リボソームは細胞内でタンパク質合成を行う細胞小器官であり、大サブユニット(60Sサブユニット)と小サブユニット(40Sサブユニット)の2つの構成要素から成り立っています。これらのサブユニットにはリボソームRNA(rRNA)とリボソームタンパク質(RP)が含まれており、真核生物の大サブユニットには28S、5.8S、5S rRNAが、小サブユニットには18S rRNAが存在します。リボソームは膜構造を持たない特徴があり、核小体で作られたrRNAと、細胞質で作られ核に送り込まれたタンパク質から構成され、再び細胞質に送り返されます。
参考)リボソームやゴルジ装置の役割は何?|細胞の構造と遺伝 
ゴルジ体は、平たい袋状の膜構造(槽)が積み重なった層板構造を持つ細胞小器官であり、小胞体から輸送されたタンパク質を受け取って修飾・選別する機能を担います。ゴルジ体の槽には極性があり、小胞体側のシス槽、中間のメディアル槽、出口側のトランス槽に分類され、それぞれに異なる糖転移酵素が局在しています。哺乳類細胞では、複数のゴルジスタックが核周囲でリボン状に連結した特徴的な構造を形成します。
リボソームには粗面小胞体に付着したものと細胞質に遊離したものがあり、前者は分泌タンパク質や膜タンパク質の合成を担当し、後者は細胞内で使用される日常的なタンパク質を合成します。粗面小胞体の表面にはリボソームが多数付着しており、その存在により電子顕微鏡で粗い外観を呈するため粗面小胞体と呼ばれています。
参考)Introduction
ゴルジ体の主要な機能は、小胞体から運ばれてきたタンパク質に対する翻訳後修飾、特に糖鎖の付加と修飾です。分泌タンパク質や細胞膜タンパク質は小胞体で初期的な糖鎖付加を受けた後、COPII被覆小胞によってゴルジ体のシス面に輸送されます。ゴルジ体内では、タンパク質がシス槽からメディアル槽、トランス槽へと段階的に移動しながら、各区画に局在する特異的な糖転移酵素により順次糖鎖修飾を受けます。
参考)Journal of Japanese Biochemica…
ゴルジ体での糖鎖修飾には、N-グリコシド結合型糖鎖とO-グリコシド結合型糖鎖の2種類があり、N-糖鎖はアスパラギン残基のアミド窒素に、O-糖鎖はセリンやトレオニン残基の水酸基の酸素原子に結合します。これらの糖鎖修飾は、タンパク質の立体構造の安定化、細胞間認識、免疫応答など多様な生物学的機能に関与しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5710388/
トランスゴルジ網(TGN)では、修飾を完了したタンパク質の選別が行われ、それぞれの最終目的地である細胞膜、リソソーム、または細胞外へと輸送されます。この選別過程では、タンパク質に付加された特定の配列や修飾が認識シグナルとして機能し、適切な輸送小胞に仕分けられます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/56/4/56_201/_pdf
リボソームは、メッセンジャーRNA(mRNA)の遺伝情報を読み取り、それに基づいてアミノ酸をペプチド結合で連結させるタンパク質合成の場です。mRNAは核内でDNAから転写された遺伝情報のコピーであり、リボソームの小サブユニットに結合します。リボソームにはA部位(アミノアシルtRNA結合部位)、P部位(ペプチジルtRNA結合部位)、E部位(出口部位)の3つのtRNA結合部位があり、これらを通じて順次アミノ酸が運搬され、ペプチド鎖が伸長していきます。
分泌タンパク質や膜タンパク質の合成においては、リボソームは粗面小胞体の膜上に付着し、合成されつつあるタンパク質が小胞体内腔に挿入されます。この過程は、新生タンパク質のN末端に存在するシグナル配列が認識されることで開始され、シグナル認識粒子(SRP)がリボソームを小胞体膜上のSRP受容体に誘導します。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/209d6028e9f25420da0cc5a96512affc5f1bab21
粗面小胞体内腔に入ったタンパク質は、分子シャペロンによる折りたたみ補助や、初期的な糖鎖付加などの修飾を受けながら、小胞体を通ってゴルジ体へと輸送されます。この輸送は、小胞体膜の一部がタンパク質を包み込んで小胞として切り離され、ゴルジ体と融合することで実現されます。
参考)【高校生物】「小胞体とゴルジ体」 
ゴルジ体の機能不全は、様々な疾患の発症に関与することが明らかになっています。ゴルジ体の構造や機能の異常は、タンパク質の糖鎖修飾異常を引き起こし、糖鎖合成異常症の原因となります。特に、神経変性疾患においては、ゴルジ体の断片化が報告されており、パーキンソン病やアルツハイマー病などでゴルジ体の形態変化が観察されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7291852/
近年の研究では、ゴルジ体関連分解(GOMED)と呼ばれる新しいタンパク質品質管理機構が発見され、この機構の破綻が神経変性疾患様の症状を引き起こすことが示されています。神経細胞特異的にGOMEDが破綻したマウスでは、姿勢保持や歩行に障害が生じ、鉄の沈着を伴う神経変性が観察されました。また、ゴルジ体の異常蓄積が炎症を過剰に促進し、自己炎症性疾患の症状を引き起こす例も報告されています。
参考)https://www.jsps.go.jp/file/storage/kaken_12_g726/r_5_jp_23h05480.pdf
リボソームの異常もまた、「リボソーム病」と呼ばれる疾患群を引き起こします。代表的な疾患であるダイアモンド・ブラックファン貧血(DBA)は、リボソームタンパク質をコードする遺伝子の異常により、赤血球造血が特異的に障害される先天性疾患です。リボソームタンパク質RPS19遺伝子の変異がDBA患者の約25%で認められており、構成因子の遺伝子変異が組織特異的な異常を引き起こすメカニズムの解明が進められています。その他にも、角化不全、骨格異常、脾臓や肝臓の異常を示す疾患がリボソーム病に含まれ、最近ではがん発症との関連も明らかになりつつあります。
参考)研究テーマ 
ゴルジ体とリボソームは、細胞内のタンパク質合成から分泌に至る一連の過程において密接に連携しています。この連携システムの中心には小胞体が位置し、リボソームで合成されたタンパク質を受け取り、ゴルジ体へと輸送する役割を担います。粗面小胞体に付着したリボソームで合成されたタンパク質は、まず小胞体内腔に取り込まれ、小胞体内を移動しながらゴルジ体へと運ばれます。
ゴルジ体では、小胞体から届いたタンパク質を濃縮し、さらに高度な修飾を施します。タンパク質はゴルジ体内を段階的に移動する過程で濃度が高まり、最終的にゴルジ小胞として切り離されます。このゴルジ小胞は細胞膜と融合することで、内部のタンパク質を細胞外に分泌します。
参考)【高校生物基礎】「小胞体とゴルジ体」 
この一連の輸送システムは、核→リボソーム→小胞体→ゴルジ体→細胞膜という明確な方向性を持ち、各段階で品質管理が行われます。小胞体とゴルジ体の間には中間区画(ERGIC)が存在し、タンパク質の正確な輸送を調節しています。また、脂質の輸送においても、ゴルジ体は非小胞性輸送と小胞性輸送の両方を利用し、細胞膜の組成と機能を制御しています。
参考)https://www.mdpi.com/2073-4409/11/3/368
このような複雑な輸送ネットワークの理解は、疾患メカニズムの解明や新たな治療法の開発につながると期待されています。特に、ゴルジ体の機能を標的とした抗がん剤の開発や、リボソーム病に対する治療戦略の構築が進められており、これらの細胞小器官の重要性はますます高まっています。
参考)https://www.vecof.or.jp/30th_anniversary_report/CONTENTS/C/H28_076.pdf