マルトースは麦芽糖とも呼ばれる二糖類で、医療現場では主に糖質補給剤として使用されています。この化合物はブドウ糖2分子が結合した構造を持ち、体内でα-グルコシダーゼによってブドウ糖に分解されます。
医療用マルトースの主な効果には以下があります。
マルトース注射液は10%濃度で製剤化されており、薬価は211円/袋となっています。処方箋医薬品として厳格な管理下で使用される必要があります。
マルトース投与時に最も注意すべき重大な副作用はアナフィラキシーショックです。この副作用は頻度不明とされていますが、以下の症状が現れた場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
その他の副作用として、以下が報告されています。
過敏症反応
大量・急速投与による副作用
これらの副作用を防ぐためには、適切な投与速度の管理と患者の状態観察が不可欠です。特に大量投与や急速投与は避け、患者の循環動態を慎重に監視する必要があります。
マルトース投与時の重要な臨床的注意点として、血糖測定への影響があります。グルコース脱水素酵素(GDH)法を用いた血糖測定法では、マルトースが測定結果に影響を与え、実際の血糖値よりも高値を示す場合があることが報告されています。
この現象は以下のような重大な問題を引き起こす可能性があります。
対策として、マルトースを投与されている患者の血糖値測定には、マルトースの影響を受ける旨の記載がある血糖測定用試薬及び測定器は使用しないことが推奨されています。
マルトースの薬物動態について、健康成人男性8例を対象とした研究では以下の結果が得られています。
血中濃度推移
排泄動態
これらのデータから、マルトースは比較的速やかに代謝・排泄されることが分かります。投与速度は患者の状態に応じて調整し、急速投与は避けることが重要です。
適切な投与方法のポイント。
マルトースは成人の糖質補給だけでなく、小児医療においても特殊な用途があります。特に注目すべきは、乳幼児の便秘治療薬「マルツエキス」の主成分としての利用です。
小児における効果メカニズム
適用年齢と安全性
この小児への応用は、マルトースの安全性プロファイルの高さを示す重要な例証となっています。ただし、医療用マルトース注射液と小児用マルツエキスは製剤が異なるため、適応や投与方法を混同しないよう注意が必要です。
虫歯予防効果の誤解
一般的に「マルトース=虫歯になりにくい」というイメージがありますが、これは誤解です。虫歯予防効果があるのは還元麦芽糖であり、通常のマルトースは砂糖やブドウ糖と同様にミュータンス菌のエサになってしまいます。
医療従事者として患者や家族に説明する際は、この点を明確に区別して伝えることが重要です。特に小児の保護者に対しては、マルトース含有製品が必ずしも虫歯予防につながらないことを説明し、適切な口腔ケアの重要性を強調する必要があります。