ハロペリドールは1950年代に開発されたブチロフェノン系の定型抗精神病薬で、先発医薬品名「セレネース」として長年にわたり精神科臨床で使用されています。本薬の最大の特徴は、強力なドパミンD2受容体遮断作用にあります。
統合失調症の陽性症状である幻覚や妄想は、中脳辺縁系でのドパミン過活動が原因とされており、ハロペリドールはこのドパミン受容体を選択的に遮断することで症状改善を図ります。特に急性期の興奮状態や攻撃性に対して即効性があり、精神科救急場面では第一選択薬として位置づけられています。
効能・効果として承認されているのは以下の通りです。
ドパミン遮断作用の強さは、幻覚・妄想といった陽性症状に対する優れた治療効果をもたらしますが、同時に副作用リスクの高さにも直結しています。
ハロペリドールの使用において最も注意すべきは錐体外路症状です。これは黒質線条体系でのドパミン不足により生じる運動障害で、以下の症状が現れます。
急性期症状(投与開始数日~数週間):
慢性期症状(長期投与後):
錐体外路症状の発現頻度は用量依存的で、高用量・長期投与ほどリスクが高まります。特に遅発性ジスキネジアは不可逆的な場合があり、投与中止後も症状が持続することがあるため、定期的な評価が不可欠です。
対策として抗コリン薬(ビペリデン、トリヘキシフェニジル)の併用や、症状出現時の減量・薬剤変更が検討されます。
悪性症候群(Neuroleptic Malignant Syndrome: NMS)は、ハロペリドール使用時の最も重篤な副作用の一つです。発現頻度は0.1-1%程度と稀ですが、致命的となる可能性があるため早期発見・対応が重要です。
悪性症候群の主要症状:
悪性症候群が疑われる場合は、直ちにハロペリドールを中止し、体温管理、輸液、ダントロレンやブロモクリプチンの投与を行います。
循環器系では、QT延長による心室性不整脈のリスクがあります。特に以下の患者では注意が必要です。
定期的な心電図モニタリングと電解質補正が推奨されます。
ハロペリドールの強力なドパミン遮断作用は、下垂体前葉でのプロラクチン分泌抑制を解除し、高プロラクチン血症を引き起こします。この副作用は比較的高頻度で発現し、患者のQOLに大きく影響します。
高プロラクチン血症による症状:
女性患者:
男性患者:
高プロラクチン血症は用量依存的で、血中プロラクチン値の定期的な測定が推奨されます。対策として、用量調整、アリピプラゾールなどの部分アゴニストへの変更、またはカベルゴリンなどのドパミンアゴニストの併用が検討されます。
長期的には骨粗鬆症のリスクも高まるため、骨密度検査や適切な栄養指導も重要です。
ハロペリドールは多くの薬剤との相互作用を有するため、併用薬の確認と適切な管理が必要です。
禁忌・併用禁止薬:
重要な併用注意薬:
中枢神経抑制薬:
→ 相互に中枢抑制作用が増強
薬物代謝に影響する薬剤:
抗ドパミン作用薬:
その他の重要な相互作用:
併用薬の変更時は、ハロペリドールの血中濃度変動や副作用の変化に注意深く観察し、必要に応じて用量調整を行います。
日本精神神経学会の統合失調症薬物治療ガイドラインでは、これらの相互作用について詳細な記載があります。
日本精神神経学会の治療ガイドライン - 薬物相互作用の詳細な解説
ハロペリドールの適切な使用には、これらの副作用と相互作用を十分に理解し、定期的なモニタリングと適切な対応策を講じることが不可欠です。患者の安全性を最優先に、個別化された治療戦略の構築が求められます。