のアミノ酸によって5種類に分類され、セリンプロテアーゼシステインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼなどが知られています。これらの酵素は食品工業、洗剤工業、医薬品製造など幅広い産業応用があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11098850/

アミラーゼは多糖類バイオマスの加水分解を触媒し、デンプンをマルトースやグルコースに分解します。α-アミラーゼは液化型酵素として知られ、デンプンを効率的に低分子化する能力を持ちます。
参考)OnTheWeb - 触媒学会 - ページビュー

加水分解酵素のライソゾーム病における役割

ライソゾーム病(リソソーム蓄積症)は、細胞内小器官であるライソゾーム中に存在するさまざまな加水分解酵素の欠損または活性の低下により代謝が障害され、そのために発症する一連の先天性代謝異常症です。ライソゾームには糖質、脂質、ムコ多糖などを分解する数多くの加水分解酵素が存在し、欠損している酵素の種類により約60疾患が知られています。
参考)ファブリー病とは

ファブリー病は、細胞内ライソゾームの加水分解酵素のひとつである「α-ガラクトシダーゼ(α-GAL)」という酵素の遺伝的欠損や活性の低下により起こる疾患です。この酵素はGL-3(グロボトリアオシルセラミド)という糖脂質を分解する働きを持ちますが、活性が不十分だと分解されなかったGL-3が全身の細胞や組織、臓器に蓄積していきます。​
ゴーシェ病は酸性β-グルコシダーゼ(EC 3.2.1.45)の欠損活性による最も多いライソゾーム蓄積疾患で、グルコシルセラミドや合成β-グルコシドのグルコシド結合を切断する加水分解酵素の異常が原因です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC323143/

ポンペ病(type II glycogenosis)はα-グルコシダーゼの先天性欠損症として知られ、グリコーゲン分解能が障害されることで著明なグリコーゲン蓄積症を引き起こします。α-グルコシダーゼはα-配糖体結合に作用して加水分解する酵素で、マルトースなどのオリゴ糖やグリコーゲンのような多糖にも作用します。
参考)α-グルコシダーゼ a-Glucosidase (臨床検査 …

加水分解酵素を利用した酵素補充療法の原理

多くのライソゾーム加水分解酵素は、末端にマンノース6リン酸(M6P)と呼ばれる糖鎖構造を持ち、細胞内のゴルジ体と細胞表面の膜構造中にこの糖鎖と結合するマンノース6リン酸受容体が存在します。細胞膜表面にあるマンノース6リン酸受容体は、細胞外に存在する加水分解酵素を細胞内に取り込み、さらにライソゾーム内に輸送します。
参考)酵素補充療法

酵素補充療法はこの輸送系を利用して、欠損している酵素を薬剤として体外から投与することにより、細胞内に欠損酵素を補充し、ライソゾーム内に蓄積している物質の分解を促進する治療法です。この治療法は、ファブリー病、ゴーシェ病、ポンペ病、ムコ多糖症などの代表的なライソゾーム病に対して適用されています。​
酵素加水分解によるタンパク質の分解では、ペプチド結合を切断するプロテアーゼが利用されます。酵素加水分解は化学的加水分解よりも特異的で条件が穏やかな方法であり、アミノ酸だけでなく原材料から由来する他の有益な化合物も最終製品に含めることができます。酵素は天然の物質でL体アミノ酸で構成されているため、ラセミ化が起きず、L体アミノ酸のみが得られる利点があります。
参考)【科学的/徹底解説】アミノ酸バイオスティミュラントとは? 技…

加水分解酵素の臨床検査マーカーとしての応用

血液中の加水分解酵素活性は、さまざまな疾患の診断や病態把握に重要なバイオマーカーとして活用されています。従来の検査では酵素活性を集団として測定していましたが、最近では1分子レベルで酵素活性異常を検出する新しい技術が開発されています。
参考)疾患と関わる血液中の酵素活性異常を「1分子」レベルで見分ける…

アルカリホスファターゼ(ALP)は肝臓障害のマーカーとして広く用いられており、由来組織に応じて異なるサブタイプが血液中に放出されます。3色の異なる波長を持つ蛍光色素を用いた蛍光プローブ群を開発することで、サブタイプのわずかな反応性の違いを見分けて1分子レベルで検出することが可能になりました。糖尿病患者血清中では小腸型ALP(ALPI)の活性が増大していることが観察されています。​
コリンエステラーゼ(ChE)の測定は肝機能の全体的な把握に有用で、肝硬変や慢性肝炎の重症度の評価に用いられます。血清中のコリンエステラーゼは偽性コリンエステラーゼであり、肝臓での代謝機能を反映します。検体中のChEはp-ヒドロキシベンゾイルコリンヨウ素塩を基質として加水分解し、生成されるp-ヒドロキシ安息香酸を酵素的に変換してβ-NADPHの減少を測定することで活性を求めます。
参考)ChE コリンエステラーゼ |製品案内| 株式会社セロテック

膵臓がんの早期診断では、血液中のさまざまなタンパク質加水分解酵素の活性異常を1分子レベルで網羅的に解析する方法が開発されており、早期の膵臓がん患者の血液中での特異な酵素活性異常が発見されています。この異常には膵臓や好中球によって産生されるエラスターゼ、がんの血管新生を促進するCD13(タンパク質のN末端アミノ酸を加水分解する酵素)、2型糖尿病の治療標的であるDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ)が含まれます。
参考)膵臓がんを早期発見できる血液中バイオマーカーの開発へ 糖尿病…

NAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ)は尿中に排泄される加水分解酵素で、腎尿細管障害の軽い時期である試験紙法での尿タンパクが陰性の時期から尿中に逸脱するため、腎病変の早期発見に有用です。腎移植後の経過観察や上部尿路感染の指標としても用いられます。​

加水分解酵素の新規医療応用と治療開発

加水分解酵素を活用した新規治療法や診断技術の開発が進んでいます。リキッドバイオプシーは血液・尿・唾液などの容易に入手可能な体液サンプル中の生体分子の解析に基づき病気を診断する手法で、安価で繰り返し検査が可能という利点があります。血液中の1分子レベルの酵素活性異常を検出することで、疾患の早期発見や層別化、治療効果のモニタリング、予後予測に有用な技術として期待されています。​
プロドラッグの設計では、ヒトカルボキシルエステラーゼの基質特異性を解明し、特定の臓器で選択的に代謝活性化されるプロドラッグモデルの開発が行われています。エステル近傍の構造やアシル基の立体障害を調節することで、肝臓ミクロソーム中で選択的に代謝活性化されるインドメタシンプロドラッグや作用持続型のハロペリドールプロドラッグが合成されています。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K15519/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K15519/amp;mdash; 研究課題をさがす

疾患と関わる血液中の酵素活性異常を「1分子」レベルで検出する技術(JSTプレスリリース)
この技術は従来の集団測定では発見できなかった微量タンパク質の検出や翻訳後修飾の違いを理解する新しい方法として注目されています。

 

酵素加水分解技術は食品産業においても重要な応用分野です。超音波前処理を併用した酵素加水分解では、酵素構造や基質構造に超音波が及ぼす効果により、加水分解効率が大幅に向上し、基質の生物活性が強化されます。この技術は生理活性物質の抽出や生体高分子の分解に主に使用されています。
参考)https://www.mdpi.com/2304-8158/12/21/4027/pdf?version=1699088280

グリコシダーゼとグリコシルトランスフェラーゼは、糖鎖構造を持つ医薬品や抗感染症活性を持つ糖鎖化合物の合成に利用されています。従来の化学合成法と比較して、酵素的合成法は環境に優しく、高純度の構造明確なオリゴ糖類似体を効率的に生産できる優れた戦略として位置づけられています。
参考)https://onlinelibrary.wiley.com/doi/pdfdirect/10.1002/bab.1919

リン酸エステル加水分解酵素の1分子活性検出技術の開発(国立がん研究センタープレスリリース)
この研究により、血液中に存在する酵素の構造的特徴が人工的に作られた酵素とは大きく異なることも明らかになりました。

 

環境浄化の分野では、PET(ポリエチレンテレフタレート)を分解する細菌が発見され、その加水分解酵素であるPETヒドロラーゼの研究が進められています。これは基質に対する特異性が向上した新規の加水分解酵素として、プラスチック分解技術への応用が期待されています。
参考)PETを分解する細菌の発見 : ライフサイエンス 新着論文レ…

 

 


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