扁桃肥大とは、口蓋扁桃(こうがいへんとう)、一般的に扁桃腺と呼ばれる組織が通常より大きくなった状態を指します。扁桃は、のどちんこ(口蓋垂)の両側に位置するリンパ組織で、外部から侵入する病原体やウイルスから体を守る免疫機能を担っています。
扁桃肥大は、その大きさによって3段階に分類されます。
特に小児期においては、扁桃は生理的に大きい傾向があり、第1度肥大であれば特に症状が現れないことも多くあります。これは成長過程の正常な現象であり、多くの場合6〜7歳頃にピークを迎え、中学生頃には自然と縮小していきます。
扁桃と混同されがちな組織に「咽頭扁桃(アデノイド)」があります。こちらは喉の奥の上部に位置し、口からは見えない部分にあるリンパ組織です。扁桃肥大の場合、アデノイドも同時に肥大していることが多く、両者が合わさって症状を引き起こすケースもあります。
扁桃肥大の原因は大きく2つに分けられます:生理的肥大と病的肥大です。
生理的肥大は、子どもの成長過程で自然に起こる現象です。扁桃は生まれつきの体質により、幼少期から学童期にかけて最も活発に働き、それに伴って大きくなります。これは免疫システムの発達に関連するもので、通常6〜7歳頃に最大サイズに達し、その後徐々に縮小していきます。この種の肥大は時間の経過とともに自然に改善するため、特別な治療を必要としないことが多いです。
病的肥大は、繰り返される炎症や感染によって引き起こされます。扁桃は口や鼻から侵入する病原体を捕らえる役割を持つため、細菌やウイルスに感染すると炎症を起こして腫れることがあります。特に子どもは免疫力が発達途上であるため、風邪などの感染症にかかりやすく、扁桃が炎症を起こす頻度も高くなります。繰り返し炎症を起こすと、扁桃が慢性的に肥大した状態になることがあります。
扁桃肥大が起こるメカニズムとしては、病原体に対する防御反応として扁桃内のリンパ球が活性化し、組織が増殖することが挙げられます。これは本来、体を守るための正常な反応ですが、過剰に反応し続けると扁桃が必要以上に肥大化することになります。
扁桃肥大の発生リスクを高める要因としては、以下のようなものがあります。
特に小児期は免疫系が発達途上のため、これらの要因の影響を受けやすく、扁桃肥大が起こりやすい時期といえます。
扁桃肥大の最も顕著な症状の一つが睡眠に関する問題です。肥大した扁桃は気道を狭くするため、睡眠中にさまざまな障害を引き起こします。
いびきと睡眠時無呼吸症候群
扁桃が肥大すると、空気が通過する経路が狭くなるため、呼吸時に空気の抵抗が増加します。これによりいびきの原因となり、重度の場合は睡眠時無呼吸症候群を引き起こします。睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が一時的に停止してしまう状態で、特に子どもの場合、成長ホルモンの分泌や脳の発達に影響を与える可能性があります。
扁桃肥大による睡眠時無呼吸の特徴
などが挙げられます。
日中の症状と長期的影響
睡眠の質が低下することで、日中にもさまざまな症状が現れます。
さらに、長期間にわたって適切な睡眠が得られないことで、子どもの成長発達にも影響が及ぶことがあります。睡眠中には成長ホルモンが多く分泌されるため、質の良い睡眠が妨げられると、身体的な成長が阻害される可能性があります。
また、慢性的な睡眠障害は免疫機能の低下にもつながり、扁桃肥大がさらに悪化するという悪循環を生み出すことがあります。このように、扁桃肥大による睡眠障害は単なる夜間の問題にとどまらず、子どもの日中の活動や長期的な健康・発達にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、適切な対応が重要です。
扁桃肥大の治療法は、症状の程度や原因、患者の年齢などに応じて選択されます。基本的な治療アプローチは以下の通りです。
経過観察
軽度の扁桃肥大で、日常生活に支障がない場合は、特別な治療を行わず経過観察が基本となります。特に小児の生理的肥大の場合、成長とともに自然に縮小することが多いため、無症状であれば積極的な治療は必要ありません。定期的に耳鼻咽喉科を受診し、状態の変化をチェックすることが推奨されます。
薬物療法
扁桃肥大が炎症や感染によるものである場合、抗生物質などの薬物治療が行われます。特に急性の扁桃炎では、適切な抗菌薬の使用により炎症を抑え、症状の緩和を図ります。ただし、この治療は一時的な炎症の緩和には効果的ですが、慢性的な扁桃肥大そのものを完全に改善するわけではありません。
手術療法(扁桃摘出術)
扁桃肥大が重度であり、以下のような状況がある場合には、手術による扁桃の摘出が検討されます。