頸部リンパ節腫脹の正確な読み方は「けいぶりんぱせつしゅちょう」です 。医学用語として、「頸部」は「けいぶ」、「リンパ節」は「りんぱせつ」、「腫脹」は「しゅちょう」と読み、それぞれに重要な意味があります。頸部リンパ節腫脹とは、首(頸部)に存在するリンパ節が何らかの原因により正常な大きさ(通常直径1cm以下)を超えて腫大した状態を指します 。
参考)頸部リンパ節腫脹
リンパ節腫脹という用語の「腫脹」は単なる腫れではなく、病理学的な変化を伴う腫大を意味し、炎症や腫瘍などの病的状態を示唆します 。頸部には左右合わせて約200個のリンパ節が存在し、これらは体を感染から守る重要な免疫機能を担っています 。正常なリンパ節は豆のような形状で、触知困難な小さなサイズですが、病的状態になると大きさ、硬さ、可動性などが変化します 。
参考)首が腫れる
頸部リンパ節腫脹の原因は大きく炎症性疾患と腫瘍性疾患に分類され、それぞれ異なる特徴と治療法があります 。炎症性疾患では、急性リンパ節炎が最も頻度が高く、ウイルスや細菌感染により引き起こされます 。急性リンパ節炎では発熱、咽頭痛、圧痛を伴うことが多く、風邪や扁桃炎などの上気道症状が先行する場合がほとんどです 。
参考)頸部(けいぶ)腫脹
腫瘍性疾患による頸部リンパ節腫脹には、悪性リンパ腫と転移性腫瘍があります 。悪性リンパ腫による腫脹は弾性硬で無痛性、両側性・多発性の特徴を示し、内部は比較的均一な軟部濃度を呈します 。転移性腫瘤では、頭頸部癌からの転移が最も多く、胃癌、肺癌、食道癌、乳癌などの遠隔転移も報告されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/122/1/122_29/_pdf/-char/ja
慢性リンパ節炎では、急性リンパ節炎が適切に治癒しない場合に発生し、リンパ節の周辺組織との癒着や化膿を伴うことがあります 。結核性リンパ節炎や亜急性壊死性リンパ節炎など、特殊な病態も頸部リンパ節腫脹の原因として重要です 。
参考)頸部リンパ節が腫れる原因とは?疑われる病気を解説
頸部リンパ節の解剖学的分類は診断において極めて重要で、頭頸部領域の第一次リンパ節の多くが頸部に位置しています 。頸部のリンパ節は部位により分類され、オトガイ下リンパ節(1群)、顎下リンパ節(2群)、前頸部リンパ節(3群)、内深頸リンパ節(4~7群)に区分されます 。各群のリンパ節は特定の解剖学的構造からのリンパ流を受けるため、腫脹部位から原発巣を推定することが可能です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbes1950/38/6/38_6_528/_pdf
内深頸リンパ節は頸動脈、内頸静脈に沿って配置され、上内深頸リンパ節と下内深頸リンパ節に細分されます 。前頸部リンパ節は喉頭、気管、甲状腺周辺に存在し、これらの臓器の病変により腫脹します。超音波検査では、正常リンパ節の内部構造と血流パターンを評価することで、炎症性変化と悪性変化の鑑別が可能です 。
参考)http://www.gakkai.co.jp/jibika120/handson/handson_basic04.pdf
リンパ節の形状、エコー輝度、内部血流の評価により、反応性腫脹、転移巣、壊死、石灰化などの病理学的変化を診断できます 。CT検査やMRI検査では、リンパ節の大きさ、形状、内部構造、造影効果などを詳細に評価し、悪性疾患の鑑別診断に有用な情報を提供します 。
参考)検査・診断について - リンパ腫のお話
頸部リンパ節腫脹の鑑別診断では、患者の年齢、性別、症状の経過、随伴症状などの臨床情報が重要です 。血液検査では、白血球数、CRP、LDH、sIL-2R(可溶性インターロイキン-2レセプター)、β2ミクログロブリンなどの腫瘍マーカーを測定します 。これらの検査値は悪性リンパ腫や他の血液疾患の診断に有用で、特にsIL-2Rは悪性リンパ腫の診断率向上に寄与します 。
参考)頸部リンパ節腫脹での可溶性IL-2受容体値による悪性リンパ腫…
超音波検査は非侵襲的で反復可能な検査法として、リンパ節の形態評価に広く用いられます 。正常リンパ節は楕円形で皮質と髄質の境界が明瞭ですが、悪性変化により円形化し、内部構造の変化を示します。CT検査では、造影剤の使用により血管とリンパ節の関係、内部の壊死性変化、石灰化などを評価できます 。
参考)首の症状
確定診断には細胞診や組織診が必要で、細針吸引細胞診(FNA)やリンパ節生検が施行されます 。特に悪性リンパ腫の診断では、リンパ節の完全摘出による病理組織学的検査が金標準とされます 。免疫組織化学染色やフローサイトメトリー、遺伝子検査により、リンパ腫の亜型分類と治療方針の決定が行われます。
参考)リンパ節腫脹
頸部リンパ節腫脹の治療は原因疾患により大きく異なり、炎症性疾患では抗生物質、抗炎症薬、ステロイドなどの薬物療法が主体となります 。急性リンパ節炎では、ペニシリン系やセファロスポリン系抗生物質が第一選択とされ、通常1~2週間で改善します 。黄色ブドウ球菌や化膿性連鎖球菌による感染では、クリンダマイシンやバンコマイシンなどの抗MRSA薬が使用される場合もあります 。
悪性リンパ腫による頸部リンパ節腫脹では、病理組織型とステージに応じた化学療法が施行されます 。ホジキンリンパ腫ではABVD療法、非ホジキンリンパ腫ではR-CHOP療法が標準治療とされています。放射線治療は限局期の症例や化学療法後の地固め療法として併用されることがあります 。
参考)悪性リンパ腫ステージ4の余命とは?治療法や転移について解説
転移性頸部リンパ節腫脹では、原発巣の治療と並行して頸部郭清術が検討されます 。予後は原発巣の組織型、TNM分類、転移リンパ節の個数と部位により決定され、早期発見・早期治療が重要です。亜急性壊死性リンパ節炎では抗生物質は無効で、ステロイドや消炎鎮痛剤による対症療法が行われ、多くの症例で1~3ヶ月以内に自然治癒します 。
参考)がん転移の3つの経路。悪性リンパ腫とリンパ転移の違いなど