近位尿細管と遠位尿細管の違い

腎臓のネフロンを構成する近位尿細管と遠位尿細管は、構造・機能・再吸収する物質が大きく異なります。それぞれの特徴や臨床的意義を理解することで、尿細管障害の診断や治療にどのように役立つのでしょうか?

近位尿細管と遠位尿細管の違い

近位尿細管と遠位尿細管の主な違い
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構造的特徴

近位尿細管は刷子縁(微絨毛)を持ち、遠位尿細管は緻密斑を形成します

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再吸収機能

近位では約70%の水・電解質とグルコース・アミノ酸を100%再吸収、遠位ではホルモン調節を受けた精密な調整を行います

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臨床的意義

近位障害ではFanconi症候群、遠位障害ではBartter症候群など特徴的な疾患が発生します

近位尿細管の構造的特徴と刷子縁

 

近位尿細管は糸球体のボーマン嚢に直接続く尿細管の最初の部分であり、ネフロン全体の中で最も活発な再吸収活動を行う領域です。この部位の最大の構造的特徴は、管腔側の上皮細胞表面に密集した微絨毛が形成する「刷子縁」と呼ばれる構造です。刷子縁は光学顕微鏡でも容易に観察でき、細胞の表面積を著しく増大させることで、大量に生成された原尿からの効率的な再吸収を可能にしています。
参考)尿細管について href="https://www.ikyo.jp/commu/question/707" target="_blank">https://www.ikyo.jp/commu/question/707amp;#8211; 医教コミュニティ つぼみクラ…

近位尿細管の細胞質には、再吸収活動に必要な大量のミトコンドリアが濃密に存在しており、これがナトリウム-カリウムポンプなどの能動輸送に必要なATPを供給しています。組織学的には、近位尿細管の細胞は遠位尿細管と比較して細胞の厚さが薄く、核の配列も疎らに見えるのが特徴です。近位尿細管は曲部と直部に分けられ、曲部は完全に腎皮質内に位置し、直部は髄質方向に進んでヘンレループへと続きます。
参考)https://cdn.jsn.or.jp/jsn_new/iryou/kaiin/free/primers/pdf/43_7.pdf

遠位尿細管の構造と緻密斑の役割

遠位尿細管は、ヘンレループの上行脚から続く尿細管であり、近位尿細管とは対照的に刷子縁を持たない構造です。遠位尿細管の細胞は、細胞質の下半部に丈の高い基底陥入がみられ、その中に大型のミトコンドリアが収まっています。組織学的には、遠位尿細管の細胞は近位尿細管よりも細胞の厚さが厚く、核が密に配列しているため、顕微鏡下では「きれいな」外観を呈します。
参考)近位尿細管 - Wikipedia

遠位尿細管の最も重要な構造的特徴は、腎小体の血管極に接する部位に形成される「緻密斑」です。緻密斑は遠位尿細管の上皮細胞が丈が高く、核が密集して配列する特殊な領域で、光学顕微鏡で見るとこの部位が濃く暗く染色されることからラテン語でmacula densa(密な斑点)と名づけられました。緻密斑細胞は遠位尿細管を流れる原尿のナトリウムイオン濃度を感知し、糸球体傍複合体からのレニン分泌を促進する役割を担っています。この機構は「尿細管糸球体フィードバック」と呼ばれ、糸球体濾過量を調節する重要なメカニズムです。
参考)https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse3603.pdf

近位尿細管における再吸収物質とその機序

近位尿細管は、糸球体で濾過された原尿の約70%の水とナトリウムを再吸収する主要な部位です。特筆すべきは、グルコース、アミノ酸、ビタミンは近位尿細管で100%再吸収されるという点です。これらの栄養素の再吸収は、ナトリウム-グルコース共輸送体(SGLT)などの輸送体を介して行われます。SGLT2は近位尿細管のS1セグメントに選択的に発現し、ナトリウムとグルコースを1:1の割合で共輸送することで、尿糖再吸収のおよそ90%を担っています。
参考)https://jsn.or.jp/journal/document/50_5/566-569.pdf

近位尿細管ではさらに、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、リン酸イオン、重炭酸イオンなどの電解質が約80%再吸収されます。この再吸収プロセスの根幹をなすのは、基底側細胞膜に存在するナトリウム-カリウムポンプによる一次性能動輸送です。細胞内のナトリウム濃度が低下することで、管腔側から細胞内へのナトリウム流入が促進され、それに共役して様々な溶質が細胞内に取り込まれる仕組みです。近位尿細管における再吸収の大部分は必須物質を血流に戻すための不可欠なプロセスであり、この機能が障害されると深刻な代謝異常が生じます。
参考)https://jspn01.umin.jp/kanja/files/kanja-ippan-nyousaikan.pdf

遠位尿細管とヘンレループにおける尿濃縮機構

遠位尿細管は、ヘンレループを経て低張になった尿に対して、さらに精密な調整を行う部位です。ヘンレループは、尿の濃縮力を有する鳥類と哺乳類にのみ存在する重要な構造であり、対向流増幅系という独特のメカニズムによって髄質の高浸透圧環境を作り出します。ヘンレループの上行脚では、水の透過性がないため、ナトリウムと塩素が間質へ能動的に輸送され、これが髄質浸透圧の上昇をもたらします。
参考)https://www.libroscience.com/pdf/cbt_7_sample.pdf

遠位尿細管では、主に水とナトリウムイオンの再吸収が行われますが、この過程は抗利尿ホルモン(ADH)やアルドステロンなどのホルモンによって厳密に制御されています。ADHは集合管での水の再吸収を促進し、尿の濃縮を調節します。アルドステロンは遠位尿細管でのナトリウム再吸収を促進し、カリウムの分泌を増加させます。ヘンレループと遠位尿細管を含むこの尿濃縮機構は、体液量と電解質バランスの恒常性維持に不可欠であり、この系の障害は尿濃縮能の低下や電解質異常をもたらします。
参考)https://jsn.or.jp/journal/document/60_8/1224-1228.pdf

近位尿細管障害とFanconi症候群の臨床像

近位尿細管の機能障害によって引き起こされる代表的な疾患がFanconi症候群です。Fanconi症候群は、近位尿細管の全般性溶質輸送機能障害により、本来近位尿細管で再吸収される物質が尿中へ過度に喪失する疾患群です。具体的には、グルコース、アミノ酸、リン酸、重炭酸、尿酸などの尿中喪失により、糖尿(血糖正常にもかかわらず尿糖陽性)、アミノ酸尿、低リン血症、代謝性アシドーシス、低尿酸血症などが生じます。
参考)ファンコーニ(Fanconi)症候群 概要 - 小児慢性特定…

Fanconi症候群の原因は多岐にわたり、先天性のものではDent病やミトコンドリア脳筋症が、後天性のものでは薬剤性(テノフォビル、抗がん剤など)や重金属中毒(カドミウム、鉛など)が主な原因です。臨床症状としては、電解質異常に伴う脱力感、食欲不振、嘔吐、脱水、手足のしびれなどが現れ、小児では成長障害やくる病を呈することがあります。診断には、尿検査でのグルコース、アミノ酸、リン酸の検出、血液検査での低リン血症や代謝性アシドーシスの確認が重要です。治療は原因の除去(薬剤中止など)と電解質補充などの対症療法が中心となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11341103/

遠位尿細管障害とBartter症候群・Gitelman症候群

遠位尿細管およびヘンレループの機能障害によって生じる代表的疾患が、Bartter症候群とGitelman症候群です。Bartter症候群は、太いヘンレループの尿細管上皮細胞膜に発現するチャネルあるいは輸送体をコードする遺伝子の変異により発症し、Gitelman症候群は遠位尿細管上皮細胞膜に発現する輸送体(NaCl共輸送体)の遺伝子変異により発症します。両疾患ともに低カリウム血症と代謝性アルカローシスを呈する先天性尿細管機能障害です。
参考)その他分野

Bartter症候群は通常新生児期から乳児期に発症し、Gitelman症候群は幼児期から学童期に発症しますが、無症状で一生を過ごすこともあります。Gitelman症候群ではさらに低マグネシウム血症と低カルシウム尿症も特徴的です。臨床症状は、電解質異常に伴う脱力感、筋症状、多飲・多尿が主症状であり、一部の病型では低身長などの成長障害、難聴を合併することもあります。治療は特異的なものは存在せず、カリウムやマグネシウムなどの電解質補充が中心となります。これらの疾患は遠位尿細管やヘンレループでの電解質再吸収障害により生じるものであり、近位尿細管障害とは異なる臨床像を呈することが診断上重要です。
参考)小児腎領域の難病

医療従事者が知るべき尿細管機能の臨床評価

医療従事者にとって、尿細管機能の評価は腎疾患の診断と管理において極めて重要です。近位尿細管機能の評価には、尿中β2ミクログロブリンやNAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ)などの尿細管性蛋白や酵素の測定が有用です。これらのマーカーは近位尿細管障害の早期発見に役立ちます。また、血糖が正常であるにもかかわらず尿糖陽性を認める場合や、低リン血症、低尿酸血症を認める場合は、近位尿細管障害を疑う必要があります。
参考)尿細管間質障害|東京女子医科大学病院 腎臓内科

遠位尿細管および集合管の機能評価には、尿濃縮能検査や尿希釈試験が用いられます。尿浸透圧の測定や水制限試験、抗利尿ホルモン(DDAVP)負荷試験などが実施されます。遠位尿細管障害では尿濃縮力が低下し、多尿や夜間頻尿を呈することがあります。薬剤性腎障害の評価も重要であり、抗菌薬、非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)、抗ウイルス薬アシクロビル)、抗がん剤などは尿細管障害を引き起こす可能性があるため、これらの薬剤使用時には腎機能と尿所見の定期的モニタリングが必須です。尿細管障害は尿検査で異常が出にくいため、腎機能障害(血清クレアチニン上昇)で初めて発見されることが多く、原因不明の腎機能低下を認めた場合には尿細管障害を鑑別に含めることが重要です。
参考)尿細管間質性腎炎 - 05. 腎臓と尿路の病気 - MSDマ…

 

 


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