マルトースの効果と副作用:医療現場での適切な使用法

マルトースは医療現場で糖質補給剤として使用される二糖類ですが、その効果と副作用を正しく理解していますか?

マルトースの効果と副作用

マルトースの基本情報
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医療用途

二糖類・糖質補給剤として静脈内投与に使用

⚠️
重大な副作用

アナフィラキシーショック、血糖測定への影響

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臨床的注意点

血糖測定法の選択と適切な投与速度の管理

マルトースの薬理作用と治療効果

マルトースは麦芽糖とも呼ばれる二糖類で、医療現場では主に糖質補給剤として使用されています。この化合物はブドウ糖2分子が結合した構造を持ち、体内でα-グルコシダーゼによってブドウ糖に分解されます。

 

医療用マルトースの主な効果には以下があります。

  • エネルギー補給効果:体内でブドウ糖に分解され、細胞のエネルギー源として利用される
  • ケトン体抑制効果:ケトン体及び遊離脂肪酸の抑制効果が認められており、その効果はブドウ糖投与の場合と同等
  • 電解質バランス維持:適切な投与により体液・電解質バランスの維持に寄与

マルトース注射液は10%濃度で製剤化されており、薬価は211円/袋となっています。処方箋医薬品として厳格な管理下で使用される必要があります。

 

マルトースの重大な副作用と対処法

マルトース投与時に最も注意すべき重大な副作用はアナフィラキシーショックです。この副作用は頻度不明とされていますが、以下の症状が現れた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。

  • 呼吸困難
  • 血圧低下
  • 頻脈
  • 麻疹
  • 潮紅

その他の副作用として、以下が報告されています。
過敏症反応

  • 発疹
  • そう痒

大量・急速投与による副作用

  • 肺水腫
  • 浮腫
  • 末梢の浮腫
  • 電解質喪失

これらの副作用を防ぐためには、適切な投与速度の管理と患者の状態観察が不可欠です。特に大量投与や急速投与は避け、患者の循環動態を慎重に監視する必要があります。

 

マルトースが血糖測定に与える影響と注意点

マルトース投与時の重要な臨床的注意点として、血糖測定への影響があります。グルコース脱水素酵素(GDH)法を用いた血糖測定法では、マルトースが測定結果に影響を与え、実際の血糖値よりも高値を示す場合があることが報告されています。

 

この現象は以下のような重大な問題を引き起こす可能性があります。

  • 高血糖の表示:実際の血糖値よりも高い値が測定される
  • インスリン過量投与のリスク:偽高血糖に基づくインスリン投与により低血糖を来すおそれ
  • 治療方針の誤り:不正確な血糖値に基づく治療判断

対策として、マルトースを投与されている患者の血糖値測定には、マルトースの影響を受ける旨の記載がある血糖測定用試薬及び測定器は使用しないことが推奨されています。

 

PMDA医薬品情報:マルトース製剤の詳細な安全性情報

マルトースの薬物動態と投与方法

マルトースの薬物動態について、健康成人男性8例を対象とした研究では以下の結果が得られています。
血中濃度推移

  • 5%マルトース加乳酸リンゲル液をマルトース水和物として0.3g/kg/hrの速度で3時間静脈内投与
  • 投与終了時の血中マルトース水和物濃度:187mg/dL
  • その後指数関数的に減少

排泄動態

  • 投与開始8時間後までの尿中排泄率:総糖質として投与量の24.3%
  • 内訳:マルトース水和物として8.9%、ブドウ糖として15.4%

これらのデータから、マルトースは比較的速やかに代謝・排泄されることが分かります。投与速度は患者の状態に応じて調整し、急速投与は避けることが重要です。

 

適切な投与方法のポイント。

  • 投与速度の厳格な管理
  • 患者の循環動態の継続的監視
  • 電解質バランスの定期的確認
  • 残液の廃棄(再使用禁止)

マルトースの小児医療における特殊な応用

マルトースは成人の糖質補給だけでなく、小児医療においても特殊な用途があります。特に注目すべきは、乳幼児の便秘治療薬「マルツエキス」の主成分としての利用です。

 

小児における効果メカニズム

  • マルトースの穏やかな発酵作用が腸の蠕動運動を促進
  • 自然な排便を誘導する作用
  • 副作用の記載が見当たらない安全性の高さ

適用年齢と安全性

  • マルツエキスの用法・用量では「1歳以上3歳未満」が最上位年齢
  • 乳幼児向けの穏やかな効果効能
  • 成人の便秘には効果が限定的

この小児への応用は、マルトースの安全性プロファイルの高さを示す重要な例証となっています。ただし、医療用マルトース注射液と小児用マルツエキスは製剤が異なるため、適応や投与方法を混同しないよう注意が必要です。

 

虫歯予防効果の誤解
一般的に「マルトース=虫歯になりにくい」というイメージがありますが、これは誤解です。虫歯予防効果があるのは還元麦芽糖であり、通常のマルトースは砂糖やブドウ糖と同様にミュータンス菌のエサになってしまいます。

 

医療従事者として患者や家族に説明する際は、この点を明確に区別して伝えることが重要です。特に小児の保護者に対しては、マルトース含有製品が必ずしも虫歯予防につながらないことを説明し、適切な口腔ケアの重要性を強調する必要があります。

 

KEGG医薬品データベース:マルトース製剤の詳細情報