通常の急性扁桃炎は適切な治療により1〜2週間で治癒するため、1ヶ月以上症状が持続する場合は特別な注意が必要です。
主な原因:
慢性扁桃炎の診断基準として、年間4回以上の急性扁桃炎の反復や、持続的な咽頭違和感・微熱・頸部リンパ節腫脹が挙げられます。
特に注意すべきは、扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍への進展です。これらの合併症では治療期間が数週間に及ぶことがあり、適切な診断と治療が遅れると重篤な深頸部感染へと進行する可能性があります。
1ヶ月続く扁桃炎の診断には、詳細な検査による原因特定が不可欠です。
必要な検査項目:
鑑別すべき疾患:
特筆すべきは、慢性扁桃炎患者の扁桃組織における生物学的特徴です。最近の研究では、慢性扁桃炎患者の79%で複数菌種による混合感染が認められ、特にStaphylococcus aureusがバイオフィルム形成能を示すことが報告されています。このバイオフィルム形成により抗菌薬の浸透が阻害され、治療抵抗性の一因となっています。
1ヶ月続く扁桃炎の治療では、従来の治療法の見直しと個別化医療が重要です。
第一選択治療:
難治例での治療選択肢:
治療期間の目安:
溶連菌感染では抗菌薬開始後24-48時間で症状改善が見られ、10-14日間の治療継続が必要です。しかし、1ヶ月続く例では最低3-4週間の治療期間を要することが多く、症状改善後も2週間程度の治療継続が推奨されます。
興味深い治療法として、日本で開発された上咽頭擦過療法(EAT: Epipharyngeal Abrasive Therapy)があります。この治療法は慢性上咽頭炎に対する治療ですが、IL-6などの炎症性サイトカインを有意に減少させることが報告されており、慢性扁桃炎の補助療法として注目されています。
保存的治療に抵抗する慢性扁桃炎では、手術療法の検討が必要になります。
扁桃摘出術の適応基準:
病巣感染のメカニズム:
扁桃は全身の免疫系と密接に関連しており、慢性炎症により産生される抗体が分子模倣現象を通じて自己組織を攻撃することがあります。特にIgA腎症との関連は強く、扁桃摘出により約80%の症例で血尿の改善が認められています。
手術の実際:
口蓋扁桃摘出術は全身麻酔下で行われ、手術時間は平均1時間、入院期間は10日前後です。術後合併症として出血(5-10%)、感染(2-5%)、瘢痕形成による嚥下障害(1%未満)があります。
最近の研究では、扁桃摘出術後の免疫機能への長期的影響について議論されていますが、成人では免疫機能の有意な低下は認められておらず、むしろ全身の炎症状態の改善により免疫バランスが正常化することが多いとされています。
1ヶ月続く扁桃炎の治療において、薬物療法と並んで重要なのが患者教育と生活指導です。
生活指導のポイント:
職業上の配慮事項:
医療従事者や教職員など、人との接触が多い職業では感染リスクが高いため、以下の対策が重要です。
再発予防のための長期管理:
慢性扁桃炎の再発予防には、以下の長期管理が効果的です。
興味深い知見として、最近の研究では扁桃炎患者の口腔内細菌叢の多様性が健常者と比較して有意に低下していることが報告されています。この細菌叢の不均衡(ディスバイオーシス)が慢性化の一因となっている可能性があり、プロバイオティクス療法の有効性の根拠となっています。
また、心理的ストレスが扁桃炎の慢性化に与える影響も注目されています。慢性疼痛によるストレスが視床下部-下垂体-副腎系を活性化し、コルチゾール分泌の異常を引き起こすことで免疫機能の更なる低下を招く悪循環が形成される可能性があります。
扁桃炎が1ヶ月以上続く場合には、単なる感染症としてではなく、全身の免疫状態や基礎疾患、生活習慣を含めた包括的な評価と治療が必要です。早期の適切な介入により、慢性化を防ぎ、患者のQOL向上を図ることができます。